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26話 ハチミツ大根おろし

「ゴホッゴホッ」


 5歳の女の子ミヨは暗い部屋、布団の中で目を開けた。

 もともと眠っていたわけではなかったが……。


(お母さん、また咳してる……)


 ミヨは心配した。


(保育園から帰って来た時より酷くなったみたい。

咳は夜の方が酷くなる、と言うものね……。

お風呂に一緒に入ったときは止まったから安心していたけど。

また出てきた。

お風呂の中は蒸気がいっぱいだから一時的に止んだだけだったのね……)


 ミヨは起き上がった。



※※※


 リビングではミヨの父と母が話している。


「ヒドイ咳だな」


「うん……。

私、喉に来るタイプなのよね」


「病院行かないと」


「うん。

市販薬で何とかなるかな、って。

油断したかな。

明日は行くわ」


 ミヨがリビングに入ってくると両親は丸い目を向けた。


「あれ、ミヨちゃん。

眠れないの?」


「おかあさん、せき……」


 と言うミヨに母は申し訳なさそうな笑みを返す。


「あ。お母さんの咳がうるさくて、起きちゃった?」


「ううん……」


 ミヨは首を横に振ってから、モジモジと言う。


「おかあさん、せきだいじょうぶ?」


「ああ、うん。

大丈夫よ。

明日にはちゃんと病院へ行くわね」


 母は娘の心配に元気な調子で答える。


「心配してくれてありがとう、ミヨちゃん。

お母さんは大丈夫だから。

もう寝なさい」


「うん……」


 ミヨはまだしばらくモジモジしてから、顔を上げると言った。


「おかあさん、ハチミツとだいこん、ある?」


「え……」


 母は戸惑いつつも答える。


「あると思うけど……」


「ハチミツとだいこんおろしをまぜたものをたべると、せきがとまる。

……ってほいくえんできいたよ」


「あ。

俺も――お父さんも――それ、子どもの頃に食べたことあるかも」


 と父が言った。


「そうなの?」


「うん。

ばあちゃんが咳に効くって、作ってくれたけど。

効き目はあったけど、不味かったなあ……」


 夫の苦笑に、妻も「確かに、あんまり美味しそうな組み合わせには思えないわね」と可笑しそうに返す。

 両親はミヨが父の言葉にギクリと身体を強ばらせるのには気付かなかった。


 母はミヨに顔を向けると


「ありがとう、ミヨちゃん。

試してみるね」


「うん!」


 ミヨは自分の部屋へ戻った。


 そのしばらく後、母の咳は少し治まったように思った。


(おかあさん、きっと、ネットで美味しい『ハチミツ大根おろし』のレシピを探して作ったに違いないわ)


 ミヨは、母は『レシピ通り料理をするタイプ』と知っていた。


(きっとお父さんが食べたことがある、不味い――辛い――『ハチミツ大根おろし』ではなかったはず)


 ミヨは安心して眠りに付いた。

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