表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忌み子のウォーカー  作者: 優木悠介
第一章 旅立ちと藍い眼の少女
9/85


朝になり、テレーシャが1階に降りてくるとため息をつきながら言った。

「あんたたち、本当に朝まで話し続けていたんだね。」


ルルリカは頬を紅潮させながら答えた。

「おはよう、お婆ちゃん。だってウォーカーくんと話すの楽しかったんだもん。ねぇ聞いてお婆ちゃん!ウォーカーくんったらね!」


「あぁ、いいよ、いいよ。あんたたちの話に巻き込まれたら、今度は今日の夜まで続きそうだよまったく。」


その後、結局ウォーカーは朝食までご馳走になった。

そろそろお暇しなければとウォーカーは最後に聞いた。

「ルルリカは今日も森に行くのか?」


「そうですね。今日も薬草を採りに行きますよ。」


「それなら一緒に森に行かないか?俺に薬草のこと教えてくれよ。」


「え!良いんですか?」

ルルリカは満面の笑みで答えると、準備をしてきますねと2階にかけあがっていった。


ルルリカが2階に行くのを見届けたテレーシャは居住まいを正し、少しだけ声を落としてウォーカーに言った。


「ウォーカー、あんたもシンヤの街に行くんだろう?あの子もあと3日で18になってこの町を追い出されちまう。頼む、シンヤの街まであの子と一緒に行ってやってくれないかい?きっと馬車の類は、あの子を乗せてくれないだろう。街までの護衛を雇おうにも、きっと誰もあの子を護衛してくれない。ここからシンヤの街まで10日以上かかる。あの子が死んじまうんじゃないかとわたしゃ心配なんだよ。」


泣きそうな顔でそこまで言うとテレーシャは深く頭を下げた。


「どうかこの通りだ。」


ウォーカーは慌ててテレーシャに頭をあげさせながらと言った。


「そんな、頭をあげてくれ!もちろん俺だってルルリカと一緒にシンヤの街まで行けたら嬉しいよ。願ったり叶ったりだ。ルルリカさえ良いと言ってくれればだけど。」


「ありがとう、ありがとう。」

テレーシャはウォーカーの手を両手で包みながら頭をさげたまま何度もお礼を言った。


ウォーカーが気まずそうにわたわたとしていと2階からルルリカがおりてくる足音がした。そこでようやくテレーシャは顔をあげ何事もなかったかのように取り繕ったが目元が少しだけ赤かった。


ウォーカーの顔をみたルルリカがきょとんとした顔で少し首をかしげながら言った。


「ん?どうかしましたか?」


何も言えないウォーカーに対してテレーシャは、さも何事もなかったかのように言った。

「いや、何でもないよ。気を付けて行ってくるんだよ。」


ルルリカは腑に落ちていなそうだったが、追及するのは諦めたようだ。


2人で外に出る。ウォーカーは外の眩しさに目を細めて空を見上げた。まさにこれこそが快晴といったような空がウォーカーを見守っている。どこまでも遠くに続く、深い空の色を見ているとルルリカみたいだなと思ってくすりと笑った。


「いきましょう?」

ルルリカが笑顔で伝えると2人並んで歩き出した。


ウォーカーは、浮かれ気分で空に気を取られてしまっていたため、普段であれば見逃さないような鋭い視線に気づけなかった。

その男は建物の陰から、2人の姿をじっと射殺すように見ていたが、十分に距離が離れるとその体躯からは想像もつかないような軽足で町にすっとまぎれた。



テレーシャの家を出た後の2人の浮かれた足取りは、すぐになりを潜め、どこか無機質な歩きに変わった。


ルルリカと歩いているウォーカーは、嫌でも町人たちからの視線を感じた。忌み子と連れ立って歩く男を怪訝に思い、じろじろと不躾な視線を浴びせてくる。


ルルリカは小さなか細い声で「ごめんなさい」とウォーカーに言うが、ウォーカー自身今までもっと酷い視線を浴びてきた。今更そんなことは気にならない。そんなことよりもルルリカと一緒にいることの方がずっと良いと思った。


「俺だって慣れてるさ。」

ウォーカーは軽い口調で伝えた切り2人は黙々と歩いた。


門までやってきた。

門番の男は先日の親切な男ではなかった。

門番はチラと二人の様子を見たが、出ていく二人に何を言うでもなく、必要以上の視線も送ることもなかった。



町を出て、10分ほど黙々と歩くと門番の姿はまるで見えなくなった。

門番から十分な距離があいたせいなのかウォーカーにはわからなかったが、ずっと石のように黙っていたルルリカが、ようやっと家の中で話すように明るい口調で紡ぎ出した。


「ねぇウォーカーくん。私たちが初めて会ったあの場所のこと覚えてますか?」


「あぁ、もちろん。」


「あの辺りは薬草がよく群生している場所なんです。今まで何度も採りに行ったけど一度も人に会ったことがなかったから、きっと町の人たちも知らない場所なんだと思います。」

