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配役の理お断り・旧  作者: ヤマト〆
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配役の心得⑤

翌日の朝、学校にて。


「え、何か?じゃあ配役論の取っ替えに皆賛成なのか?」


「面白そうだし!」


「やってみる価値はあるな」


「まぁ…良いんじゃない?」


「はい。私も構いません」


「僕も賛成だよ」


上から凶、拓郎、楓、愛未、宍戸の順でそれぞれ返事をした。


「ならってみますか!配役論の取っ替え!」


こうして決まった配役論の取っ替えだが、最大の難点が一つある。もう賢い人達ならお気づきだろう。


それは__


「それぞれ何の配役にするか、それが肝なんだよな」


(俺は悪役を…)


(面白そうだから何でもいい!)


(狙うは勇者よ!)


(やってみたいとするなら勇者だな。でも、やはり脇役という長年の補佐役も落ち着くものだが…)


(私は必ず…勇者に)


(ふふん…そうだなぁ…やっぱ僕みたいな華やかな人間は勇者が一番似合うかな!!)


昼休み、屋上に集まった六人は真剣な表情をしていた。それぞれ色々な思惑を重ねながら。


「取り敢えず多数決を取ってみるか。勇者の人…」


「「「はい!!」」」


手を挙げたのは楓、愛未、拓郎、宍戸、凶の五人。つまりは臆人以外の全員だ。


「俺以外全員かよ!!何だよそれ!!勇者ってそんなに人気なのかよ!?」


「当たり前じゃない。誰だって入れる訳じゃ無いんだから勇者科は。だから、私が入るべきよ!この華麗なる女英雄が!」


キランと効果音を発しそうな程の瞬きを放つ楓。言いたくないが寒い。


「それはズルいです!!私も気持ちなら負けてません!!」


プルプル両の拳を握りながら見つめてくる愛未。愛らしいけど勇者向きじゃない。


「それは俺もだ!!俺だって真にやりたいと思ってるぞ!!脇役だけの人間にはなりたく無い!!」


拓郎、そもそもそんな逞しすぎる勇者は居ない。


「勇者面白そうだし?」


ある意味有りだけど、そういうのは勇者の親友的な奴の役目だ。


「僕も勇者というのはとても神々しいものだと思っている。我が永遠の宿敵であり、絶対に勝ることが出来ない。だから一番格好いい僕が勇者になるんだ!!」


言い方は格好いいけど、格好いいやつは勇者になってはいけない。


五人それぞれやる気に満ち溢れていた。一人、お調子者がいそうな気もするが、これをじゃんけんなどの運勝負に頼るのも良くない。


「なら、演説するか?」


「「「演説???」」」


演説とは、多くの人の前で自分の主張や意見を述べる事を意味する言葉だ。


「そう、演説。放課後酒場に集合して、その場にいる人に聞いてもらう。そしてその中で一番良い演説を出来た奴が勇者になる!

因みにお題は、勇者になるに当たって自分のしたい事とか、やりたいこと。勇者とは何なのかみたいな哲学的な話でもいい」


この考えに、各々色々と反応を示したが、全員の意見は同じでイエスだった。こうなれば話は早い。


「じゃあ皆、放課後までに演説を考えて、それぞれ発表だ!良いな!」


「「「おー!!!」」」



こうして始まった放課後の演説。酒場には多くの学生達が沢山いるので、演説には持ってこいだ。


「さてさてこれより始まります演説対決!司会を務めさせて頂くのは私勇者科の金条臆人!審査員はこの酒場にいる学生の皆さんです!!」


「「「いえーい!!」」


「お、おう…ノリいいな。良すぎてこっちが引いちゃったよ…」


何をするのか分かっていないが、やる気満々な聴衆達は、酒を飲んでいるため殆どが顔が赤い。


ちゃんと聞いてくれるのか心配ではあるが、まあそこは学生達を信じよう。


「それでは一人目の演説者、カモーン!!」


因みに演説をするスピーチ台は、机の上だ。一応赤いシートで覆っているが、良い子は机の上に座らないようにしよう。


「えぇ…私は…女英雄科の雪野 楓です。宜しくお願い…します」


最初に出て来たのは楓だった。カチコチ歩きながら壇上に上がり、緊張の面持ちで自己紹介した。


「えっと…私は…勇者に…って、ダメよ!!ダメダメ!!臆人!!お酒持って来て!!」


「いや、俺司会なんだけど!?てか、酒かよ!?酒の力を借りちゃうのかよ!?」


勇者になる演説を酒に頼っていいものなのか微妙だが、取り敢えずは酒を持っていくことに。


「ほいよ、嬢ちゃん!酒だぜ!」


一人の男子が持って行った酒は__ピッチャーだった。


それを有無を言わさずグビグビと飲み干し、


「ぷふぅ!!こんなに一気に飲んだのは初めてだわ…」


口の端から垂れた酒を拭い、そのスピーチは開始された。


「最初からひっちゃかめっちゃかだなおい…」


こうして始まった楓の演説は次のようなものだった。


「私が勇者になりたい理由…それは、私が勇者オタクだからです!勇者をこよなく愛し、勇者をこよなく見つめて来た私だからこそ出来る勇者があると思うんです!!

