少女依存症
私、山崎千歳は悩んでます。
それは、私の唯一の友達、河野美佐に彼氏が出来そうなのです。彼氏が出来るのは、良い事です。青春です。勿論、応援したりもしたいのですが……問題は私が彼女に見捨てられる可能性があるということです。
彼女以外の友達がいない私にとっては、高校三年間をボッチで過ごす事なる大ピンチなのです。彼女があんな手紙さえ、貰わなければこんなに悩まなくて済むのに――
「ねぇねぇ、千歳ちゃん。恭也くんから手紙もらちゃった♪」
あの笑顔から放たれた一言で私が、どれほど悩んだかきっと彼女は知らないだろう。
でも、よく考えたらラブレターなんて言ってなかったし。でも普通の手紙で、あんな嬉しそうにするかな、やっぱりラブレターなんだろうなぁ……恭也さん優しそうだし顔もいいし――やっぱり、私捨てられるのかな……。うーん、でも美佐ことだし私を捨てるなんて事ないよね……。
「そういえばさー、最近あいつ付き合い悪くない?」
「あー、確かに彼氏出来てから付き合い悪くなったよね」
「やっぱ、彼氏出来たら彼氏優先しちゃうよねー」
「まぁ、しかたないよね。私だって優先しちゃうんもん」
何で今そんな話をするの!? クラスメイトに勝手に心の中で文句を言っても仕方無いのに…… あぁ、もう駄目だぁー! 絶望の未来しか見えない……。でも、どうする? このまま、捨てられるのを待つの? そんなの嫌! 美佐ちゃんは、空気だった私と始めて友達になってくれた人だもん。もう一人にはなりたくない、だから決めた。美佐ちゃんには悪いけど、恭也さんと付き合わせない! どんな手を使っても! こんな気持ち美佐ちゃんにバレたら、きっと嫌われるだろうけど、どうせこのままでも、捨てられるんだし構わない! 私の高校生活の為に、私は戦う!
むー、戦うとは言ったけど……一体何をすればいいかな? まずは、作戦立ててみよう。
作戦1 大迷宮『新宿駅』作戦
とりあえず、私が美佐ちゃんを連れ回して恭也さんに合わせない そうすれば、返事だって出来ないだろうし。フフフッ会いたくて会いたくて震えるが良い、恭也さんよ! でも待てよ……今日、午後から選択授業じゃん。美佐ちゃんと恭也さんは同じ科目を選択してるから絶対会うじゃん。あぁ、なんで私も美佐ちゃんと同じ科目を選択しなかったのかな……この作戦は駄目だ。きっと放課後には――
「俺、ずっと美佐ちゃんとこうやって帰りたかったんだ」
「本当! 実は私もなの、嬉しいな」
「もう絶対、お前を離さない」
「恭也くん……私も恭也くんから絶対に離れない」
そうして、二人は幸せな家庭を築くのであった――
だぁーっ! 末永く爆発しろ!
うぅ……つ、次! 次の作戦!
作戦2 羊の皮を被った狼を懲らしめる作戦(作戦名の改善案求む)
一見いい人そうに見える恭也さんでも、実は超性格悪かったり、たらしだったり、DQNだったりするかもしれない。そんな人と美佐ちゃんを付き合わせる訳にはいかない、そんな訳で恭也さんを見張って化けの皮を剥がすのだ!
だけど、どうしようかな……恭也さん隣のクラスだから見張ること出来ないんだよね。隣のクラスに行く用事も無いし、ましては友達もいないし……。
窓の外からこっそり見るとかしかないけど、それじゃ私ストーカーじゃん、でも午後の選択授業が始まる前に、この昼休みが終わる一時間の内に、恭也さんの悪いとこを見つけないと美佐ちゃんと恭也さんは付き合ってしまう。やるしかない、やるしかないんだ!
あんまり、目立たないようにしながら何気なぁい感じで教室を覗くと、居た恭也さんだ!
友達と喋ってるのかな、いいなぁあんなに友達がいて……って羨ましがってる場合じゃない、これはチャンスだ! 友達との会話なら狼の部分が出るかもしれない。さぁ、その化けの皮を見せなさいってここからじゃ聞こえない……なんで、恭也さんあんなに奥で喋ってるの……中に入って聞きたいけど、まさか、恭也さんの会話盗み聞きに来ました。なんて口が裂けても言えない。むーどうしようかな……
「ねぇ、あなた何してるの?」
「えっ!?」
「あなた、確か隣のクラスの山崎さんでしょ? 恭也の方見てたけど、恭也に何か用かしら?」
えーっと確か、隣のクラスの委員長さん……名前何だったかなぁ……というか私の名前よく知ってたなぁ、クラスでも全然目立たない方なんだけど。じゃなくて、今もの凄くヤバイんじゃないかな!? ピンチじゃないかな!? 絶体絶命じゃないかな!?