そこで、ルルリカはそこでクスりと笑うと、ウォーカーくんに会うまではですけどね、と最後に付け足しながら言った。


「今日もあの辺りまで行ってみようと思うんですけど、それでも良いですか?」


「ははは、もちろんさ。なんて言ったって今日はルルリカが先生だろ?薬草のこと、教えてくれるんだろ?」


顔を赤くしながらルルリカは上ずった声で答えた。

「せ、先生ですか?私が?き、緊張しちゃいますね。ただ、私レベルの知識ではあんまり役に立たないかもしれませんよ?専門家みたいなことはわからないですからね?」


「まったく知識のない俺からしたら、大先生だよ。」

おどけて言ったウォーカーの言葉に、ルルリカはコロコロと笑った。


「あっ、それとそこに行く前に、実はちょっと寄りたいところがあるんです。」


「寄るところ?寄ると言っても・・・。」


怪訝そうにウォーカーが聞き返すといたずらっぽくルルリカは言った。

「ちょっとした野暮用みたいなものです。そんなに遠回りにもなりませんので。こっちです。」



そこから1時間以上は歩いた。

途中、魔犬が出たがウォーカーが仕留める前に、ルルリカが背負っていた弓を構え、すぐに1本の矢を放った。矢は魔犬の足元にドスッとささり、魔犬は襲ってくることなくすぐに踵を返し逃げて行った。


ウォーカーにはルルリカがわざと矢を外したように見えた。しかしすぐに、ルルリカは矢を外してしまったことを謝ってきたので、気のせいかと自分を納得させ、わざわざ追及することはしなかった。


ルルリカは道すがら点在する薬草を見つけては、歩きながらその薬草がどういった薬効があるのかなど簡単に説明してくれた。


「この薬草は沸騰したお湯に入れて、煮出してください。茎の色が黒くなったら取り出して、煮出し汁を冷ませば完成です。二日酔いに効く薬になりますよ。」


「なるほどなぁ。お!ルルリカ、あれってさっき頭痛薬になるっていってたやつじゃないか?」


ルルリカがウォーカーが指さす方を見ると、確かに頭痛薬の素になる薬草だった。

「あ、本当ですね。」

ルルリカはそう言うと、にこやかにその薬草を摘み取った。


ウォーカーは学こそ無いものの、決して物覚えが悪いということはなかった。

もちろん完璧とはいかないが、ルルリカが話す内容をある程度は覚えてその身につけている。


ルルリカも、こんなにウォーカーがすぐに覚えられると思っておらず内心は驚いていたが、そんなことはおくびにも顔に出さなかった。


「でも、ウォーカーくん。全部採ったりしたらダメなんですからね?」

薬草が極端に減ってしまうことがないように、群生している薬草を全部採りつくすことがないように、と先ほどから何度目かわからないほどの注意をした。


「わかりましたよ。先生。そんなに信用のない生徒ですかね?」

ウォーカーはおどけて言うとルルリカはクスクスと笑った。



そこからまた少し歩くと、ついにルルリカのいう寄りたい場所とやらに到着したようだ。

「ここです。」


「ん?ここ?特に何もないように思えるが・・・。」


ウォーカーが辺りを見回していると、ルルリカが左手を口に運び、小さく指笛を拭いた。

そんなに大きい音ではないため音はすぐに森の中に吸い込まれて消えてしまう。


すると茂みの奥の方からからガサガサと音がしだした。


一瞬でウォーカーは警戒態勢を取るも、ルルリカが茂みの音に警戒する様子がなかったため、ウォーカーは怪訝に思いながら、茂みを見つめていると、一匹の魔犬が飛び出してきた。


視界に魔犬をとらると、ウォーカーは背中から一瞬で金属棒を抜き、ルルリカと魔犬の間に割り込んだ。


「あ、待ってください!大丈夫ですから!」


慌ててウォーカーを止める。ルルリカがいう通り魔犬がこちらを襲う様子はない。

ルルリカが前に進み出ると、魔犬は彼女の手に鼻先を擦り付けだした。


「なついているのか?」


ウォーカーが驚きながら聞くと、ルルリカは魔犬を撫でつけながら答えた。


「はい。半年ほど前でしょうか?ここでケガをして弱っていたこの子を見つけたんです。手持ちの薬を塗って、エサをあげてたらいつの間にかになつかれてました。」


ルルリカはカバンからパンを取り出すと魔犬に与えた。

夢中でパンに噛り付く魔犬を見ながら、ルルリカがいった。


「シロポチって名前なんです。ほら頭のここに白くぽちっとした柄があるでしょう?」


「こんなに人になついているんじゃ、魔犬じゃなくて普通に犬なんじゃないかと思えてくるな」

ウォーカーがそう言いながら彼自身も魔犬に近づき、シロポチと呼ばれた魔犬の頭をおっかなびっくり少しだけ撫でた。シロポチはウォーカーに対しても全く襲う様子がない。


少し撫でただけでウォーカーはすぐに魔犬から数歩は離れた位置に下がった。


「もうケガも治っているので、普段エサは自分でとっているんです。それでもここで口笛を吹くと、今でも来てくれるので、たまにパンをあげています。それも、もう今日で最後ですね。」


ルルリカはシロポチの頭を撫でながら小さな声で言った。

「私はもうすぐ町をでるから、もうここに来ることはできなくなっちゃうんだ。今日でお別れ。できれば人は襲わないようにね?」


言葉が通じているとは思えないがシロポチは弱々しく一度クゥーンと鳴いた。


「ほら、さよなら」とルルリエがシロポチの後ろ脚をポンっと軽く叩くと、ゆっくりと茂みに向かっていく。

一度だけ振り返り、最後にルルリカと視線を交わすとサッと茂みに入っていった。


ガサガサと遠ざかる音が聞こえなくなるまで、ルルリカはウォーカーに背を向けたまま、そこから動かなかった。


音が聞こえなくなると、ルルリカはウォーカーに向けて振り返り無理に明るく言った。


「おまたせしました。いきましょう。」


「あぁ。」

ここで何か言うのは無粋だなと思ったウォーカーは返事だけすると、ゆっくりと歩き出した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング お気に召して頂けましたら、宜しくお願い致します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