22話 芸能人
5歳の男の子シュンは朝、目の前で父親が広げる新聞をチラリと見て、目を丸くした。
新聞の一面の真ん中の右端辺りの見出しにはこうあった。
『俳優 相上丘さん 死去 享年93歳』
(そうか……。
相上丘が亡くなったか……)
シュンはシュンとした。
相上丘。
彼の名前をシュンは知っていた。
『前世』の記憶で知っているのだ。
シュンは自身の『エピソード記憶』はないが、『意味記憶』はあるゆえ。
前世で知っていた芸能人の名前も憶えていた。
(しかし『享年93歳』とは。
大往生ではないか)
とシュンはショックを受けた自分を慰めた。
※※※
その夜。
シュンは母がシュンに注意を払っていないときに新聞のテレビ欄を見た。
(おっ。
今夜BSで相上丘の追悼番組があるようだ)
追悼番組――相上丘主演の映画だ。
名作であることをシュンは知っていた――前世の『意味記憶』で。
シュンはその映画の放送時間前、母親がトイレへ行った隙にテレビのチャンネルを変え、その番組に合わせておいた。
映画が始まった。
(おお……この曲、憶えているぞ)
シュンは感動しながらテレビ画面を見つめていたが。
母親はリビングに戻ってくると、
「あら、何コレ……映画?」
しばらく見守った後、あっさりとチャンネルを変更した。
シュンはショックを受ける。
(お母さんもこの映画を一目見たら引きこまれて魅入るかと思ったのに……。
アッサリ別の番組にしてしまった……)
考える。
(もしや、相上丘の映画と気付かなかったのやも知れん。
ほんの触りだったから)
そうならば『今のは相上丘の名作映画だよ』と教えてあげなければ、とシュンは思った。
シュンは新聞が偶然目に入って興味を持ったふりをしつつ、さりげなく母親に言った。
「おかあさん。
このひと、だれ?」
と一面の相上丘訃報記事に載っている写真を指差してみる。
すると母親は『う~ん』と言う顔をする。
シュンが『おや?』と言う顔を向けると、
「ごめんね、シュンくん。
そのヒト俳優さんなんだけど、お母さんもよく知らない人なのよ~」
笑顔になると、
「おじいちゃんおばあちゃんなら知っているかなあ。
ちょっと昔のヒトなのよ」
シュンは思った。
(これがジェネレーションギャップか……)
考える。
(さもありなん、だ。
俺の孫――もしいるのなら――よりお母さんは若いのだ。
俺の孫は60代~50代だろうから。
お母さんは30代。
ひ孫世代、いや玄孫か……?)
シュンは納得した。
(それは世代間で知るものが重ならないのも道理だ)




