37.5話〈閑話〉 マンゴー
5歳の男の子シュンは母親に箱の中身を見せられた。
箱には赤い果物が2個入っていた。
シュンは興味深げに取り出して触る。
「マンゴーもらったのよ」
と言う母はシュンの目からもわかるくらい、ウキウキしていた。
母は夫に顔を向け
「マンゴーなんてあんまり食べられないから嬉しいわ」
「いや、食べようと思えば食べられるだろ」
とシュンの父が苦笑すると、母は肩をすくめ
「まあ、思い切って買おうと思えば買えるかもしれないけど、そのお金で別の安い果物がたくさん食べられると思っちゃうと、そっちの方を選んでしまう性分なのよね、私……」
と誰にともなく言った後、
「だからこう言うマンゴー『そのもの』を食べるの久し振り。
デザートに入っているような角切りのマンゴーはたまに食べるけどね」
シュンに笑いかける。
「シュンくんもこう言うマンゴー初めてでしょ。
とっても美味しいのよ」
「そうなんだ!」
(まあ。
普通に美味しかろうな)
とシュンは思った。
(今の時代、何でも『普通に美味しい』ものだ。
逆に『普通に不味い』ものの方が少ないくらいだろう)
母はネットでマンゴーの切り方を調べ、しばらく台所で格闘していた。
その後シュンの目の前にマンゴーが……。
「いただきます!」
シュンは一口大のマンゴーを口に入れた。
「!?」
(これは……)
「おいしい!」
シュンが叫ぶと、
「でしょ」
と母が笑う。
「たくさん食べてね」
「うん!」
(何だコレは……。
食べたことがない味だ……。
いや、『似た味』は食べたことがあるが――『桃』に似ている。
しかし、これは……ビックリしたぞ)
シュンはもはや『食べ物でビックリ』することはほとんどなかった。
ほとんど全てのものは『普通に美味しい』――『想定の範囲内で美味しい』と思っていた。いや、それで良いのだが。
しかし……
(これはうまい)
シュンはマンゴーを食べ終わった。
「とってもおいしかった!」
「そっか。
じゃあ、これからは毎年一個は食べないとね」
と母はニッコリした。
シュンは「うん!」と返事をしながら思った。
(このような『変わった味の美味しいもの』は食べたことがなかった。
まだまだ知らないことがあるものだなあ……)
もはや何もかも出尽くしているような気になってしまうものだが……
(生きておくものだ……)
シュンはしみじみ思うのだった。




