第一話
子供達の声が響く草原に佇んでいると一人の少年がよそ見しながら走ってきた。
ああ、彼はあの頃の……
「今度は俺が鬼な!」
そう言って俯くユウ
「10数えたら探すからな!」
わっと走りだす僕とレミアとウェル
今はかくれんぼの最中だ
ユウは隠れるのは下手くそなのに見つけるのはうまいから隠れる場所も苦労して探さないといけない
十秒しかないんだけどね!
「わっ!!?」
そんな考え事をしながら走っていたら何かにぶつかって転がってしまった
「いったあ…」
「大丈夫かい?」
目の前で人が僕に手を差し伸べていた
「わあああ!?」
「っと、そんなに驚かなくてもいいよ、怪しいものじゃないから」
「どしたー?」
「ナギー?」
後ろから皆の声が聞こえた
僕は慌てて皆のもとに合流する
「誰だお前!」
ユウが目の前の人に向かって叫ぶ
見たこともない黒い髪に黒い目、そして僕たちの仕掛けた罠を全部潜り抜けてここまでたどり着いたってことはこの人、ただものじゃない!
「そんなに警戒されても困るなぁ」
頭を掻きながらへらへらと笑うこの人はやたら抜けているようにしか見えないが、罠をかいくぐって来たんだ、絶対危ない奴だ!
「………」
「………」
僕らと目の前の人の間に沈黙が走る
レミアは不安なのかユウの服の裾を掴んでいる
…絶対ユウが飛び出しそうなのが不安なんだな
お願いだから僕の方をちらちら見るのはやめてくれよ
僕でもユウは止められないよ
僕とレミアが視線で会話を繰り広げていると目の前の人が沈黙に耐えきれなくなったのか口を開いた
「…いや、暑いねぇ、流石に」
「「「「その服装のせいだろ(でしょう)?!?!」」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私の前には今、興味深げに私のことを観察する子供達がいる
まだ警戒は解けていないが少なくとも威嚇する必要はないと思ったのだろう
…今思うと随分単純だなぁと思うけれど、子供の頃はそんなものか、と、納得して子供達に意識を戻す
私の言葉に全員が全員突っ込みをいれた後、色んな意味で気が抜けたのか彼らは私を秘密基地と称する場所に連れてきてくれた
…ただただ四角いだけの建物に思わず「豆腐か!」と突っ込みたくなったのを押し止めただけ褒めてほしいものだ
私自身この豆腐を知ってはいたが、まさかここまで四角かったか?と思わず驚いてしまったのはさておき
「…おっさんはどこから来たんだ?」
ここにきて突然のおっさん呼ばわりである
…いやいや、うん、流石だね君、確かに今の君達の年齢からしたらおっさんかもしれないがそんなはっきり言わなくても…
「ナギ、流石におっさんは失礼よ」
お?フォローしてくれるのかな
…いや待て、確かこの時レミアは
「せめておじさまでしょう!」
ダブルヒットー!!!知ってたー!!!
やめて!私のHPはもう0よ!
…と考えていることは微塵も顔に出さず
「私の名はモネというんだ、そう呼んでもらえた方がありがたいかな」
「モネ…わかった、モネだな!」
元気よく呼び捨てにしてきているのは最初私に向かって怒鳴ったユウだ
…ああ、そういえば名前は知っているが教えてもいない相手に急に呼ばれたらせっかく解けた警戒をまたされてしまうな、一応聞いておかなければ
「君達の名前はなんていうんだ?」
「ん?俺か?俺はユーミア、ユウって呼んでいいぜ、モネ!」
ユーミア、もといユウは白髪に黄金色の目をした天使族の少年だ
…種族のこともどこかに書き留めておくか、そのうち必要になることだしな
…それにしてもやっぱり単純な子だ、本当にとても単純な子だ
まさかあの時と同じことを言えば何処か抜けた人、と認識されるかもしれないな、と賭けた結果がこのフレンドリーさだよ
良いことではあるが、これからのことを考えるとあまりよろしくないだろう
まあそれはいつか矯正するとして
「ユウ君だね、わかったよ」
「私はレミリア、レミアと呼んで?」
レミリア、もといレミアもユウと同じく天使族だ
彼女の場合少し異質で赤い髪に赤い瞳をしている
翼があることに変わりはないので別段異端扱いされることはない
この時代の人々は随分と寛大な心を持っていると私は思う
このまま続いてくれれば……ああ、感傷に浸っている場合ではないな
「レミアさんだね、わかったよ」
さて、あとの二人は…
「僕はナグウェリア、ナギって呼んでもいいよ、おっさん」
…流石だな、懲りずにそう呼ぶとは。まあ当たり前といえば当たり前か
ナギはこの世界では珍しい人間の少年だ
私に少し近い髪色や瞳の色をしているが、彼の髪や瞳は水色がかっている
「そうか、よろしくな?ナグウェリア」
「…」
私もナギも微笑む
もちろんだが目は笑っていない
「…こ、この二人仲悪そうですわね」
「?そうか?」
「…あなたに言った私がバカでしたわ」
小声でこそこそ話す二人はまあ、通常運転だから置いておいて
「それで、君は?先ほどから一言も話さないけれど」
私は最後の一人、ウェルに声をかけた
天使族 白い髪に黄金色の目、そして大きな白い翼を兼ね備えた五種族の1つ。
五種族の中では最も多く、歴史もそこそこ古い
古代戦争にて化学兵器を生み出したといわれる人間達の国を裁きと称して滅ぼした話はもうほとんど伝えられていない