勇者というのは基本男性の立ち位置になりますが、それは違います!!勇者とは“勇ましい者”という位置付けなので、決して女性がなれない訳ではありません!!

勇者とは言うならば時代の象徴!!その勇者に私はなりたい!!歴代の勇者を毎日眺めている私にとってそれはとても成し遂げたい偉業の一つなのです!!夢であり、希望であり、時代の立役者に!!

そして…出来れば勇者になったら歴代の勇者達を生で見たい!!出来れば写真撮りたい!!SNOWでちょっと加工して…」


「アウトォォォ!!!そんな勇者いねぇから!!しかも加工すんな!!犬とかつける気だろ!!」


こうして楓の演説は強制終了。暴れまわっていたが、拓郎が回収した。演説もあるのに素晴らしい働きだ。


「次!誰だ!」


「俺だぜ!!」


バッと何かを翻して出て来たのは、“恐らく”凶だ。何故か怪盗によくありがちな煌びやかな眼鏡をかけて目を隠している。そして黒いマントを羽織り、壇上に立った。


「俺の名は、怪盗凶!!勇者という座を奪いに来た!!」


「何で怪盗風!?つーかその格好自体が凄い悪役感出てるんだが!!」


これは勇者になりたい演説をするための場であって、一発芸を披露する場では無いと強く言いたい臆人だった。


「勇者にとって必要なものは意外性だ!!何故、この格好をしたのか!!それは意外性を求めた結果である!!俺はそういう意外性忍者…ではなく意外性勇者を目指していきたいと思う!!

それでこそ勇者であり、勇者(ヒーロー)なのだと、俺は思う!!」


「何故か正論に聞こえる!!これは確かにポイント高いかもな…!」


酒場の反応も上々だ。これはもしかして凶に軍配があがるかもしれない。


だが、それは杞憂に過ぎなかった。


「そして、数々の女を物にし、世界で唯一女大好きな勇者を創り上げる!!それこそが俺の野望であり、希望であり、男の希望だぁ!!」


「「「うおぉぉぉ!!!」」」


凶が拳を上げたのに合わせるように.酒場にいる男達も一斉に手を挙げた。


女子陣営は物の見事に引いた。


「いや、そんな下心丸出しの勇者がいるかぁ!!最初は良いこと言ってたのに!!却下だ却下!!」


「えぇ…面白いと思ったのに」


凶はちぇ、と文句を言いつつ舞台裏に下がっていった。残るは拓郎と愛未と宍戸の三人だ。


「次はどっちだ!」


「僕が行こう!!」


こうして煌びやかに登場したのは宍戸だ。ふっ、と横のロールされた髪を搔き上げる仕草は、男子から見たらきもいの一言だが、女子ウケは上々だ。


「なんかうざいから却下…」


「いや、待て!!ちゃんと僕の話を聞いてくれ給え!!ていうか私情を挟むなよ!!」


「へーい」


まあ、宍戸の意見には一理あるので取り敢えず話だけは聞くことに。


「僕は宿敵科の一年、宍戸 亮!!我が永遠の宿敵、勇者とは切っても切れない縁を持つ男!!僕は宿敵としてずっと勇者を見て来た!!来る日も来る日…僕は負けてばかりだった!!当然だ!!宿敵は宿敵でも最後はやはり譲らなければならない!!

この虚しさとは何か!!この無力さとは何か!!ならどうする!?それは至極簡単な話だ!!僕が勇者になるのさ!!そして、世界で一番格好いいのは僕だと認めてもらう!!まあ、そんな事しなくても、僕は格好良いけどね」


決まった、と言わんばかりのドヤ顔を決める宍戸。寒い。激寒だ。最後のドヤ顔で全身凍てついた。


「まずはその、ふざけた髪型、直してこい!!」


「ぴぎゃぁ!!」


その一言で、宍戸は雷に打たれたように倒れた。宍戸は只の屍になってしまったので、次だ。


「うん?俺か…取り敢えず壇上に上がるとするか…うんせ!」


次に壇上に上がったのは拓郎だ。でかい。見上げなければ全体が見えない。それ程までに貫禄と身長があるのだ。


「拓郎も演説するのか…?」


「当然だ!!勇者論受けてみたいしな!!」


ゴホンと一つ咳払いして、拓郎は始めた。身なりと日頃の行いからして、専ら脇役向きの彼だが、やりたいという事に否定はしない。


「んーと、俺は鈴木 拓郎だ!!元来脇役を務め、脇役として生きる…要は裏方役さ!!俺はこんな職業がとても好きだ!!自分に合ってると思うし、時に言われるお礼は、それはもう格別なもんさ!!

