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17話 イチゴ狩り

 5歳の男の子シュンは従兄(いとこ)のマオがゲームをするのを両親共々見ていたが。

 そのとき母親に電話がかかってきた。


「うん。わかった。

聞いてみるね」


 と母は電話の相手に言った後、


「おばあちゃんちでイチゴ狩りする?」


 と息子と義理の甥に聞いた。

 シュンはゲーム機から顔を上げると「うん!」と目を輝かせた。


「マオくんも。いい?」


 と聞くとマオは戸惑った顔をする。


「いいけど。

でも俺。

シュンくんのおばあちゃん知らないし」


「親戚よ」


 と母は明るく言うと、電話の相手に「今から行く」と告げた。


 シュンとマオは母親の運転する車で母方の祖母宅へ行くことになった。


 マオは叔父に言う。


「セーブしなければゲームしてもいいから」


「ありがと~」


 と叔父は甥からゲームを興味深げに受け取った。



※※※


 祖父母宅に着き、シュンの祖父母とマオがお互い初対面の挨拶を終えた後、4人――祖母、母、シュン、マオ――は家の隣にある小さな畑に向かった。

 網と木で出来た簡単な囲いの中に、イチゴは植えられている。


「動物が食べるからね」


 と二人に着いてきた祖母が説明する。


「動物って?」


 と母が聞くと、祖母は


「カラスとかハクビシン」


 と言う。


(ハクビシン?)


 とマオは思ったが、隣にいるシュンが「わぁ~」と目を輝かせているのを見て、何も言えなかった。


(家でググろう)


「シュンくん、喜んでいるけど害獣よ~」


 と祖母は嬉しがるような顔をするシュンをたしなめることを言いつつ、可笑しそうな顔をしている。


「そうだよ」


 とマオは言っておいた。


(俺、また知ったかぶりしている……)

 

 と思いつつ。


「赤くなっているものは全部取って良いよ~」


 と叔母はシュンとマオをイチゴの前まで連れて行くと言った。


 シュンは早速しゃがみこむと、イチゴを摘み始める。


(シュンくん、躊躇しないな……。

初めてじゃないのか?)


 と思いつつマオもシュンの隣にしゃがむと、イチゴの茎に手を伸ばし始めた。


 しばらく黙々と作業をする。


(楽しいな)


 とマオは思う。


(やっぱりホンモノって良いな……)


 と思いつつ、ふとイチゴの生えた下あたりの土に目をやると、にょろにょろとした生き物がいた。


「うわ~!」


 と悲鳴を上げてマオは飛びのき、シュンと祖母と母が子どもを見守っている場所まで逃げてきた。

 祖母も母も驚いた顔でマオを見る。


「どうしたの、マオくん?」


「まさかヘビ?」


 と言うと祖母と母はシュンの元へ駆け寄る。

 マオはそんな二人の大人を見て、ハッとする。


(俺、シュンくんを置いて逃げてしまった……!)


 と思い、大人の後を追う。


(最低だ、俺。

シュンくんより年上なのに、シュンくんを置いて逃げた……)


 大人の後ろからシュンの様子を覗き混むと、シュンは祖母と母に指を差していた、

 シュンの指の先には……


(まだいる……)


 とマオは思ったが。

 祖母がホッとしたように言う。


「なんだ、ミミズかぁ~」


 と言った後、マオをハッと見ると、


「ミミズも怖いよね~。

街の子は、と言うか最近の子は見たことないよね」


 とフォローした。


「叔母さんもミミズ、触れないわぁ~。

見るのも、ちょっとイヤね……」


 と言いつつシュンの母はシャベルを探して、ミミズを下の土ごとすくうと、少し離れた場所まで持っていった。


 マオはシュンの隣に再びしゃがむと、シュンに申し訳なさそうに話しかける。


「ごめん、シュンくん。

俺、逃げちゃって」


 と言うマオに、シュンはきょとんとした顔を向ける。

 『何故謝っているかよくわからない』と言う顔である。


「ミミズがいるのに、シュンくん置いて逃げちゃって……」


 と言い直すと、シュンは納得顔をして「ぼくはだいじょうぶだよ」と言った。

 マオは先程のシュンの落ち着いた様子を思い出し、聞いてみる。


「シュンくん、ミミズ怖くない?」

 

 シュンはしばらく黙ったあと、困った顔でマオを見て、


「うん……。こわく、はないかな」


「何で!?」


 とビックリして聞いてみると、


「ミミズがいるつちは、よいつちなんだよ」


 とシュンは答えになってないようなことを言った。


(そう言うんじゃなくて。

ビジュアル的に怖いだろ!)


 と思ったがマオは頷いて置いた。


「そうだね」


(シュンくんは、きっと土いじりに慣れているんだ。

だからミミズを怖くないんだ)


 と心の中で自分を納得させつつ。



※※※


 イチゴを摘み終わった後、シュンとマオは祖父母宅に入って、摘んできたイチゴを洗った。

 その後、キッチンペーパーで軽く拭いたあと、食べる。


()っぱい……」


 とマオは思わず言ってから、ハッと申し訳ない顔をする。

 シュンの祖母は笑っている。


「まあ、素人の作るものだから。

スーパーで売っているもののように甘くはないよねぇ」


 と言うと冷蔵庫へ向かい、練乳のチューブを出してくる。


「かける?」


「ありがとう」


 と言ってマオは受け取るとイチゴに練乳をかけ、シュンに回した。

 シュンは受け取ると、使わないままテーブルに置く。

 マオはビックリしてシュンに尋ねる。


「えっ。練乳かけないの?」


 シュンは頷くと、


「かけなくても、あまいのもある」


 と言った。


(シュンくん……素材の味を感じて、食べているのか)


 とマオは思った。


「そうだよね。

練乳かけない方が、自然の味と言うか……」


 と言うマオにシュンの祖母と母は言った。


「おばあちゃんはかけるわよ」


「おばさんもかけるわ」


(あれ……?)


 とマオは思った。


(また逆転現象?

いちばん小さい子がイチゴを酸っぱいまま食べている……)



※※※


 シュンはイチゴを黙々と食べながら思った。


(酸っぱいイチゴ、懐かしいなあ。

最近のイチゴは、甘いものばかりだからな……)


 その後、ミミズを思い出す。


(ミミズを見るのも久しぶりだ。

またお祖母ちゃんちで土いじりをさせてもらいたいものだが……。

子どもが『やりたい』と言い出しても不自然じゃない農作物って何だろう?)


 シュンは祖母に聞いてみた。


「おばあちゃん、さつまいも作る?」


「さつまいもは作らないわね~。

動物が食べちゃうから、大変なのよ」


 と言う祖母の答えを聞きつつ、


(ハクビシンか……)


 とシュンはハクビシンのビジュアルを思い出す。


(害獣を懐かしい、見てみたいなどと思うとは。

俺も街の子になったものだ)

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