ベジタリアン ー美奈ー
「美奈ちゃーん、とりあえずビール4つ」
「はーい。」
美奈は素早くビールサーバーからビールをつぐ。
斜めに傾けたジョッキの内側を透き通った黄金色のビールが流れ、その後に泡を優しくのせる。
美奈は完璧な泡の割合のビールを溢れそうで溢れないままテーブルに置いた。
「美奈ちゃん、今日はうちの若いの二人連れて来た。」
常連客の新田と斉木が一緒に座っている若い2人を指して言った。
「この磯村ね、ベジタリアンだとか言って肉食わないって言うけど、男が肉食わなくてちゃんと仕事できるのかって話してたんだよね。そうだろう?」
まさに体が肉で出来てるような新田は美奈に意見を求める。
「体のためにそうしてるんでしょ、疲れが取れるとか、ああ、そう、癌にもなりにくいって聞いたことあるけど。」
美奈はうる覚えの知識で磯村に言った。
「そうです。」
磯村の草食動物の目が眼鏡の奥で微笑んだ。
「草食男子はダメだー肉食えよー肉」
新田はメニューの焼鳥を箸で乱暴に指した。
「少しは食べますよ。」
磯村は肉食の勢いに押されたようにそう言ったが、美奈はこの人の方が大人だなと思った。
美奈が「御通し4つ!」とキッチンに言うと
「これ、とおるのキャベツ」と海斗がたずらをした子供のような顔で小鉢を出してきた。
「ちょっと味見。」
美奈は弁二の味見スタイルを真似して箸でタッパーに入っているキャベツをつまんで手のひらにのせ、すぐにポイっと口の中に入れた。
フライパンで炒められたとおるのキャベツはニンニクとベーコンとその他の野菜と調味料の味を吸って違う料理へと変わっていた。
「とおるのキャベツもこうすれば使える〜」美奈は親指を立てていいね。をした。
美奈は持って行く前に小鉢の一つから入っているベーコンを取り除いた。
美奈は不思議そうな顏をして「なんでベーコン。。」と言いかける海斗を無視してテーブルに向かった。
「ホルモン系だけは無理だ。あれは食べるもんじゃないよ。」
「何言ってるんだよ、じゃ皮からいってみるか、うまいんだってほんと。」
「確かに皮はうまいっすよ。」
美奈はホルモンの話で盛り上がっている新田達のテーブルにさっと御通しを置く。
テーブルの奥に座っている磯村は自分の御通しにだけベーコンが入っていないのに気づき、頷くくらいの僅かな動きで頭を下げた。それがありがとうだと言うことは美奈に伝わった。
キッチンに戻る美奈の足どりはスキップするように軽い。
磯村の笑顔にくすぐられたように静かに笑った。
(常連客 、戸田)
「戸田さん、新しい箸どうぞ。」
そう言って美奈ちゃんは箸を持って来てくれたんだ。
他の客にあれこれ言われて忙しくしていたのに、いつの間に美奈ちゃんは俺が箸を落として拾ったのを見ていたんだろう。
「美奈ちゃんはいつも一生懸命でテキパキ動くねー」って美奈ちゃんに言ったら、「ありがとうございます」って軽くお辞儀したんだけど、その斜めに控えめにするお辞儀を見て美津子を思い出したよ。
笑顔の雰囲気かなぁ、なんかが似ててね。
後ろ姿の美奈ちゃん見て思ったんだ。
美津子みたいいいお母さんになるよこの子。