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2017/10/30 一部内容を改稿しました。
夜が明けるとウォーカーは足取り重くゆっくりと歩き出した。
昼前にはトカの町につくだろう。
木々からの木漏れ日に陽気な気候。そんな中をもたもたと歩いていると、
「・・・あれがトカの町か」
木々の合間から柵が見え始めた。遠目にもチーリクの村とは比べようもないほど大きい。
門番のような者さえいる。
2人の門番からも粗末な服をきた青年が歩いてくる姿は遠目から見えていた。
ウォーカーが門に近づいても特に特に警戒する様子はない。
「青年。トカの町に何用だ?」
「あ、えっと・・・。旅の装備を買いたいんだ。それとそのための金も稼ぎたい。」
ウォーカーは必死に平静を装っているが心臓は早鐘のごとく彼の胸を打ち続けている。
「ふむ。どこから来た?」
門番は緊張した様子の青年をみて、田舎から初めて町にやってきた少年をみる微笑ましい気持ちになり穏やかに聞いてやった。
「チーリクの村だ。」
「チーリク?随分とまぁ田舎からきたものだ。まぁ良い。商店ならば町の中央通り沿いに多い。あまり西側の地区には行かない方が良いだろう。西側にはスラムがある。仕事を探すならば酒場に行くのが手っ取り早いだろうな。酒場も中央通りにある。酒場にならば依頼書があるだろうし、商店にツテがあるならば直接商店から依頼を受けても良いだろうが、まぁ難しいだろうな。」
「あ、あぁ。ありがとう。」
ウォーカーの心臓はいまだに彼の胸を強く叩き続けていた。これまでの人生でこんなに”普通”の会話をしたことはなかった。
「さぁ、何を突っ立ってるんだ。早く通れ。このまま真っすぐ進んでいけば中央通だぞ。あと、問題を起こすなよ。」
ウォーカーは一度頷くと、ぎこちない歩き方で足早に町の中へ足を踏み入れた。
問題なく町に入れたことにホッと胸を撫で下ろしながらも、彼の頭の中には人と会話をしたことで一杯だった。
ぼんやりと考え事をしながら歩いていくと次第に通りに活気が出てくる。通りの両脇には様々な商店が並ぶ。まずはどれほどの資金が必要になるか確認のためにも通り沿いの店をひやかしていく。
先ほどまでの緊張から一転、うまく事が運んだことに浮かれ足取りも軽くなる。
「粗悪品でもこれだけするのか・・・、命にかかわるものと思えば実用レベルのものが必要になるよな。」
彼の浮ついた気分は、つい思ったことを口に出してしまうほどだった。声が聞こえたのか商店の店員が少し不機嫌そうな顔をしたが、ウォーカーはまるで気づかない。
道すがら酒場は何件もあったが、ふと一軒の酒場が目についた。他と比べどこか明るいたたずまいだった。
自然と足はその酒場に向く。
「いらっしゃい。見ない顔だな。」
扉を押し開くと、中から声がした。かなり渋いおっさんだ。強面であるがその声は落ち着いたものだ。知性を感じる穏やかな声はこのおっさんの人柄をあらわしていた。
「あぁ。俺はウォーカー。今日この町に来たんだ。仕事を探している。」
浮ついた気分で普段よりも随分と明るい調子で会話を行う。
「そうか。俺はこの店の店主。まぁマスターとでも呼んでくれよ。仕事なら、そこの壁に張り出されてる。興味があるものがあれば言ってくれ。」
マスターが指を刺した壁面をみると、依頼書と思わしき紙が貼ってある。マスターのその一言でウォーカーは気持ちがスッと冷えていくのを感じた。
「すまん・・・俺は文字が読めないんだ。」
チーリクの村がいくら小さな村と言えど、村長が子供たちを集め文字の教育や計算を教えている。
ウォーカーは忌み子であったため、その教育の場に参加させてもらえなかった。
ウォーカーは辛うじて貨幣の数え方や簡単な釣りの計算ができるだけだ。
それすらも子供達が教わる姿を盗み見たり、大人たちが村の小さな雑貨店で売買をする姿を見ながら学んだものだ。
「なに?文字が?・・・そうか。それならばお前はどんな仕事を探しているんだ?魔物の討伐、薬草なんかの収集系、護衛、町中の雑務全般、仕事なんて一言では言い切れないほどたくさんあるぜ?」
「一番手っ取り早く稼ぐにはどうしたら良い?」
「手っ取り早くか・・・。それならば町の外で魔物を狩って討伐系の依頼をこなしながら、魔物の素材を商店に売るのが一番だろうな。薬草の目利きがきくんならついでに薬草も取って来れれば、なお良いだろうな。もちろん、後ろ暗い仕事ならもっと稼げる仕事はあるだろうが、この店じゃそう言ったもんは扱ってないんだ。悪いがな。」
「なるほど。俺にもできそうだ。この辺りで討伐依頼というとどんな魔物が対象になるんだ?」
「そうだな。魔犬、大猪、それとソードモンキーといったところだな。魔犬と大猪は鼻、ソードモンキーは尻尾が討伐証明になる。3種類とも町長から常時依頼として出されているな。ここに討伐証明さえ持ち込んでくれれば1匹単位で金を出せる。それから魔犬は皮、大猪は皮と牙と肉が商店に売れるだろう。ソードモンキーは素材というよりかは、その手に武器を持っているからな。その武器が売れることがある。ただし個体によって持っている武器が異なるからな。当たり外れが大きいだろう。」
「わかった。丁寧にありがとう。」
「あぁ、気を付けてな。」
ウォーカーは踵を返し酒場を出た。
魔物を狩るため町の外に向かおうと歩いている最中ふと気づいた。
自分の着ている装備がかなりみすぼらしいことに。
チーリクの村の中でも確かにウォーカーの着ている革の服はボロいものであったが、チーリクの村ほどの田舎では、ほとんど皆似たり寄ったりのレベルの服であったため特別気になることはなかった。
しかし、トカの町レベルになると服装で悪目立ちしてしまっている。
「まいったな。水筒だけのつもりだったが・・・そうもいかないかもな。」
何にしてもまずは金だと、できるだけ目立たないように足早に中央通りを歩き去った。