16話 ゲーム
5歳の男の子シュンの家に、従兄のマオが遊びに来ていた。
動物園へ行ったときに買った本を持って。
「俺、もう読んだから。
返すのはいつでもいいよ」
と言ってマオがシュンに本を手渡すと、シュンは受け取った後しばらくリビングを離れた。
その後、自分の本を持って現れる。
「こうかん」
「えっ。シュンくん、もうコレ読んだの?」
(俺、結構がんばって読んできたんだけど……)
と複雑な気持ちを抱えつつ、シュンの本を受け取る。
シュンの母はそんなマオの心境を察して言う。
「マオくん、シュンはまだ字がほとんど読めないからね」
「絵や写真しか見ないから、読むのが早いんだよ」
とシュンの父も笑う。
「そうか……」
とつぶやきつつ、マオは少しホッとした。
そしてホッとしている自分に罪悪感を抱く。
(俺、イヤなやつだな。
シュンくんはまだ保育園児なのに。
シュンくんと自分を比べて、自分の方が勝っている面を再確認してホッとするなんて)
マオはそこでシュンを見つめる。
(やっぱり俺、シュンくんに定期的に会わないとな。
自分の卑小さを再確認できるから)
カバンに本をしまうと、マオはゲーム機を出した。
「ゲーム持ってきた」
「おお」
と言ったのはシュンではなく、シュンの父だった。
「マオくんありがとう」
と言う。
シュンの父がマオにゲーム機を持ってくるよう頼んだからだ。
「シュンに買ってやろうと思うんだけどね。
叔父さん、最近のゲームわからないからさ」
「私もスマホゲームしかわからないわ。ゲームアプリ」
「そうなんだよなぁ。
わざわざゲーム機を買わなくなったと言うか……」
と父母はマオがゲームを起動するのを覗き込んだ。
マオはゲームをやってみせる。
「今のゲームすごいのね。
画面が2個あるのね」
「映像が綺麗だよな」
「知らないボタンもあるわ」
マオはゲームの世界でバトルを一回終えてみせると、現実世界を見渡した。
シュンの両親がゲーム機の画面を覗き込む一方、シュンは先程借りたばかりの動物の本を眺めている。
(逆転現象)
とマオは思った。
(子どもが本を読み、大人がゲーム機を見ている)
「どうかな、マオくん。
シュンにもできるかな?」
と言う叔母にマオは頷いた。
「このゲームは字を読めないとできないと思うけど。
他のゲームならできると思う。
アクション系とか」
「だってさ、シュン」
と父はシュンに顔を向けた。
シュンは父をチラリと見る。
「うん……」
「買ってやろうか?」
「いらない」
父は『ぐっ……』と言う顔をする。
母は可笑しそうに夫を見て、小さくつぶやく。
「普通逆よねぇ……。
子どもがゲーム機欲しがって、親がダメ、と言うものよねぇ」
「シュン」
と父は厳しい顔をした。
「やる前から『いらない』とか言うもんじゃないぞ?
シュンのその、何て言うか、一貫性のあるところ? ――真っ直ぐなところ――、お父さんも良いところだと思うけど。
ちょっと活動的――元気――とは言えないな。
もっと積極的に――頑張って――何事もやってみようとしないと」
と言う父にシュンは「うん……」としおらしく言った。
(良いことを言っているようで、『ゲームをやれ』と親が子どもに言っているんだよなあ、これ……)
とマオは父子を見つつ思った。
(俺は兄姉がいるからすんなりゲーム買ってもらえたけど。
お兄ちゃんは
『同級生皆持っているから買って!』
と頼み込んでやっと買って貰えたって言っていた。
けどシュンくんちは親が
『ゲーム買ってやるからちゃんとやれ』
と言うんだもんなあ……)
などとそんなことを考えているうちに、親子はパソコン前でインターネット検索を始めていた。
「マオくん、ちょっとどのソフトが良いか選んで」
と叔父が言うのに、マオもパソコン前に近付く。
Amaz○nの画面が映し出されている。
「マ○オとか良いんじゃないの?」
と叔母が言う。
(叔母さん、とりあえず知っている名前を言っているな)
とマオは思った。
「ド○えもんとか。
○ケモンとか。
○ービィ」
と言う叔父にも、叔母に対して思ったことと同じことを再び思いつつ、マオは頷いた。
「その辺でいいと思う。
○ケモンは無理だと思うけど。
アクションもの」
と言ってから、マオはシュンを見る。
「でもシュンくんにもどれが良いか聞いてみたらいいんじゃないかな」
「そうだな。
シュン、何か欲しいのあるか?」
と言うと父は、息子が『コレ欲しい』と言うまで、ページをスクロールしていき、そのページが無反応だったら次のページをクリックした。
2、3回その動作を繰りかえした後、ようやくシュンは「コレ」と言った。
マオはシュンは何を選んだのだろうと興味深げにパソコン画面を覗き込む。
『頭が良くなる! 小学生からの脳トレパズル』
と画面にはあった。
「これか~?
シュン?」
と父が笑う。
「え~。良さそうだけど……
どんなゲームか、シュンくん絶対わかってないよね?
パケ買い?」
と母も困惑顔で笑う。
マオは思った。
(シュンくん、それ『親が子どもに買い与えるソフト』であって、『子ども自ら選ぶソフト』じゃないよ)
結局両親は息子のためにゲーム機の他『マ○オ』と『脳トレパズル』を注文した。
マオはシュンに聞いてみた。
「シュンくん、脳トレパズルなんて、ほんとに欲しかったの?」
「うん!」
シュンは頷いた。
「あたまのたいそう、ぼくやるよ!」
と言うシュンを見つめつつ、マオは心の中に『焦り』の気持ちが広がっていくのを感じた。
(うかうかしていると、シュンくんは『脳トレパズル』をすることで何らかの才能を開花させて、俺は勉強面でもシュンくんに追いつかれてしまうかもしれない)
「俺もソレ買って貰おうかなぁ……」
「マオくんにはひつようないよ」
「えっ? 何で?」
「マオくん、あたまよいもん」
(いや、シュンくんの方が絶対頭良いだろ!)
とマオは心の中で思った。
※※※
その後マオは再び親子にゲームをやってみせた。
「ここで必殺技」
と言うマオに、
「あ、そのボタン、こう言うとき使うんだね」
などと父が言ったり、
「ああ。アイテムで回復ね。
わかるわかる」
と母が言ったりする中、黙って画面を見ながらシュンは思った。
(マオくんがやっているのを見る限り、ゲームとは面倒くさそうなものだなあ。
どうも俺にできる気がしないな)
シュンはマオが『レベル貯め』と言いつつ延々バトルをしているのを見たことがあったのを思い出す。
(レベルを貯めたり、アイテムを集めたり、モンスター図鑑を埋めるためにうろうろしたり。
そんなことをわざわざするのが俺にはどうもわからん)
今日の父の『シュンは一貫性があるが活動的ではない』と言う言葉を思い出す。
(お父さんの言うとおりだ。
俺はどうも頭が固いから、活動的な男では全くない。
いかんな。105歳のジジイでこれなら、これから一体どうなるんだろう……)
『脳トレパズル』を思い出す。
(脳トレで少しは良い効果が得られるだろうか?
少し心配になってきたからな。
俺の脳も多分5歳ではあるだろうが、105歳の精神が5歳の脳に悪い影響を与えているかもしれん……。
脳トレで若返りたいものだ)




