29話 宝くじ
5歳の男の子シュンは母と祖父母宅にいた。
するとリビングで娘と談笑していた祖母が思い出したように唐突に
「あ。
シュンくんに聞かなきゃならないことがあったんだ!」
立ち上がり、しばらく後にカバンを持って戻って来た。
シュンの母が訝しげな顔で、がさごそカバンの中を探る自分の母親を見つつ、
「どうかした?
お母さん。
何かアンケートとか?」
シュンも真面目な顔で祖母の動向を見守っていたが
「あった!」
祖母がカバンから取り出したものは……
「何それ」
「○ト6のマークシートよ!」
「それはわかるけど……」
母は『何故今それを私たちに見せる?』と言う顔で祖母を見た。
しかし祖母は娘の冷たい視線も気にせず、キラキラした表情で、
「あのね~、前、○ト6買ったとき!
シュンくんにテキトーに数字を言ってもらったの!
そしたらね~、当たったの!」
「えっ。いくら?」
シュンの母は興味深げに目を丸くしたが
「千円」
と言う祖母の答えに『な~んだ』と言う顔になった。
祖母は一生懸命主張した。
「千円って!
スゴいのよ!
数字3つも当てたんだから!」
シュンの母は『やれやれ』と言う顔をした。
シュンにはその母の顔の意味がわかった――『その千円を当てる前に千円以上使っているだろ』と言う顔である。
祖母にも娘の『呆れ顔』の意味はわかったようで、
「まあ?
確かに……トータルで言ったらマイナス、かもしれない。
でも、またシュンくんに数字を聞いたら、次も当たるかもしれないじゃない!」
「いや~。
シュンもまぐれ当たりでしょ……」
「ホラ。でも。
言うじゃない?
『無欲の人の方が運が良い。無欲の勝利』みたいなの。
シュンくんはまだ純粋だから、大人みたいに欲がないから!
宝くじの数字を当てることができるのかもよ~」
と祖母は迷信染みたことを言った後、シュンの顔を覗き込み、
「ね、シュンくん。
テキトーに数字、言ってくれる?」
「うん!」
シュンはテキトーに数字を6個言った。
※※※
その後、祖母から宝くじの話を聞くことはなかった。
(たぶん、末等すら当たらなかったのだろう)
とシュンは思った。
(あんな話を――宝くじの話を――横でされたら。
俺も欲が出てきて
『おばあちゃんのために、良い数字を言わないとな。
今度は1万円ほど当てたいものだ』
と思ってしまったからな)
シュンは千円当てたときは祖母の
『シュンくん、数字をテキトーに言ってくれる?』
と言う言葉の意味がわからず、本当にテキトーに数字を言っただけだった。
(千円当てたときは、確かに俺は『無欲』だったのだ)
そして今シュンには自分がもはや『無欲』ではない自覚があった……。
(ま。結局、『無欲』とか関係なく。
ただのビギナーズラックだろうが)