「ねぇ、黙ってないでなにか言ったら!」
「え、えっと、あの、その……」
「何? 恭也に用があるわけじゃないの? だったら何で恭也の方見つめてたの?」
マズイ、なんかもの凄く苛立っていらっしゃる。しかも、彼女が騒いだせいで他の人達が集まって来ちゃった。あぁもう、どうしよう。
「どうしたの?」
「へっ? 美佐ちゃん!?」
「そんなに、驚かないでよ。ところで何かあったの?」
「いや、これは、その……」
「山崎さんが、恭也を見てたから用があるのか聞いてただけよ」
「それだけじゃ、こんな騒ぎにはならないでしょ。どうせ、いつもみたく彼に近づく虫を追い払おうとしてたんでしょ、古川さん。因みに千歳ちゃんは虫じゃ無いわよ」
「なっ!? そんなんじゃ無いわよ!!」
「ふ~ん、まぁいいけど。いつまでも近くに居るなんて、思わないほうがいいよ。彼だって好きな人くらい出来るんだから、しかも、貴女とは違う人を」
「だから違うって言ってるでしょ!」
なんだろう、二人は知り合いなのかな? というか、こんな強気な美佐ちゃん始めて見たかも、普段の美佐ちゃんはいつも笑顔だから、まだ美佐ちゃんの知らないところ沢山あるんだなぁ。
「ごめんな、日和のやつが騒いじゃって、ビックリしたろ」
「い、いや、そんな事無いです……」
「いやいや、そんな事有るって顔してるよ、ホントゴメンな」
「い、いえ」
気づいたら、恭也さんが隣にいた。気さくに話しかけてくれたけど、すごく申し訳無さそうな顔してた。ホントは私が悪いのだから彼が謝る必要は無いのに良心が余計に痛い……
「俺と日和は幼なじみなんだよ、幼稚園からの付き合いで、小学校、中学校、で今もな、実はさ俺、小さい時は泣き虫でさ、よくイジメられてた俺を日和が助けてくれてたんだよ。だから、もう助けられなくても大丈夫なように、体とか鍛えたんだけだぜ。見る? 細いけど結構筋肉とか付いてるんだぜ!」
「い、いいです……」
「そう……結構自身あるんだけどなぁ」
いや、私、筋肉フェチとかじゃないですから! でもそうか、恭也さんと古川さんって、そういう仲だったんだ。だから古川さん、私が恭也さんを見張ってた時あんなに、苛立ってたのかな?
「千歳ちゃーん、古川さんが謝りたいってー」
美佐ちゃんと、とても謝りたくなさそうな顔してない古川さんが、こっちに来た。怖い、超顔怖いよ! 古川さん!
「ほらっ、ちゃんと謝って」
「うるさいっ! 言われなくてもするわよ……さっきは、ごめんなさい急に怒鳴っちゃって……悪かったわ」
「い、いや、そんな大丈夫です…こちらこそ、ごめんなさい」
「貴女は優しいのね……あの悪魔と違って……」
「えっ? 最後なんて言いました?」
「いえ、なんでもないわ。それより、どうして恭也の方を見つめてたの?」
「えっ!? それは……」
マズイ、ピンチ復活! うやむやになったと思ったのに……どうしよう……
「あぁ、それね。私が千歳ちゃんに恭也くんを呼んでって頼んだの」
「そうだったの、でもだったら貴女が来ればよかったじゃない」
これは、美佐ちゃんが助けてくれたのかな? 美佐ちゃんはやっぱり優しいなぁ。
「俺になんか用だったのか?」
「この手紙についてね」
「「「!?」」」
そこに居た、美佐ちゃん以外の3人が固まった。美佐ちゃんの手にあるのは、今回の出来事の原因である手紙だった
「お前それ!」
「ちょっと、付いて来て」
「なっ、おい! 待てよ!」
そう言って、恭也さんと美佐ちゃんは何処かに行ってしまった。追いかけようと一瞬考えたけど、今更遅いだろう……恭也さん、悪い人じゃ無いみたいだし、彼なら美佐ちゃんを幸せにしてくれるだろう。あんまり美佐ちゃんとは、遊べなくなるかもしれないけど、友達じゃなくなるわけじゃないんだから……ただ、やっぱり少し寂しくなるだろうなぁ……
「ねぇ、山崎さん……L○NEのアカウント持ってる?」
「えーと、持ってます」
美佐ちゃんに、入れたらと言われて入れてみたけど、美佐ちゃんしか登録してないメッセージアプリ……
「だったら、教えてもらえる? 私も教えるから」