けど、やっぱりその殻を破るって事も必要だと思うんだ。やりたい事を色々やって、自分の職業のプラスにしていく。だから俺は勇者をやりたいと思う。勇者をやる事によって何がプラスになるかは分からないが、日々慢心せず業務を行っていく予定だ。みなさん、宜しく頼む!!」


「「「……」」」


とても素晴らしい演説だった。脇役を肯定しつつも、高みを目指すため勇者を志望する。もし、政治家だったならば良い演説だと言えるだろう。


だがこれは、勇者になるという演説であることを忘れないで欲しい。


「…地味なんだよなぁ。真面目というか何というか、勇者向きじゃないんだよなぁ…拓郎はそのままが一番良いわ」


「んじゃあそうするわ!!俺も勇者は肌に合わなさそうだ!!」


「じゃあ何の為の演説だったんだよ…」


ここまでヒットはあるものの、一塁牽制アウトで終わってしまっている野球のような不完全燃焼感がある。突き刺さるが心臓じゃないみたいなもどかしさと言ってもいい。


「じゃあ最後のバッターは…五十嵐 愛未…か」


昨日の事もある。少し名前を呼ぶのに躊躇したが、小声だし聞こえていないだろう。


「はい、じゃあ大トリ!カモーン!!」


「はい」


短く返事をして出て来たのは、いつもと変わらない姿をした愛未だった。


いや__一つ違う点がある。それは瞳だ。その瞳の真っ直ぐさは、昨日より上回っているかもしれない。


「____」


一瞬、愛未が此方を一瞥したのが分かった。これから何かを伝えるという強い意思が垣間見えた気がする。


「皆さん、聞いてください。私は五十嵐 愛未。脇役科にして治癒術師の一年生です。宜しくお願いします」


こうして愛未の演説は始まった。


「私は、勇者とは何なのか分かりません。それは勇ましく強い者なのか、勇ましく強い者であろうとする者なのか。はたまた困難に立ち向かう者なのか。

答えは人それぞれだと思うんです。勇者とはとても広く親しまれた存在ですが、定義はあやふやです。私は勇者をやる事でこの存在が何なのか理解したい。そして、ある人に教えてあげたいんです。この職業はこんなにも素晴らしいものだと。

脇役は、この凄い人を援護する強い味方だと思っています。治癒術師でも守衛でもそれ以外でも、切っても切り離せないと思います。ボスに立ち向かうのに勇者だけなんて聞いたことはありません。

勇者の存在意義を示して、ある人には勇者になって欲しい。これが私の勇者になりたい気持ち…演説をする為の大きな要因です。手を貸して下さい。必ず、私はある人に分からせてあげたいんです。勇者の行く末を…」


ここで愛未は言葉を止めて、深くお辞儀をした。酒場の皆全員が静まり返り、やがて拍手が生まれる。


パチパチパチと、最初は小さかった音が大きく、指笛を吹く輩(凶もその一人)も増えて、酒場は一気に拍手の音に包まれた。


「…………」


そんな中、全く手も叩かず俯く司会がそこに居た。いや、もうそんな役目なんて忘れて聞き入った上で、拍手が出来ないのだ。出来る筈もない。


何せ、ある人とはきっと臆人を指しているだろうから。演説中、ドキドキと心臓が跳ね上がっていたのが昔に感じる。


それ程までに緊張していた。自分だとバレるかもしれないという恐怖や、愛未の配役の取っ替えに関する考え方全てが臆人の胸に突き刺さった。


「どうしたんだろうな臆人のやつ?」


「さぁ?感動し過ぎてちびったんじゃねえか?」


拓郎の心配を他所に、凶は適当な事を嘯く。そんな彼は放っておいて、拓郎は臆人に近付こうとしたが、ぬいっと顔を上げた臆人の表情を見て、その足は止まる。


「…面白れぇ」


その表情には先程の陰鬱そうな雰囲気は醸し出されていない。寧ろ、好戦的なオーラがふんだんに露出されている形だ。


「さて、結果発表に参りましょうか!!この勇者論決定戦を勝ち抜いた栄えある優勝者は__愛未さんです!!」


「「「うおぉぉ!!!」」」


途端に酒場の全員が立ち上がり、各々愛未を讃えるように口笛を吹いたり拍手したり泣いたりそれはもう燦々たるものだった。


愛未もその祝いを受けて、四方八方にお辞儀して行く。若干顔が赤らんでいるのは恥ずかしさの余りだろう。


「これでいいよな?」


臆人の問いに、惜しくも(?)敗れた他の候補者四人も納得の色を示している。


こうして勇者論演説大会は幕を閉じた。




因みに余談だが、臆人は第一候補が悪役だった為無条件で決まり、後の三人はジャンケンで決めるという形になった。


白熱のジャンケンの結果、


楓と宍戸が脇役論、拓郎が宿敵論、凶が女英雄論、という事で一件落着した。


「女英雄論って道徳的にいいのか!?性別的にいいのか!?あんなことやこんな事あっちゃってもいいのかぁ!?!?」


と、狂乱する凶の一コマでした。


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