31話 元号
5歳の男の子シュンの母親は、目の前にある書類の自分の生年月日を書く欄を見つつ、つぶやいた。
「ああ……。
平成に生まれたかった……」
「わかる」
と近くにいた夫が妻に同意する。
「俺らギリギリ『昭和』だから。
なおさらそう思うよな?」
「1、2年しか年変わらなくても、『昭和生まれ』と『平成生まれ』じゃ、何か意識違うよね?」
「越えられない壁がある」
「令和になってますます思うよね……」
シュンの父が、両親の側で遊ぶシュンの頭に手を置いて、髪をくしゃくしゃ撫でた。
「いいよなあ、シュンは……。
『平成生まれ』で」
「しかも21世紀生まれ」
「2010年代生まれか……何それ」
シュンは今自分は特に発言を求められていないとわかっていたが、言った。
「かんけいないとおもう」
「えっ……」
両親は我が子をビックリ眼で見る。
「いつうまれたか、なんてかんけいないとおもう。
みんな、がんばってる」
シュンは両親の感銘を受ける表情を目撃した。
「ああ~。
シュンくんはやっぱり優しいね~」
と母。
「さすが『平成生まれ』は。
心が広い!」
と父は冗談のように言ったが、本心のようだった。
シュンは「えへ……」と照れ笑いを返しつつ、
(別に『優しい』わけでも『心が広い』わけでもない。
ただの『自己弁護』だろう)
考える。
(俺は、元々はおそらく『昭和』より古い時代に生まれた男なのだ……)
『昭和生まれ』が自分の生まれた時代を嘆くなら、それより前に生まれた者はどうすれば良いのだ、とシュンは思った。