「えっ!?」
「あーごめん、やっぱりあんなことしちゃったし嫌だよね……」
「い、いや!…そうじゃなくて、美佐ちゃん以外で人登録したこと無いから何だか驚いちゃって……」
「そっか――じゃあ、登録しても良いかしら?」
「うんっ!あっでも……どうやって登録するんだっけ……?」
「あー、スマホ触っても良い?」
「ご、ごめんね」
「あはは、大丈夫大丈夫……はい、これで私のも登録完了。次誰か登録するときはここを押して、このメニューの中から選べば良いよ」
「本当にありがとう…えっと、古川さん、よろしくお願いします。」
「えぇ、よろしく! 今度の土日にでも遊びに行きましょう」
「本当ですか!」
古川さんの突然の申し出に驚いたけど、美佐さん以外の人に遊びに行こうなんて言われたのが、始めてだったから正直嬉しかった。
「本当よ、だからもう少し砕けて喋れない? ついでに日和って呼んでちょうだい?」
「ひ、日和さんで、いいかな? じゃあ、私も千歳って呼んで」
「わかったわ、千歳さん」
こうして、今まで美佐ちゃん以外居なかった、アプリに二人目の人が追加された。
「起立、気をつけ、礼」
「「ありがとうございました」」
うーん、今日はなんか一日疲れたなぁ、いつもならここで美佐ちゃんと帰るのだけど、多分今日は恭也さんと一緒だろう……そうだ! 日和さんを誘ってみよう、もしかしたら帰る方向違うかもしれないけど、とりあえず声だけでも掛けてみようかな。
「あの、日和さん居ますか?」
「んーっ、古川さん? もう帰ちゃったよ」
「そうですか……」
残念、一足遅かったか……仕方ない一人で帰るかな。
最後の望みで美佐ちゃんの靴箱を覗いたけど、もう帰ったみたいだった。久しぶりだなぁ一人で帰るの、高校入ってからはいつも美佐ちゃんと一緒だったからなぁ……
「ちーとーせーちゃん!」
「えっ!? 美佐ちゃん!? なんで!?」
「なんでって一緒に、帰ろうと思ったからだよ。美佐ちゃんたら、いつの間にか教室から居なくなってるんだもん」
「それは、だって恭也さんと帰ると思ったんだもん」
「んっ? なんで、恭也くんと私が一緒に帰るの?」
「だ、だって付き合ってるんでしょ?」
「えっ? 付き合ってないよ? 誰かそんなこと言ってたの?」
「だって今日の朝、手紙貰ったって言ってたじゃん」
「んー? あぁ、あれね。あれは本当に、ただの手紙だよ」
「えーーーっ!?」
そんな、じゃあ今日、私勘違いであんな騒ぎ起しちゃったわけ……恥ずかしすぎて死にそう。
「どうしたの? 顔真っ赤だよ大丈夫?」
「実はね……」
美佐ちゃんに今日の出来事を全部話した。昼間の騒動は全部私が悪いのだと……すると美佐ちゃんは……
「あっはっはっはっはっは!」
お腹を抱えて笑われた……
「そんなに、笑わなくてもいいじゃん」
「あっはっはっは、ごめんごめん、でもそっかー、千歳ちゃん嫉妬してくれたんだ」
「嫉妬ってそんなんじゃ……」
「でも、恭也くんに私が取られると思ったんでしょ」
「うっ、それは……」
「かわいいなぁ、千歳ちゃんは本当に」
「やーめーてー」
「大丈夫だよ、私はずっと千歳ちゃんの近くに居てあげるから」
「本当?」
「ホント、ホント」
「約束だからね」
「うんっ、約束する」
こうして、夕焼け空で染まる頃、憂鬱な朝から始まった一日は、私の勘違いで終了したのであった。
思い込み、早とちり、勘違い、ダメ、絶対。まぁ、今回はお陰で日和さんと仲良くなれたから良かったかな?
ふふっ、千歳ちゃんたら本ッ当に可愛いんだから、あの手紙を見せただけであんなに、動揺するなんてね。ごめんね、実はあの手紙、実は千歳ちゃん宛だったんだ。恭也からのね、内容に関しては千歳ちゃんの思った通りラブレターだよ、まぁ渡さないけどね。
あいつも馬鹿だよね……日和さんが居るのにわざわざ他の女の子を追いかけるんだから、だから男は嫌いなんだ……
千歳ちゃんを、男の人になんて渡さないよ、絶対にね。大丈夫、男の人なんて居なくても私が貴女を幸せにしてあげるから……
4年くらい前に上げたのを上げ直しました。