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32話 『良い男』

 5歳の男の子シュンは祖父母宅に預けられていた。

 祖父母と『すごろく』で遊んでいると、祖母が唐突に言い出す。


「シュンくんって『良い男』よね~」

 

 シュンは『すごろく』を見下ろしたまま気にしない素振りをしつつ、耳をそばだてる。


「ああ、『良い男』だ」


 と祖父も妻に同意する。

 

 その後はそんなやり取りなどなかったかのようにゲームを再開したが……


(『良い男』、か……)


 シュンは心の中でニンマリした後、そんな自分をたしなめた。


(いかんいかん……。

おじいちゃんとおばあちゃんの『贔屓(ひいき)目』の発言にそんなに喜んではいけないぞ)


 しかし、どうしても心が浮き立ってしまう。


(俺は105年も生きているくせに俗物だなあ……)


 と思いつつ、


(いかんな。

普通の5歳児なら気にせず流す『大人の、ある意味適当な褒め言葉』も。

俺は大いに気にして、普通の子ども以上に喜んでしまうのだ……。

もっと謙虚に、と言うか『話半分』に受け取るようにせねばな)


 その後、思い直す。


(いや。

『良い男』と褒められるのも、今――子どもの間――だけの可能性は大いにある。

ならば素直に喜んでおけば良いのか……今のうちに) 

 


※※※


 5歳の女の子ミヨとその母親は、買い物中に母の知り合いの女性に会った。


「お子さん?

初めまして、ね。

こんにちは~」


 と知り合いの女性はミヨの顔を覗き込みつつ、挨拶をした。

 ミヨも返す。

 

「こんにちは!」


「お名前は?」


「ミヨ」


「ミヨちゃん」


 とニッコリした後、知り合いの女性はミヨの母に視線を戻し、


「ミヨちゃん、『べっぴんさん』ね!」


 と褒めた。

 ミヨの母は曖昧に返す。


「そうかしら?」


「お母さんによく似てるわ~」


 その後母と知り合いが話をするのを、傍らで待ちつつミヨは『べっぴんさん』発言について考えていた。


(『べっぴんさん』。

たぶん初めて言われたわ……)


 今ではあまり使わない言葉なのかもしれない。

 『可愛い』と言う、子どもにもわかりやすい言葉を使うことが多いのかも知れない……。


(私、ホントに『べっぴんさん』と思われたのか。

おべっかなのか。

多分、おべっかだと思うけど……)


 ミヨは母を見上げた。


(『お母さんに似ている』と言われるのは嬉しいわ。

私、お母さんの顔、好きだもの)


 ミヨは両親が2人並ぶ顔を思い浮かべる。


(お父さんの顔も好き。

だから、お父さんに似ていると言われても、私、嬉しいと思うわ。

親の顔が好きなのは、子どもの『贔屓目』かもしれないけど……)

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