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金継ぎ  作者: 有田シア
22/23

手作りのいいところ ー金二ー

金継ぎ入門

はじめに

「陶磁器をはじめモノは、いつの日か割れたり欠けたりしがちです。

しかし、それでも愛着を持ち、元の形や風情を残したいと考案されたのが「金継ぎ」です。」



金二は段ボールの乗った台車を押して「酒井陶芸」と書いた木の看板の横を通り、酒井が作業場と呼ぶ倉庫のような建物の入り口に台車を置いた。

中では中年の女の人達が飾れてある器を指差しながら陶芸の冊子を見ていた。

きゃっきゃと笑いながら、話をしている。

多分一日陶芸体験のお客さんだろう。

「金ちゃん、いらっしゃい。」

酒井が白い箱を持って歩いて来た。

「この間作った皿、出来てるよ。」

真っ白な白髪に細いリムの眼鏡をかけた酒井はいつものように紺の作務衣を着ていた。

金二は箱の横に「パスタ皿 青山 金二」と書いたステッカーが貼ってあるのを見つけた。

「酒井さん、俺作ったのこれパスタ用の皿だったのかい?」

「そうだよ、でも縁が浅めの皿だから何にでも使えるよ。」

酒井はそう言って金二の出来上がりの皿を取り出してテーブルの上に置いた。

縁がいびつな楕円形の皿は金二が思っていたのとは全く違う仕上がりだった。

「これ、居酒屋弁二で使ってもらおうと思っていたけど、ちょっと形が歪んでるね。こんなんじゃ美味しい料理も台無しだぁ〜。」

金二は恥ずかしさを誤魔化すように言った。

「歪んでるけど、そこが手作りのいいところなんだよ。刺身皿にしたらどうかな。」

酒井は歪んでいるのがいいことでもあるかのように熱のこもった言い方でそう言った。

「刺身皿ねぇ。。。」

金二にとって刺身皿といえば長方形の皿だったのでその酒井の提案が突飛なアイデアのように思えた。

でもそれ以外に居酒屋での使い道が思いつかなかった。

金二は居酒屋で使ってもらおうと作ったはずなのにでの居酒屋での用途を考えずにパスタ皿を作っていた。

居酒屋弁二に少しでも貢献したいという気持ちが空回りしているように思えた。


金二は「出来ることをやればいい」と自分に言い聞かせて、今日来た本当の目的を思い出した。

「酒井さん、割れた壺持って来たんだけど、この間言ってた 金継ぎっての出来るかね?俺がやりたいんだけど。」

金二は入り口に置いてあるダンボールがのった台車を指差した。

酒井は入り口まで行くと段ボールの中にある割れた壺を注意深く見て言った。

「金ちゃんがやりたいの?結構時間と手間かかる地味な作業だよ。」

時間、手間、地味。どれも金二のキャラクターからは程遠い言葉だった。

普通に皿を作るのでさえ随分たくさんの工程があり仕上がるまでに日にちがかかっていた。その中で金二がやったのは成形だけだった。

金継ぎなんていう難しいことはプロにやってもらえばいいのだが、この間、徹に自分が直してみせるとはりきって言ってしまったのだ。

やるしかない。

「意地」が金二を動かすのだ。

「やるよ。酒井さん、手伝ってもらってもいいかい?」

酒井はうん。と頷いて「金継ぎ入門」と書かれたパンフレットを金二に渡した。


「じいちゃん、俺、5時にはなったら行くから。」

隅の木のベンチに座っていた若い男の子が言った。

「あれ、うちの孫の三春。」

酒井はその男の子を指して言った。

「今日友達と飲みに行くんだけど、ここの居酒屋行こうかな。焼き鳥1本50円セールだって。」

春馬は雑誌を開きながらこっちに歩いてきた。

あどけない顔の春馬は未成年にも見える。

「50円の焼き鳥なんてどうせ冷凍じゃないのかい?」

金二はできるだけフレンドリーな口調で春馬に言った。

「冷凍でもいいんです。」

春馬は雑誌の「大衆居酒屋居酒屋特集」を見ていた。

「友達と酒が飲みたいだけなんで。」

まるで酒を飲むことが当たり前みたいに言った。

ぱたんと雑誌を閉じて置かれた雑誌の表紙には「街角グルメ 11月号」と書いてあった。

金二はこの間、「街角グルメの編集者が取材に来た」と弁二が言っていたのを思い出した。

「この雑誌にうちの居酒屋弁二載ってるらしいんだよね。ちょっと見せて。」

金二は始めのページから「居酒屋弁二」の文字を探した。

でも、どのページにも居酒屋弁二の名前は載っていなかった。

「きっと来月号に載るんだな。」

そう言った時には酒井も春馬もうそこにいなかった。

こんな安居酒屋じゃなくてうちの弁二のとこ来てよ。

金二は大衆居酒屋特集のページを見ながら心の中で言った。




街角グルメ 11月号

編集後記


先日、中新川にある居酒屋弁二に行って来た。

暖簾に赤提灯、酒樽が置かれている店の入り口は大衆居酒屋のようだが、先代は寿司屋だったということでここでは本格江戸前寿司が食べれる。

昔ながらの味をそのまま守り続けているという大将のこだわりメニューはどれも昔懐かしい味だ。

中で私が一番印象に残ったのは食べる人によって味の感じ方が違うという厚焼き玉子。

一緒に行った編集部の一人は岩塩を使っているから玉子の甘みを引き出しているのではないかと言い、もう一人は鰹節を使った減塩醤油を使っていると言った。試しに他の人にも食べてもらったが、みんな感想が違っていた。一人の女性は海の香りが微かにすると言ったが私には全く海のかけらも感じなかった。私には作っている大将の汗の味がしたのです。

。。。汗の味がしたというのは嘘ですが、時代に惑わされずに先代から受け継いだ厚焼き玉子を作り続ける大将の汗の結晶がこの厚焼き玉子を特別にしているのではないかと思った。

え、それで結局その厚焼きには何が入ってるかって?

それは食べた人が感じた味が全てなので、何が入ってるかは重要ではないんです。

食べる人が本来持ってる味覚を引きだす厚焼き玉子なんです。

是非試してみてください。

編集部 新庄達

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