27話 お風呂
「あ。シュンくんママ……」
と言う母の声に5歳の女の子ミヨはギクリとした。
と言うのも……
「あら、ミヨちゃんママ」
「こんにちは~。
ここ、よく来るの?」
「ううん、あんまり来ないのよ……」
とシュンの母が言った。
「うちの子、すぐに上がりたがるから」
「そうか~。
性差かな?
ミヨは結構長く居られるけど」
ミヨの母は我が子に顔を向けた。
「ミヨちゃん、お風呂好きよね」
「うん!」
そう、ここは『公衆浴場』――スーパー銭湯――である。
ミヨは母たちの話を聞きながらも、キョロキョロと周りを見渡した。
(シュンくんがいたら、どうしよう……。
ちょっと離れたお風呂に入ろう)
とミヨは思った。
(他の小さい男の子は全然気にならないけど……。
シュンくんだけはちょっと恥ずかしいかな……)
そんなミヨに気付かず母たちは呑気に話を続ける。
「男の子でもお風呂長い子は長いと思うけどね。
ウチの子、あんまりこう言うところではしゃがないから……。
ほら、あの子みたいに」
とシュンの母が手の平で差したのは
「次、こっちのお風呂へ入ろうぜ!」
と弟だろうか、自分より小さい子に言っている男の子だった。
ミヨの母が可笑しそうに言う。
「シュンくんお行儀良いものね」
「ちょっと、子どもらしくないのよね~」
とシュンの母は笑った。
「ジジくさい、と言うか……。
おじいちゃんの家へよく行くからかしら……」
シュンの母が首を傾げるのに、ミヨの母は笑った。
「大人ぶる男の子、可愛いよね~」
「ハハ……」
シュンの母は苦笑しつつ、
「だからかな~。
そもそもが『女湯』がイヤみたいなのよ」
「あは。そうなんだ~」
「うん。
今日もね、父親も一緒じゃなかったら、『行きたくない』って言ったと思うの。
私とおばあちゃんとでシュンにお風呂に行こうと誘ったら、絶対イヤがるんだから。
お留守番する、って言うのよ」
「可愛い~」
ミヨは母たちの会話を聞いて、安心した。
(良かった。
どうやらシュンくんはお父さんと一緒に男湯のようね)
※※※
シュンは父とロビーのソファに座りつつ、ジュースを飲んでいた。
「遅いなあ……」
とシュンの父は言った。
「シュン、女湯に行って、お母さんの様子、見て来てくれないか?」
父の何度目かの頼みであったが、シュンは即答した。
「ヤダ」
「何でイヤかなあ……」
「おんなゆにいくの、カッコワルイ」
と言うと父は苦笑いを返しつつも黙った。
(よし。
『カッコワルイ』でまた切り抜けられたぞ)
とシュンは思った。
(女湯になど、俺は行きたくないのだ。
目のやり場に困るゆえ……)
『目のやり場に困る』
それはただの真実だ、とシュンは思った。
(別に照れているわけではない……と、思う。
たぶん……)
シュンはチラリと時計を見た。
(しかし。
お母さん遅いなあ。
これは、そのうちお父さんに強く『女湯見て来い』と頼まれるかもしれんぞ……)
『カッコワルイ』で切り抜けられなかったら。
行くしかないか、とシュンは思った。
(別に後ろめたくもなかろう。
俺は5歳児なんだから……)
そのとき。
「おまたせー」
と言う母の声がして、シュンは顔を上げた。
と同時に、母の隣にいる女性に目に入る。
(おお。ミヨちゃんのお母さんではないか……)
と言うことは。
シュンは目線を下に下げた。
お風呂上がりの、頬を赤くしたミヨが目に入った。
(ミヨちゃん……。
よかった。女湯へ行かないで……)
シュンはミヨに片手を上げた。
ミヨもシュンに照れくさそうに頷き返す。
シュンの両親とミヨの母は、何だかニヤニヤして2人を見守った……。
(この2人、相変わらずあんまり子どもらしくない挨拶するな……)
と微笑ましく思いつつ。




