金継ぎ ー海斗ー
「金継ぎの重要性はその見た目にあるのではありません。その美と価値は、それを見る人の中にあります」
「壺持ってきたぞー」哲夫が白い布に包まれたものを台車で運んで来た。
「どうだ。」と白い布から現れたのは紅八塩と書いてある酒壺。
「また買って来たんですね、これ」
どんなに探しても見つからなかったのにどうやって?と思いながら海斗は言った。
「いや、これ割れたやつを直したんだよ、ほらここ。」
哲夫は割れ目をつーっと人差し指でなぞっていった。
「陶芸教室の酒井さんに手伝ってもらって直したんだぞ。」
「えっ、あれ直したんですか!」
海斗は酒壺が割れた時の 無残な姿を思い出した。あの時の酒壺が元通りになっているのを不思議な気持ちで見た。
「このテクニックは金継ぎって言ってね、味があるだろうーこうやって見ると。ここんとこズレてて完璧じゃないけどね。」
金二はそう言いながらも満足そうに酒壺を眺めている。
一度壊れてたものを直して完璧などないだろう。海斗には完璧かどうかなどどうでもよかった。あるべきものがそこに戻って来たということに意味があった。
金二のごつい手はしっかりと酒壺を掴んでいた。
海斗は酒壺が元あった場所に置かれるのを何かの儀式でもう見るように見守った。
ガラスのディスプレイの中に収まった酒壺は海斗に何か伝えているようだった。
海斗に急に使命感が湧き上がった。
金二に言わなくてはいけないことがある。
今、これを伝えなくては。
「実はこの酒壺割ったの僕なんです。あの、徹じゃなくて。」
それはただの告白だった。
使命感なんっていうかっこいいものではなく、罪悪感が蘇っただけなのだ。
海斗は自分の発言に驚きながらも金二の反応を待った。
「そうかぁ」
哲夫は酒壺を見たままそう言った。




