37話 梅干し
5歳の男の子シュンは祖父母宅にいた。
台所にたくさん置いてある『果物』を興味深げに見るシュンを見て、祖母はその中の一個をつかみシュンの鼻先に突き出した。
「シュンくん、これ良い匂いがするわよ」
シュンは匂いを嗅いだ。
「プラムの匂いがするでしょ?
シュンくん、プラムってわかる?」
シュンは首を傾げた。
『わかる』と言って良いものかわからなかったのだ。
(もちろん俺は『プラム』がわかる。
しかし言われてみるとこれまでの5年間には『プラム』を食べたことがないような気がするな。
『桃』ならあるけど)
シュンの曖昧な態度に、祖母は説明を始めた。
「プラムと言うのは『桃』の仲間ね。……たぶん。
『桃』はわかる?」
「うん!
たべたことあるよ!」
シュンは自分でも『あざといことを言うよなあ俺は』と思いつつ、
「これ、もものなかま?
じゃあ、これもたべられるの?」
『きょとん』と言った調子のシュンに、祖母は微笑み、
「コレはね、このままでは食べられないのよ」
祖母はシュンにプラスチック容器にたくさん入った同じ果実を見せ、
「これはね、『梅』なの。
だから全部『梅干し』になるのよ」
「えーっ!」
とシュンはやはり『我ながらあざといな……』と思いつつ、大袈裟な反応をした。
「これ、うめぼしになるの!?」
やはり『きょとん』と言った調子である。
「みどりいろだよ?」
「酢に付けると赤くなるのよ」
シュンの母が二人の会話を聞きつけて側に来ると、
「『酸』に付けると赤くなるのよね~。
リトマス紙と一緒なのよね」
梅を容器から一個取り出し嗅ぐと
「ほんと良い匂い~」
と言った後、
「ほんとシュンくん、梅干しよく食べるのよ~。
ね?」
母が顔を向けるのにシュンは「うん!」と大きく頷く。
「ぼく、うめぼしだいすき」
「子どもが梅干しをよく食べることにビックリしちゃった」
その母の言葉にシュンはドキドキした。
(だってお母さんが梅干しのおにぎりを作るんじゃないか……。
だから食べても変じゃないと思って食べていたのに。
しかし変なのだろうか?)
またミヨに聞いてみよう、とシュンは思ったが……
「友達の話を聞くと、子どもでも梅干し好きな子多いみたいよ~」
と祖母が言うので、シュンはホッとした。
「不思議よね~。
大人から見ると、梅干しって『美味しいけど、子どもは食べたがらない「変な味」なんじゃないか?』と思うけど。
何て言うか『慣れ』が必要な食べ物に見えるけど
普通に食べるのよね~」
「単純に美味しいから食べるのね、きっと」
とシュンの母は可笑しそうに言った。
「納豆とかも、普通に食べるもんね。
納豆こそ『慣れ』が必要に見えるけど……。
結局、普通に美味しいのかもね」
「シュンくん、梅干しいっぱい食べてね!」
と祖母はシュンに顔を向けた。
「うん!」
※※※
シュンは保育園でミヨに話をした。
「おばあちゃん、うめぼしつけるんだよ」
と言うと、ミヨはキラキラした目になった。
シュンはミヨの様子に調子に乗り得意気に、
「たくさん『うめ』がいえにあって。
『うめ』って、『プラム』みたいなの。
『プラム』ってわかる?」
ミヨは頷いた――「わかる」
(ほお、わかるのか)
とシュンは思いつつ、
「プラムみたいなかたちで、まだみどりいろのものを『す』につけるとあかくなるんだよ」
ミヨは「えーっ!」と言った。
「みどりいろのプラムが、あかいシワシワのうめぼしになるの?」
『きょとん』と言った様子のミヨにシュンは得意気に言う。
「そうなんだよ」
「うめぼし、シュンくん、すき?」
とミヨは少しおずおず、と言った調子で聞いてきた。
シュンがジッとミヨを見ると
「すっぱいから、すきじゃない?」
とミヨは不安げな顔をしたが
「だいすきだよ!」
と言うシュンの答えにパッと顔を明るくした。
「わたしも、すきだよ」
「えへ……」と二人は顔を見合わせた。




