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忌み子のウォーカー  作者: 優木悠介
第一章 旅立ちと藍い眼の少女
2/85

2017/10/30 一部内容を改稿しました。


ウォーカーがチーリクの村を出て8日がたった。

ここまでの旅は順調である。天候に恵まれ、雨に晒されることもなかった。

川沿いの道を歩いているため飲み水には困っていないし、食料は森からいくらでも調達できる。


ただ、森の中は安全とは言えない。この辺りは魔犬が多く生息している。魔犬は犬が強暴化し野生化したもので、世界中で最も知れ渡っている魔物の一種だ。魔物の中では比較的弱いものになるが、それでも数がそろえば脅威になる。



基本的に彼が深夜、森で休んでいるだけで食料は勝手に彼に寄って来る。


「・・・きた。」


それまで虫が発する音色しかなかった森にガサッと茂みが揺れる音が混じり出す。


「グルルルルルル」


ウォーカーの視認できる範囲に1匹の魔犬が繁みから現れた。


「後ろにもいるな。」


背後からはほとんど音は響いていないが、そこには確かに生き物の気配があった。

静かな森の中で特に意識することもなく、ウォーカーの口からは独り言が零れる。それは自身を奮い立たせる覚悟の言葉のようにも聞こえる。


突如、ウォーカーは手にしていた唯一の武器である金属棒を、振り向く勢いを利用し思い切り横に振りぬいた。

金属棒が空気を裂くヒュオッという音を発した直後、ウォーカーの腕にガッと確かな手ごたえが伝わってくる。そこにしっかりと体重をのせ最後まで体を捻り切る。


「ギャッ!」

前方の2匹が威嚇している間に背後から音もなく飛び掛かった魔犬を、金属棒で鋭く叩き落としていた。地面に転がった魔犬の前足は2本とも在らぬ方向に折れ曲がっている。


「ハァッ!」

ウォーカーが叫ぶと同時に背後に強烈な閃光が走った。ウォーカーが背後の魔犬に対応した隙に、まさに飛び掛かろうとしていた前方の魔犬はその閃光により一瞬で彼を見失う。


その隙は致命的なものになる。次の瞬間には前方にいた魔犬は、金属棒に刺し貫かれ地面に縫い付けられた亡骸に変わっていた。きっと何が起こったのか理解する暇もなかっただろう。


ウォーカーはゆっくりと、前足を折られ地面をのたうち回っている最後の魔犬へ近づき静かにとどめを刺した。



彼は魔犬のうち1匹だけ素早く血抜きを行うと、自分が食せる分だけ魔犬の肉を金属棒の先端で切り出し、肉を手に足早にその場を立ち去った。

もたもたしていると血の匂いに獣が集まってくる。


十分に離れた場所までくると、火を起こし肉を焼き始めた。

今日も無事に食料の確保ができた。火の温もりに体の力を抜き、木の幹に背中を預けた。それだけでも足から疲れが地面に溶け出していくようだ。


「はぁ・・・」


ウォーカーは憂鬱だった。ここ最近は体を休めるたびに頭を悩ませている。


彼はここに来るまで、途中の小さな村々には全く寄らずに来た。


それは、眠る必要がない彼には村に立ち寄る必要が無かったということもあるが、一番の理由は人間を恐れていたためだ。

村で迫害されてきた記憶はまだ新しいものだ。ウォーカーは上手く人と関わる自信がなかった。


明日にはこの辺りでは最も大きい町である、トカの町にたどり着いてしまう。


ここまで川沿いに進むことができた。そのため水は容易に手に入り困ったことは一度もない。

しかしトカの町から先に進むにあたり川は途切れてしまう。


万が一水が途中で手に入らなかったらと思うと、対策もせずにこのまま進み続ける訳にはいかない。


ウォーカーはチーリクの村を出た時、トカの町で何か水を入れる物を購入するつもりでいた。大きな町であれば購入するのは容易であると思っていた。一般的に最も入手が容易な物は革製の水筒だろうか。


しかし、いざトカの町が目前に迫ると不安に包まれ怖気づいてしまっている。

いつかは必ず経験する必要があることだと理解はしていたが、人と関わることに対する不安はいつまでも彼の心の中でくすぶっていた。


しかも、ウォーカーは無一文であるため、町で何かしら仕事をして金を稼ぐ必要がある。


忌み子はその体にある紋様さえ見られなければ見た目で忌み子だとバレることはないため、ウォーカーは町で忌み子であることを隠し稼ぐつもりでいる。


でも、今までチーリクの村でまともな会話をしたことなんてない。いつも彼は虐げられ村人からは罵声を浴びせられるだけだった。


自分が忌み子ということを隠し町人と上手くコミュニケーションを自信がまるで湧いてこない。頭によぎるのは忌み子だとばれて迫害される想像ばかりだ。


当然、町になんて行ったこともないのだ。仕事の探し方だって知らない。


知らないものや、経験したことのないことをやらねばならないというモヤモヤと漠然とした不安が、彼の心を包み何度目かも数えきれないため息が自然と口をついて出てくる。


「はぁ・・・」


少し焼きすぎてしまった魔犬の肉をかじりながら夜が明けるのを待った。




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