配役の心得④
__朝。
ピピピピピピッ。
毎日セットしてある目覚まし時計が不快音を部屋に響かせる。いつもならここで眠気と葛藤しながらアラームを止めるのだが、今日は違う。
「「……」」
横に楓がいるのだ。何故だか分からないが、楓が側でぐっすりと寝息を立てて__
「おい、お前…起きてるよな?」
「ギクッ…!」
途端に身体が震えたのを確認して、確信した。楓は起きているのだと。
「聞いて良いか?なんでお前がここに…」
「だあああああ!!!!もうやだ!!もういい!!それ以上言わないで!!」
楓は勢い良く飛び起きて、臆人の口を塞いだ。楓の顔はトマトのように真っ赤だ。
「一つ一つ事情を説明してあげるから、黙りなさい。喋ったら…殺すわよ?」
「…ふぁい」
こうしてかくかくしかじかと、臆人に事情を説明した。臆人はなるほどと呟きながらも、口を挟まず黙って聞いていた。
「つまり…俺の責任な訳だ?」
「そうね!!あんたの失態よ!!お陰であんたの…あんたの隣で寝る羽目になっちゃったじゃない!!」
「悪りぃ悪りぃ。次からこういう時の為に布団を二枚用意しておくよ」
「そういう事じゃないわよ!!というかもう金輪際こんな事は絶対無いわよ!!いい?分かった!?」
「はいすんません…」
大声を張り上げて、照れ隠ししているように見えることも無いが、取り敢えずこの話はここまでにしておこう。
「何か食うか?お詫びに朝飯作ろうか?」
「お願いするわ…ってもうこんな時間じゃない!?私部屋に戻って予備の制服に着替えてこないと!!」
時計は八時を回っていた。朝のホームルームは八時二十分から始まる。それを越すと遅刻扱いだ。
「入学式の次の日から遅刻なんてやってらんないわ!!取り敢えず帰るわ私!!制服は干しておいて!!」
「お、おう分かった気をつけてな」
その返事をする事もなく、かえでは大急ぎで部屋を出て行った。後に残る静けさが、少し寂しさを感じさせる。
「って、のんびりしてる場合じゃねぇ!俺も行かねぇと!!」
まだ新品そのもののような制服に着替えて、取り敢えずパンを齧りながら玄関のドアを開けた。
そこに息を合わせたかのように隣のドアも開いた。
「おう臆人!!おはよう!!」
「おう凶か。って、お前も急げよ!!遅刻するぞ!?」
「遅刻上等!!悪役は遅れて登場するもんさ!!」
「それは正義の味方の話だろうよ!!まあ、確かにボスってのは些か出てくるのに時間は掛かるけどな」
RPGのゲームは大抵そんなもんだ。
「だろ?だから遅刻しても構わねーのさ!!」
「なるほどな…ってそういう話じゃねーだろーよ!!どちらかっつーと遅刻ギリギリに来るのが悪役だろ!!」
「それも一理ある!!なら急ぐぞ臆人!!」
人の意見に簡単に左右される奴が悪役を名乗っていいのか不安も残るが、それは口にしない事にした。
下駄箱で分かれて、臆人は五階に急ぐ。幸い、ホームルームまでには間に合った。
「遅いぞ臆人メーン。まあ、勇者は遅刻位が丁度良いがね」
「…すいません」
(こいつ担任だったのかぁ!!??)
内心の驚きも顔には出さず、取り敢えず席に着いた。何故か皆、昨日と同じ席に座っている。
「さて…まーず授業を始めるに当たって少し説明する事があるからよく聞けーよ。
この勇校の一年生の科目だが、黄身達にはまず起訴学力を身に付けて貰う為に、ほとんどの科目は英語、数学、国語、理科、社会の科目になる。そして、その中に勇者論と呼ばれる専門科目があるから、ここで勇者とは何か学んで貰う。宜しいか?」
「何か誤字が二つあったぞ…?」
「漢字を見るな…!」
ぼそっと溢れた生徒の言葉は置いといて、要は一年生は普通の高校生+勇高の独自分野をやるという事らしい。
「因みに、普通科目は学科全体でごちゃー混ぜにして行われるから、教室の場所を間違えないように。以上だ」
生徒の反応は薄かったが、マダムス教官は満足気な顔で号令を掛けた。起立、気を付け、礼の三拍子で、朝のホームルームは終わった。
***
こうして、普通科目と専門科目の勉強が始まった。そして何とまあ奇跡的に分けられたグループには入学式で仲良くなったグループが全員顔を揃えた。
そして、その時事件は起きたのだ。ある一人の少年の一言によって。
「「配役論を入れ替える!?!?」」
「しーっ!!声がうるさい静かにしろ…!!」
臆人周りの皆を黙らせ、ちょいちょいと顔を寄せろと合図する。六人が顔を寄せ合い、臆人の話を聞く。
「要はさ、俺達がそれぞれ持ってる勇者論、悪役論、宿敵論、女英雄論、脇役論、それら全てを俺達でごちゃ混ぜにするんだよ…!」
「そ、そんな事可能なのかい…?」
「そうだぜ臆人…!見つかったらやべーって…!面白そうだけど…!」
