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先生攻撃  作者: 1の人
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到来

 先生攻撃


 2028年4月5日

 誰もが現実視していなかった戦争の火が近々日本に及ぶと通告された。

 同盟各国は日本への支援にあまり協力的では無いらしく、さらに日本国憲法が邪魔をして防衛に回るしかない現状に日本国民はただ怯えるしかない様だ。

 そこで日本政府は対策として極秘計画を企てた。

 その内容は、日本国籍を事実上破棄した兵隊を育成し戦場へ送るというモノで、この計画は既に2年前から進んでいる。

 日本中の孤児や無職の若者を集め、ある程度高額な報酬と生活の補償を餌に育成学園に入学させるという内容だが、この計画を知っているのは日本政府とこの計画に参加した者のみだ。


 俺はその学園の第一期としてここに二年居る。齢十八でまさか軍に所属することになるとは思っていなかったが、高校三年間ほぼ引きこもり続けた俺がまともな職に就く事ができるはずも無く、両親はそんな俺を見限り、二十歳を過ぎたら勘当だと告げられていたのだから、生活保障と報酬の美味さに吊られてここに来てしまった。

 最初の1年は地獄そのものだった。

 運動不足が祟りまともに銃を構える事も出来なかったのだ。体力不足以前に絶望的に筋力が足りなかった。

 2年目はかなりマシになったと思う。

 基礎体力も筋力も得た事で成績も平均に並び始めた。

 元来の性分から俺は後方支援科に所属しているが、それでも戦場にはいずれ駆り出されるだろう事から銃器の扱いも学び、今はスナイパー兼スカウトを担当している。


 そして今日二十一歳となった俺は、この学園最後の年になる三年として。戦場へ赴く者としての最後の追い込みが始まる。


 朝七時、春らしい冷えた心地の良い空の下、まだ真新しさの伺える白塗りの校舎。一般人に存在を知られないため普通の学園風の見た目だがその内は現代技術のびっくり箱の様になっている。

 昇降口を潜るとそのまま各教室への廊下が続いているがコレはフェイクだ。そのまま昇降口脇の非常口に入ると地下へ続く螺旋階段があり、その先に本当の廊下が続くエレベーターがあるのだ。

 地下独特のヒヤリとした空気を吸い込むと、ここ二年で吸い慣れた硝煙の錆びた匂いが僅かに漂っている。


 先週届いた通知表には今年の配属クラスも記載されており、俺は今年3-Aになる。

 クラスはK組まであり、其々成績の偏りを無くした配属らしい。


 暫く廊下を進むと3-Aの立て札が見えて来た。

 既に何人か教室に居るらしく、喧騒なんかもチラホラと聞こえる。

 この学園のドアは完全防音になっていて、開け閉めがかなり大変だ。重厚な鉄の扉の重さを知っているここの生徒は授業が始まるまでドアは閉めないという暗黙のルールがある。

 教室に踏み入れると何人かがおはようと挨拶してくれる。適当に返事をしつつ自分に充てられた席に着きそのまま机にもたれて瞼を閉じた。


 元引きこもりだが銃器を扱い、人を殺す為の訓練をしているのだ。以前のコミュニケーション障害はある程度克服したし、身体を鍛えた事からくる僅かな自信で今では誰かと話すくらいなら全く問題なくなっていた。


 暫くそんな事を考えていたら誰かに肩を叩かれた。朝の気怠さの中顔を上げるとそこには、一年時の何も出来なかった俺にこの学園で初めて声を掛けてくれた子、柿田玲香(かきたれいか)が笑みを携えていた。


「おはよ!今年も同じクラスだね、ニンゲン君」


「あぁ、おはよう。よろしくねカキタレさん」


 彼女の特徴的な名前と垂れ目から、俺はカキタレさんと呼び、彼女は俺の特徴的過ぎる名前『人間(ジンノハザマ)』をニンゲンと読み、そう呼んでいる。


 小中学校ではその名前で呼ばれ虐められていたから最初はやめて欲しいと思っていたのだが、結局やめての一言が言えずに時が過ぎ、気がつけばもうその呼び名が定着してしまったのだ。

 この学園では女生徒が珍しく、一クラス五十人中七人しかいない。そんな貴重な女生徒と気軽に接している俺に僻みややっかみが襲いかかる事もあるが、今の所暴力沙汰に巻き込まれた事はないのが救いか。

 彼女は俺左隣の席に座り、荷物整理を始めた。どうやら席は隣らしい。


「そういえばね、さっきBクラスで聞いたんだけど今年から凄い先生が来るらしいよ」


 机の上で装備品の点検をしながら話す彼女を見て、俺も手持ち無沙汰の為鞄から装備を引っ張り出す。


「へぇ、でもこの学園に来る先生って自衛隊でしょ?戦争経験が無いことに変わりはないでしょ」


 ハンドガンのベレッタM92と、スナイパーライフルのM110の整備をしながらこの学園の先生達を思い浮かべる。


 日本人で戦争を経験した人はもう殆どいない。居たとしてももう教職に就ける様な年齢ではないのだ。

 その為自衛隊がここの教師を勤め、俺たちを教育している。


「そうなんだけどね、どうも日本人じゃないみたいなの」


「外国人?日本の軍教育に海外から来るってどういう事だよ?よく採用されたな」


「うーん……私もそう思ったんだけどね?Bクラスの子はそれ以上知らないみたいなの」


 この学園の武器装備はアメリカ軍が提供しているらしく、俺のM92やM110もアメリカ軍の装備らしいのだが教育者までアメリカに頼ったのだろうか。


「ま、今日中にその新任教師も紹介されるだろ?もうすぐ始業式だからそろそろ移動しようか」


 俺もカキタレさんも点検が終わり、同時に席を立つ。

 不意に、ふわりと浮かぶスカートやその先の白い脚が目に映る。

 咄嗟に目を逸らしたが、その様子に訝しげに首を傾げるカキタレさんにやはり意識が向いてしまう。


「どうしたの?早く行こ?」


「あ、あぁ。うん」


 この甘酸っぱい感情と地下の冷たい空気は俺の中で綺麗に混ざり合う。いつか、きっと。




 体育館のような会館で始業式は恙無く進行した。

 学園長による軍人としての精神語りを聞き、新入生歓迎の言葉に続き、……。


「続いて新任教師の紹介を行う」


 きた。

 あまり興味があるわけではないが、やはりさっきの話を聞き少し気にはなっていたのだ。

 噂通り外国人なのか、噂話が一人歩きしただけなのか。


「ではアフィリアス先生。お願いします」


 アフィリアス。やっぱり外国人なのか。

 浅黒い筋肉の塊の様な巨漢の姿が脳裏を過った。

 何の担当教員かわからないが、日本語が苦手なんてオチは避けて欲しい。


 微かな不安と、大きな期待の視線を集める舞台上に、足音が響く。

 ツカツカと軽い音を鳴らしながらそいつは現れた。

 金の髪を靡かせ、軍服とスーツを足して2で割った様な服。

 ヒールが異様に似合う一種の色気を漂わせた姿。


「……今日から3-Aの担任教師を勤める。アフィリアス・エートです。皆、よろしくね」


 俺たち3-Aの敵は、まるでそう思わせずに懐に潜り込んでいた。

 この時の俺たちはまだ、本当の敵を認識できていなかったのだ。



 To Be Continue……

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