36話 カバン
5歳の男の子シュンは車に乗っていた。
両親と2歳年上の従兄マオと『あじさい祭り』が行われている公園へ行くためである。
シュンの父が運転、母は助手席。
後ろの席にシュンとマオが座っている。
シュンが窓から流れる景色を見る中、マオはふとシュンのカバンに目を留めた。
リュックサックである。
(ずいぶんペチャンコだな)
とマオは思い、自分のリュックを見る。ふくらんでいる。
中身は水筒、タオル、ティッシュ、お菓子、ゲーム機など。
(いくら叔母さんのカバンに飲みものやお菓子が入っているからって。
ペチャンコ過ぎないか?
何入っているんだろう……)
マオは好奇心からシュンに聞いた。
「シュンくん、カバン見ても良い?」
「うん、いいよ」
シュンがアッサリOKしたので、マオはシュンのカバンを取る。
とても軽い。
リュックの一番大きいチャックを開けると……
「からっぽ……」
とマオはつぶやいた後、ふふ、と笑ってシュンを見る。
「シュンくん、空っぽのカバンを持ってきたの?」
「からっぽ?」
シュンは少し焦った顔をすると
「からっぽじゃないとおもうけど……」
「え……」
シュンはマオの座席の方に乗り出して、カバンの奥を探る。
「よかった。あった」
と言いつつシュンは取り出したものを従兄に見せた。
それは一枚の写真が入ったパスケースであった――パスケースに写真を入れているのである。
平べったいしリュックの底の方にあったのでマオは気付かなかったのだ。
マオは写真を見た。
同じ保育園の同級生と思われる子たちが10人ほどいる写真。
「……」
(確かに空っぽではないけど。
何故カバンに写真だけ持ってきたのだろう……?
他に入れるものがあるんじゃないかな……)
シュンくんって少し変わっているな、とマオは思った。
しかしその後『あじさい祭り』会場へ着き、暑い中、歩き回っているうちに……。
「水筒の中身、なくなっちゃった」
「あそこに自販機あるよ」
そして4人は自販機で冷たい飲みものを買って飲んだが。
「ゴミ箱がないね……」
とマオはつぶやいた。
ペットボトルにはまだお茶が入っているが、そのお茶を水筒に移しペットボトルを捨てれば荷物が軽くなるのだが……。
そのとき、
「マオくん、すいとう、ぼくのリュックにいれる?」
と言う声が下から聞こえ、マオはその方を見た。
シュンがマオに背を向けて、ほぼ空っぽのリュックを見せている。
(シュンくん……)
とマオは思った。
(そうか……こう言うときに『少ない荷物』は役に立つのか!)
『さすがシュンくん』とマオは思いつつ、シュンのリュックのチャックを開けたが
「シュン、おまえ何で空っぽのカバンを持ってきたんだ?」
と父が首を傾げた。
「何か入れるものなかったのか?」
(叔父さん、俺と同じような疑問を感じている……)
とマオは思った。
シュンは「いれるもの、おもいつかなかった」と簡単に言った。
「でもちょうどいいわ~」
と母が言った。
「シュンくん、空っぽのペットボトル入れても良い?」
「いいよ」
シュンのリュックは空のペットボトルでふくらんだ。
※※※
『あじさい祭り』の公園を一通り見て回った後、車に戻るとマオは隣で一息吐くシュンに言った。
「シュンくん、水筒持ってくれてありがとう」
「うん」
シュンはリュックから水筒を取り出すとマオに手渡す。
マオは受け取った後もジッとシュンを見つめていたので、シュンは首を傾げた。
マオが笑顔で言う。
「シュンくん、こう言うとき荷物が軽い方が楽だね。
俺なんかゲーム機まで持って来ちゃった……」
照れたような顔のマオに、シュンは
「でも、ゲームきをくるまにおいていったら、こわれるでしょ?」
「あ、そっか」
車の中の温度は高いのだ。
「でも、そもそも家に置いてくれば良かったんだよね」
「うん、そうだね……」
「俺も今度から出かけるときシュンくんみたいに荷物を軽くすることにするよ!」
マオがキラキラした笑顔で言うのにシュンは「うん……」と少し困ったような顔で頷きつつ、
(何も入れるものが思いつかなかったから、あの通りの中身だったのだが。
何故かマオくんに感心されてしまったな)
シュン自身はマオと逆のことを考えていた――『タオルくらいは持って来るべきだったなあ』と。




