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忌み子のウォーカー  作者: 優木悠介
第一章 旅立ちと藍い眼の少女
5/85


ウォーカーはトカの町に戻ってきた。

まっすぐにマスターの酒場に向かう。


夕方近い時間だったため、昼間にはあまりいない酒飲み客が今日は随分多かった。


「いらっしゃい。あぁウォーカーか、おかえり。今日も討伐か?」


「そうだ。」


ウォーカーはいつも通り、背負い袋から魔犬の鼻先を取り出しマスターに渡す。

この数日ですっかりこのやりとりにも慣れたウォーカーの動きに淀みはない。人と接するのにも随分と慣れがでてきたようだ。


「ほらよ。報酬分だ。」


マスターから報酬金を受け取ると、ウォーカーは少女が落としていった草を取り出しながら口を開いた。

「なぁマスター。この草が何かわかるか?」


「ん?あぁ、こりゃ解熱薬になる薬草に、それからこっちは切り傷に使う薬用の薬草だな。」

普段あまり無駄な話をしないウォーカーからの言葉に意外そうな顔をしながらもマスターは答えた。


「ウォーカーが薬草を見つけてくるなんて珍しいな。てっきり目利きがきかないんだと思っていたが・・・。コイツなんかは特に高く売れるだろうな。珍しいし需要がある。」


「俺に薬草の目利きなんて出来ない。コイツは何の薬草なんだ?」


「あぁ、金持ち共が買うんだ。脂肪を燃焼させる・・・らしい。本当かどうかは俺にはわからん。まぁウォーカーには無用の代物だな。お前はもっと食った方がいいぜ。」


「ふーん・・・そうか、わかった。ありがとう。この薬草は俺が採ったんじゃないんだ。森でちょっとな。それとこの町で、すごく綺麗な藍色の眼をした娘に心当たりはないか?多分俺とそんなに歳はかわらないくらいの『藍色の眼!?お前それあの忌み子のことじゃないだろうな!』


カウンターで酒を飲んでいた40中頃くらいの大男が突如大声で喚き散らした。


ウォーカーは大男の声量にも驚いたが、それよりも忌み子という単語に心臓が跳ね上がった。

マスターは少し眉を潜めた気がしたが特に何も言わない。


ウォーカーが冷や汗交じりに大男の方を向くと随分と酔った様子だった。

「テレーシャのところの忌み子じゃねえだろうな?!」

大男は持っていた酒のグラスをカウンターに叩きつけながらウォーカーに向かって騒いでいる。


「あんたの言う忌み子のことかはわからない。森で見かけたんだ。この町に”も”忌み子がいるのか?」


ウォーカーの言葉にマスターはチラとウォーカーを見たがすぐに手元のグラスを拭く作業に戻りながら言った。

「ランチさん。あんまり騒がないで下さい。他の客に迷惑がかかる。」


他の客は最初こそ何事かとカウンターの方を向く者がいたが、騒いでいるのがランチという大男だとわかると、興味を失ったようにランチに負けないくらいの自分たちの騒ぎの輪に帰っていった。

まるでランチに負けるなと自分たちも盛り上がっているかのようだった。


ランチと呼ばれた大男はマスターの言葉など気にも留めずに鬼のような形相でウォーカーに言った。


「あぁ!いるさ!飛び切り気味の悪いのがな!!すぐにでも殺してやりてぇよ!あぁ!今すぐにでもな!!テレーシャって婆さんの孫だ!西側の区画と中央通りの間あたりに住んでやがる!!」


そこでランチは言葉を区切り今までの憤怒の表情から一変して、にんまりいやらしい笑みを浮かべながら言った。


「だが、我慢もあと少しだ。もう時期、あのガキも18だ。町を追い出される歳だ!テレーシャの婆さんがどんなにかばったところでな!ハハハハハ!もし18になっても町に残ろうなんて真似しやがる様なら、婆さん共々俺が仲良くあの世に送ってやるよ!!成人しちまえば奇病も怖くねぇからな!ハハハハハハハ!!」


そこまで言うとランチは随分機嫌が良くなったのか、「今日はな!大猪を殺ってやったんだ!」マスターに今日の稼ぎが如何に良かったか、自慢話をし出した。マスターは呆れ顔で適当に相槌を打っている。


「西側・・・。忌み子・・・。」

ウォーカーは町に来た初日に門番の男から言われた言葉を思い起こしていた。


”あまり西側の地区には行かない方が良いだろう。西側にはスラムがある”


青い顔でフラフラと出口に歩いていくウォーカーに少し慌てた様子のマスターが「あ、おい!ウォーカー!」

と声をかけるも、心ここにあらずといった様子で歩くウォーカーには届かなかった。


「おい!マスター!聞いてんのかよ!」

ランチの大声が、夜の帳がおりつつある中央通りに響き渡っていくようだった。




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