41.5話〈閑話〉 バスボール
5歳の女の子ミヨの母は、ママ友と『バスボール』の話をした。
『マスコット入りバスボール』である。
「高いのに、ねだられるのよ」
と言うママ友の話に頷きつつ、『ミヨにはないな……』と思った。
ママ友と別れた後に考える。
(ミヨちゃん、お風呂のときに入浴剤を入れるのは好きで、毎日入れているけど。
でもマスコット入りバスボール、買ったことないわ)
『存在を知らないのかも知れない』と思った。
いや、少女アニメの間のコマーシャルでやっているから、存在は知っているか。
と言うことは『テレビの中には存在するが、自分の周りにはないもの』と思っているのかもしれない……。
今度一度買ってあげよう、と思った。
(でも、しょっちゅうねだられたら困るけど……)
※※※
その日のうちに、ミヨの母はスーパーの『マスコット入りバスボール売り場』にミヨを連れて行った。
「ミヨちゃん、入浴剤をお風呂に入れるの、好きでしょ?
これ、中におもちゃが入っている○ブ(※炭酸入浴剤)よ」
と説明してやるとミヨは目を丸くした後、商品棚を指差しつつ、
「これ、どれでも、かっていいの?」
「うん、いいわよ、一つだけね」
ミヨは真剣にバスボールのラインナップを見つめ始めたが……
(確かに私、入浴剤をお風呂に入れるのが好きだけど……。
それは『一番風呂は身体に悪いから、入浴剤を入れると良い』と聞くから入れているのであって、こんな高いバスボールが欲しいわけじゃなかったの……)
申し訳ない気持ちになるミヨ。
真剣に選んで、
「これにする」
選んだものを取り母に手渡すと、母はそれを見て
「可愛いわね」
と褒めた。
「何が出るかなあ?」
バスボールの中身――マスコット――は何種類かあり、バスボールを溶かしてみないとわからないのだ。
「りんごのやつがいいな」
とミヨは言った。
その夜お風呂にバスボールを入れると、見事『りんごのやつ』が出た。
そのマスコットには小さな穴が空いている。ストラップひもを付けることができるのだ。
「かわい~」
(可愛い)
とミヨは実際思った。
欲しいとは特に思っていなかったが、いざ実物を見ると『可愛い』と思う、そう言うものである。
「可愛いわね~」
と母も何だか嬉しそうに言った。
「かばんにつけられる?」
「ストラップのひも、買ってこようね」
と言う母にミヨは「うん!」と返事しつつ、
(バスボール、高いけど。
このマスコットをカバンに付けて、長く使えたら良いな……)
ミヨは5歳児ながら既に物持ちが良かった。
※※※
お風呂上がり。
母はミヨの髪をドライヤーで乾かしつつ今日のママ友との会話を再び思い出した。
(バスボールとお風呂繋がりで、
『子どもがドライヤーを嫌がる話』もしたけど。
ミヨは嫌がったことないな)
ミヨの母は時々
『自分が高圧的な母親だから、ミヨは他の子どもに比べて素直なのではないか?』
と悩んだりもしたが。
『自分では気づけない、高圧的なところ、冷たいところが自分にはあるのではないか?』
と思って周りに聞いてもみたが、その答えはいつも『全くそんなことない』であった。
皆が皆、『自他共に認めて良い優しい母親だ』と言ってくれるので、あまり悩むのはやめようと最近では思っていたが……。
あまり物を欲しがってねだることがない。
日焼け止めクリームを嫌がらない。
ドライヤーを嫌がらない。
などなど……
ミヨは『とっても良い子』だと思うが……
(ミヨちゃんって、逆に変わっているのかもね)
と母はクスッと笑みをこぼし、そんな自分に『少しだけ余裕と言うか、「なるようになる」みたいな感覚が付いたかな』と思った。




