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忌み子のウォーカー  作者: 優木悠介
第一章 旅立ちと藍い眼の少女
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ウォーカーは自分の見立ての甘さを痛感していた。

狩りを始めた初日。トカの町を出て小一時間ほどの場所で2匹の魔犬を殺し、金属棒の先端で起用に鼻先を切り落とし、毛皮をはいだ後で気づいた。


彼は背負い袋の一つも持っていない。

魔犬2匹分くらいの素材であれば何とか持ったまま移動できるが、これ以上の量を持つことはできないし、このままでは次に魔物に遭遇した時まともに戦うこともできない。


仕方なく2匹分の魔犬の素材を持ったまま、町に引き返すことになった。

もし帰り道でまた魔物に遭遇するようであれば、素材を地面に投げ打って戦うしかなくなるかもなと覚悟しながら。

帰り道、結局1匹の魔犬に遭遇するも”発光”による威嚇で逃げて行った。


あまり町の側で”発光”を使いたくない。誰かに目撃され、忌み子だと町でバレる訳にはいかないのだ。バレた結果どう転ぶか分からない。素材の買い取りや討伐依頼の報酬にどんな影響が出るとも限らない。


町に帰ったあと無事に討伐報酬を酒場のマスターからもらうことができた。

魔犬の毛皮も酒場のすぐそばの雑貨屋に売った。酒場のマスターからそこを勧められたのだ。


初日の収入はそのまま背負い袋代に消えていった。

用途を考えればどうせ血で汚れるものだと品質よりも大きさと、どれだけ素早く背中からおろすことができるかで選んだ。

戦闘の邪魔になるものはできるだけ避けたい。



それからのウォーカーは基本的にトカの町の外で過ごしている。

宿を取るにも金がかかるし、どのみち眠ることができないのだ。


トカの町周辺で魔物を狩り、素材を運びきれなくなる前にトカの町に戻り素材を売り、討伐証明をマスターの酒場に持ち込み、また町の外に出ていく。

そんな生活をあれから3日ほど続けた。


どうやら魔物狩りというのは割りと金になるようだ。

このペースで金が溜まるならばここで十分装備を整えられるだろう。


ウォーカーの場合、その気になれば”発光”の力により簡単に魔物の隙をつくことができるし、手に負えないほどの大群に遭遇したとしても発光の力で威嚇すればその辺の魔物は逃げ出す。

可能な限り発光は使わずに戦うが。


狩る魔物は結局魔犬ばかりだ。

大猪に遭遇したのは1度きりだった。遭遇した時、ウォーカーは大猪の突撃を引き付けてかわし、すれ違い様に何とか金属棒を突き刺そうとしたが、その厚い皮に突き刺すことができず、そのまま大猪は森を駆け抜けていった。

ソードモンキーについてはただの一度も遭遇していない。


「ん?」


木々の隙間から遠目に、誰かがいるのが見えた。

森の中少し開けた場所にしゃがみ込んで何かしている。


この距離からではまだはっきり見えないが、線が細く華奢な体つきは少女のように見えた。


ここは町から歩いて3時間はかかるような場所だ。

戦いの心得がない人間が安全に来れるような場所ではないだろう。


「なぜこんなところに女の子が?あれは・・・薬草か何かを摘んでいるのか?」


ウォーカーは独りごちると少女の方に向けて歩きだした。

よくよく見ると、手にはカゴを持っているようだ。草を摘んではそのカゴに入れている様子をみるにきっと薬草を摘んでいるのだろう。


距離が近づいてきたときウォーカーの草を掻きわけるガサガサとした音に、少女は反応しハッと振り返った。

ウォーカーと少女の眼が合った瞬間、少女の目は驚愕に開かれ、驚きの中に怯えの混ざった眼をしていた。


ウォーカーは眼があった瞬間、その場から動けなかった。ウォーカーもまた、少女の怯えた眼に驚き、次の一歩が踏み出せなかったのだ。


時間にしてほんの一瞬だったはずのその瞬間は、ウォーカーにとってどれだけ長い時間に感じただろうか。


ウォーカーは少女のその眼に吸い込まれていくような、そこに向かって落ちていくような、不思議な錯覚を覚えていた。

少女の目はとても深い(あお)だった。それでいて、どこまでも澄んでいた。


まるで刻も音もそこに置いてけぼりにされていくような奇妙で心地良い錯覚。それはウォーカーに、

”ずっとこのまま少女の眼を見ていたい”

そう感じさせていた。

いつまでもこのままだったらいいのに。


「・・・ぁ」

ウォーカーの喉から微かな音が零れ落ちた瞬間、動き方を忘れていた時計は時間の刻み方を思い出したかのように動き出した。


少女はバッと立ち上がると共に、ウォーカーとは真逆の方向へ踵を返し駆け出した。

みるみる少女が森をかけわけるガザガサした雑音が遠ざかっていく。


少女の見た目に反したそのはやさに呆気にとられ、ウォーカーは半歩だけ前に足を動かし、まるで遠くの少女の肩を掴もうとするかの様に不器用に右手を前に突き出し、空をきることしかできなかった。


少女にも余裕はなかったのだろう。少女は手にしたカゴこそ持ったまま逃げて行ってしまったが、肝心なカゴの中身、薬草のような草は辺りに散乱してしまっている。


「悪いことしちゃったかな。」


散乱した草を見ながら彼はつぶやく。すでに少女の姿も、少女が発する雑音さえもここには残っていない。


ウォーカーは緩慢な動作で、辺りに散乱した草を拾い集めた。今日はもうトカの町に一度戻ろうと思った。


もしかしたらトカの町で先ほどの少女にまた会えるんじゃないかと、そんな淡い期待を抱きながら歩き出した。




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