23話 『昔の人』
5歳の男の子シュンはファミレスで食事をしていた。
隣にはシュンの母、向かいの席には保育園の友達アキトとその母親が座っている。
「ごちそうさま」
とシュンが言うと、アキトの母はシュンの方を見て目を丸くした。
「シュンくんって、とても綺麗に食べるのね~」
そう言われてシュンの母は隣をチラリと見た。
シュンの前にはお子様ランチのプレートが置かれていたが、食べ残しがひとかけらもない綺麗な状態だった。
少しソースが残っているくらいの皿。
「うちの子、躾がなってないのかしら……」
と言いつつアキトの母は我が子のランチプレートを見る。
オムライスのチキンライスのご飯粒がいくつも皿に残っている。
シュンの母は首を傾げ、困った顔をしながら言った。
「う~ん。躾か……ウチもあんまり『こうしろ』と言った覚えはないんだけど。
でも、シュンって、うちでいちばん綺麗に食べるところあるかも。
旦那より、私より綺麗に食べるの」
「へえ~」
アキトの母は感心したように頷いた。
「シュンくん、きっときちんとした性格なのね。
子どものうちから」
「う~ん、結構大らかだとは思うんだけどね。
食べ物に関してはキッチリしているのかな?」
(うむ)
シュンは母親たちの会話を聞きつつ、心の中でひとりごちた。
(俺は昔の人間なのでな。
食べ物を粗末にすることがどうもできん)
目の前の、綺麗に平らげた自分のお子様ランチのプレートを見る。
(しかし。
そうじゃなくてただ単に俺は意地汚いのかもしれん)
シュンは思った。
オムライス美味しかったなあ、と。
※※※
5歳の女の子ミヨは、自宅のリビングでお茶を飲んでいたが。
テーブルにコップを置く際、手元を誤り倒してしまった。
「あっ!」
ミヨは叫び、
「あら」
ミヨの母は慌てた。
ミヨも慌てて、キッチンへ台拭きを取りに行った。
キッチンから戻ってくると、ミヨの母はティッシュでテーブルの上を拭いていた。
「ありがとう、ミヨちゃん」
ミヨから台拭きを受け取ると、ミヨの母はテーブルを今度は台拭きで拭き始める。
ミヨはテーブルの上のお茶に濡れたティッシュを見ながら思う。
(何だかティッシュをこんな風に使うの、もったいないと思っちゃう。
台拭きで拭けば良いのにと思っちゃって、微妙な気持ちになる)
ミヨは母親がテーブルを拭くのを見守りつつ思う。
(前世で物が不足していた頃を経験したからだわ。
だから今の人とは感覚が違うのね。
私は『昔の人』なのよ)
「おかあさん、ごめんなさい」
ミヨが謝ると、母は笑顔を向けた。
「いいのよ。
お母さんもたまにやるもの」
ミヨはテーブルの上のティッシュを見つめた。
母もミヨの視線に釣られて、ティッシュを見て、
「ちょっともったいない使い方しちゃった。
お茶がカーペットの上に零れる前に何とかしないと、と思っちゃって。
ミヨちゃんが台拭きを取ってくる前にティッシュ使っちゃった」
とミヨと言うより自分に言うように――ひとりごとのように――言う母に、ミヨは少しホッとした。
(良かった。
もったいない感覚、お母さんと私、同じだったわ)
「ごめんなさい」
ミヨは改めてお茶をこぼしたことを謝った。




