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11話 人形

 5歳の男の子シュンは祖母と買い物を済ませコンビニを出ると、祖母に言った。


「おばあちゃん、ぼくがふくろもつよ」


「え~重いよ」


「いいよ!

ぼく、もてるよ!」


(女性に荷物を持たせるわけにはいかんからな)


 とシュンは思っていたのだが、シュンの申し出に祖母は少し困った笑顔をするとレジ袋の中身を何個か自分のカバンに移す。

 その後レジ袋をシュンに渡した。


「じゃあ、お願いね」


 もう袋には数個のお菓子しか入っていなかった。


(何だかお祖母ちゃんに余計な手間をかけさせただけみたいだなあ)


 と反省しつつシュンは軽い荷物をぶら下げ祖母と帰路に着く。


 祖父母宅に着くと、


「ただいま~」


 と祖母は祖父と母に声をかけた後、


「シュンくんが荷物持ってくれたの~」


 とニコニコ言った。


「シュンくん優しいなあ」


 と祖父が褒める。


「この子、荷物とか持ちたがるの」


 とシュンの母は祖母――自分の母親――に笑いかけると、シュンの顔を覗き込む。


「シュンくんはレディーファーストなのよね」


(レディーファーストなどと言うつもりはないが)


 と思いつつもシュンが


「うん!」


 と答えると、祖父母と母は大いに笑った。


「レディーファーストか。

俺、立場ないなあ」


 と祖父が笑いながら言うと、「そうよ」と祖母も笑う。


 シュンは「えへへ」と照れながら袋の中身を出した。


「あら、ようかん買ってきたの?」


 シュンの母は祖母――自分の母親――を可笑しそうに見る。


「お母さん、『孫が一度「美味しい」と食べた物を、孫が来る度延々と出すおばあちゃん』になってない?」


 祖母は娘のからかいに、


「一度美味しいと言われたものを次も出しちゃうのは仕方ないでしょ~」


 と反論を返しつつ、


「でもこのようかんはシュンくんが選んだのよね」


「うん!」


 とシュンは答える。


(俺はようかんが好きなのだ)


「シュンくん、ようかん好きだもんねー」


 と祖母はシュンと顔を見合わせた。


「うん!

ぼく、ようかんだいすき」


「へえ~」


 と祖父が感心したようにつぶやく。


「今の子は、アンコなんか食べないと思っていたよ」


「たべるよ!」

 

 とシュンは自信満々な様子で答えた。


「ミヨちゃんは『チョコよりアンコがすき』っていっていたよ」


「チョコより?

それはちょっとスゴいわね」


 と母が目を丸くするのを見て、シュンは『おや?』と思う。


(チョコレートよりアンコが好きとはそんなに意外なことなのだろうか?

俺もそうなんだが)


「え~。

ミヨちゃんって?

保育園のお友達?

どんな子?」


 と祖母が目を輝かせた。


「シュンくんと何だかお似合いそうね!」


「可愛い子よね、シュンくん?」


 と母がニヤニヤ言うのに、シュンは「うん……」と照れたように答える。


「何かね」


 と娘は母親に顔を向けた。


「可愛い日本人形ってあるでしょ? 着物着た女の子の。

黒目がちのぱっちりした目で、小作りの鼻と口の。白い顔。

あんな感じなの」


(やはりお母さんは俺と親子のようだ)


 とシュンは感心した。


(俺のミヨちゃんの印象と同じではないか)


「あっ、そう言えば!」


 と祖母が唐突に言った。


「ウチ、五月人形出したのよ!」


(いつの時代も女は話がコロコロ変わるものだ)


 とシュンは思いつつ、黙って話を聞く。


「五月人形?

お兄ちゃんの?」


「そうそう。

見て行ってよ。

シュンくんも」


 と祖母が言うと、母が

 

「良かったね、シュンくん。

シュンくん、オサムライさん好きだもんね」


 とシュンに言う。

 シュンは


(俺は特にオサムライなど好きではないが……。

と言うか『オサムライ』と言う(くく)りでは好きではない。

この母親(ひと)は何か勘違いしているな。

あるいは大雑把な言い方をしているのかもしれん。

俺にも確かに好きな武将はいるからな。

その武将を指して『オサムライ』と言っているのか。

しかし、もしそうなら何故お母さんは俺の好きな武将を知っているのだろう)


 と思いつつ「うん!」と答えた。


 その後、床の間に飾ってある五月人形を祖母、母、シュンで見に行く。

 鎧兜を着た小さな男の子の人形である。


「可愛いオサムライさんでしょ~」


 と祖母が言うのにシュンは


(まあ去年も見たがな)


 と思いつつ「うん!」と答えた。


「あんた、コレ、持って帰らない?」


 と祖母が娘に顔を向けた。

 娘は笑って答える。


「いらないに決まっているでしょ」


「え~。

でもシュンくん、オサムライ好きなんでしょ?」


「置く場所ないもん。

と言うかシュンくんが産まれたときにも言ったじゃない。

『五月人形なんていらない』って」


 と言う娘の言葉を聞き、


「何か最近は五月人形もいらない。

こいのぼりもスーパーで売っているようなやつでいい、ってなっちゃったねぇ」


 と祖母が苦笑しながら言うのにシュンも思う。


(そうだ。

昔は家にはごちゃごちゃ、何やら色々――それこそ日本人形など――が飾ってあったが。

今の家はスッキリしているのだ。

お母さんは嫁入り箪笥(ダンス)も持っていない)


 すると


「シュンくん、このオサムライの人形いらない?」


 と祖母がシュンの顔を覗き込み、ニコニコ聞いてくる。


「いらないわよね?」


 と母が祖母の横でニヤニヤ言ってくる。

 シュンは少し考えた後、


「いらない」


 と言った。


「そうよね~」


 とドヤと言う顔で笑う母に


「もぉ~。

シュンくんは結局お母さんの味方なんだからぁ~」


 とちょっとむくれた様子をわざとする祖母に


「えへへ」


 と笑いかけながらシュンは心の中で、


(死ぬときは何も持って行けないからなぁ……)


 と思っていた。


(荷物は軽いに越したことはない)

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