25話 ヘビ (※ヘビご注意)(読み飛ばし可)
5歳の男の子シュンの通う保育園は今日遠足だ。
行き先は動物園。
以前――つい最近――従兄のマオと一緒に来たのと同じ動物園である。
(動物園は何度来ても良いものだ)
とシュンは思った。
平日ではあるが父も休みが取れたので、シュンは両親と動物園を回っていた。
(休日より空いていて良い。
人が少ないから後ろを気にせずじっくり見ることができる)
とシュンが思っていると、人だかりが目に入った。
(何やら子どもが集まっているな)
保育園児から小学生と思われる年齢の子どもまでが集まっている。
おそらく皆、遠足で来たのだろう。
(何だろう?)
「なにかな?」
と母に顔を向けると、シュンの母は首を傾げた。
父が楽しそうに言う。
「行ってみよう。
体験コーナーか何かだろう」
シュンの父の予想は当たっていた。
『体験コーナー』だった。
ヘビの。
――『ヘビお触り』体験コーナー。
飼育員さんが小さな綺麗なヘビを持っていて、それを触らせてくれる、と言うコーナー。
それに子どもが並んでいるのだ。
「おお……」
「わ、スゴい……」
と両親が引いたような声を上げる。
が、子どもが触っているのを見学しているうちに、
「大人しいな」
「案外可愛いわね」
と言い始める。
確かに飼育員さんの持つヘビは汚い色でも毒々しくもなく、白くて細くて綺麗なヘビだった。
嫌悪感を抱きにくいヘビ、と言うのもおかしいが……。
「シュンくんも列に並んでヘビに触る?」
と母が言う。
シュンは子ども達を見つめた。
子どもはヘビに臆することなく――あるいはビビリながらも――そっと触れたり撫でたりしている。
子どもが『ヘビお触り体験』のために並ぶ列は長い。
シュンは首を横に振った。
「さわりたくない」
「シュンはヘビ、嫌いかー」
と父がニヤニヤする。
「しかたないわよね~、ヘビが嫌いでも」
と母が笑いながら擁護する。
シュンは『むー』と言う顔をしてみせつつ、
(特別ヘビが嫌いなわけではない。
普通に苦手なぐらいだろう)
考える。
(しかし。触る気にはならん。
俺は子どものように無邪気ではないからな)
シュンは興味深げにヘビを触る子ども達をジッと見た。
(確か『サルもヘビが嫌い』と聞く。
人間は『遺伝子的にヘビ嫌いに生まれついている』のだろう。
しかしそれならば何故子ども達はヘビを触ることに興味津々なのだろう?)
考え込むシュン。
そのとき『ヘビの列』に並ぶ一人の女の子の姿が目に入った。
(ミヨちゃん……!)
シュンは思わず衝撃を受けた。
(ミヨちゃんもヘビを触るのか……。
やはり俺も触って来ようか?
後で『ヘビさわった?』などと切り出されたとき。
『さわらなかった』と言うのもかっこ悪いかも知れん。
いや、しかし……)
シュンは飼育員さんの腕に絡みつくヘビを見た。
(やはりわざわざ触りたいものでもないな……)
やめておこうと思った。
ミヨは男がヘビを触るのをイヤがったくらいで軽蔑するような女の子ではないはずだ、とシュンは信じた。
シュンはミヨの様子を伺った。
ミヨは飼育員さんの前まで来ると、差し出されたヘビに手を伸ばしたが……
引っ込めた。
(おや……?)
シュンはミヨを観察する。
ミヨはヘビに手を伸ばしては引っ込めるのを何回か繰り返した後、ヘビを持って待っていてくれる飼育員さんに首を横に振ってみせると、母親と一緒にとぼとぼと列を離れていった。
(……可愛い)
とシュンは思った。
(頑張って触ろうとしたが触れなかった、か)
シュンはほっこりした。
※※※
「ミヨちゃん、ヘビに触れないのは仕方ないわよ」
と5歳の女の子ミヨは母に慰められていた。
「お母さんも、ヘビ触れないもの。
とても可愛いヘビだと思ったけど、触りたいとは思わないわ」
母は身体を震わせてみせた。
ミヨは笑った。
(そうよね、やっぱり触れないわ……)
ミヨは『ヘビお触り体験コーナー』に並ぶ子ども達の列を眺めつつ、
(子どもらしく頑張って触ってみようかと思ったけど。
無理だったわ……)
ミヨもブルッと身体を震わせた。
(どうして子どもはヘビに触りたがるんだろ……。
見る分には可愛いけど触りたいものではないのよね……)