「そうよ…!第一私は女英雄で満足してるし…!」
「私も、治癒術師で満足しています。だからわざわざ入れ替えなくても…」
「別にその受けた講義の配役にならなくったって良いんだ…!第一、楓は勇者志望だろ?それに、愛未だってずっと治癒術師をやって未来永劫治癒術師しか知らないなんて嫌だろ?その根底にある概念を変えてみようぜ…!」
「おいそこ!!何をしている!!授業中だぞ!!コソコソするな!!」
「あ、すいません!もうやめます!!」
講師の睨みに笑って誤魔化しを入れて、皆に目で合図を送った。考えてみてくれ、と。
その日の講義には配役論は存在していないため、今日一日は考える余裕がある。それは勿論臆人にとっても大事な一日だ。
「配役論を変える…か」
自分で言い出した話だが、何だかこの話に皆を巻き込むのは申し訳ない気がする。だってこれは独りよがりの希望なのだから。
さっきは良い言葉を並べて楓と愛未を言いくるめたが、やらないと言えばこの話はそれで終わってしまう。
それに、ただ違う配役の話を聞くだけの事だ。別に一回限りで終わったって構わないのだ。悪役論__臆人はそれを聞きに行きたいだけなのだから。
悪役というものに興味を持ったのは小さい頃、まだ父親が居た時に差し掛かる__。
父親は、完璧人間だった。気さくで、誰に対しても分け隔てなく接せられる、勇者を絵に描いたような人柄だった。
所がある日、それは一気に崩れ去った。音もなく、まるで元から存在していなかったと錯覚させられる程の人格変化。
理由は分からない。何かの精神疾患だったのか、単なる一時的なものだったのか、不満が溜まり爆発したためなのか、真相は未だよく分かっていない。
けれど臆人にはそれが何なのか予想がついた。父親は__なろうとして勇者になっていたのだ。
自分の人格を押し潰し、新たな人格を形成し、それを使い日々を過ごしていた。そして何かの拍子にそれが崩壊し、悲劇は起きた。
端的に言うと、父親は自殺した。
その時の光景は今でも忘れてない。否、忘れたいが忘れられないものとなっている。
父親がどういう心境で自殺したのかは分からない。何かを暗示しているのか、衝動的なものなのか。
でもこれだけは言える。
ああはなりたくない__と。
自分の理想的な勇者像は、何かを押し隠しながら生きている勇者ではない。全てをひけらかして受け入れられるのが勇者であり、勇者だ。
勇者とはそういう生き物であり、そういう生き物でなくてはならない。
けれど、悪役は違う。
悪役は自由だ。逆に言えば、全てを包み隠しても、全てを投げ打っても良いのだ。悪役とはそういうものだから。
だから臆人は、純粋にそこに憧れた。臆人の中で悪役は悪役でもあったのだ。
けれど、臆人の父親は勇者であり、しかも勇者らしい勇者で一位を掲げている。そんな息子が悪役なんて、それこそ目立つし、やり遂げられない気がする。
だから臆人は勇者を選択した。これが一番賢い選択だと思った。いや、今でも思っている。これで良いのだと。
なので先程の配役論の取っ替えは純粋な興味だ。それこそ、お遊びでしかない。本気で違う役に取り組む気もさらさらないし、勇気もない。
無い無いづくしの勇者何て格好悪いな、何て思いながら、臆人は空を見た。
雲が、ゆっくりと左に進んでいる。今日は快晴だ。
「あの…臆人さん…?」
その時、横からふと声が掛かった。振り向くと、そこには少し困った顔をした愛未が耳打ちする体勢をとってそこに座っていた。
「放課後、少しお時間宜しいでしょうか?」
***
放課後、二人は屋上に行って見ることにした。この勇高には屋上がある。普段は全く人の出入りが無いため、話をする為には持ってこいの場所である。
「どうしたんだ話って?」
「はい…えっと…あの、臆人さんの父親ってどういう方だったんでしょうか?」
唐突に聞かれて、臆人はどう対応するか一瞬悩んだ。
「父親の話か?意外だな。勇者に興味でもあるのか?それなら楓に…」
「不躾がましいかもしれませんがお聞きします。金条迅さんは、病気で亡くなったのでしょうか…!?」
「____!!」」
不意に後頭部を強く強打されたような衝撃が身体を迸った。顔に出してはいけない、そう思った。
「な、何を言ってるんだよ…?金条迅…俺の父親は病気で死んだんだ。三年前、俺が中学一年生だった時にな」
これが、金条迅の死因だと“世間一般はそう認識しているはずだ”。だが、愛未の揺らがない瞳を見ていると、自分の嘘が見透かされているのではないかと、そう思うのだ。
「本当に…そうだったんでしょうか?お医者様が、そう言ったんでしょうか?」
「あ、あぁ…!!そう言ったさ!!医者が、目の前で、俺に!!もう亡くなったってな!!
こ、これで満足かよ…」
少女のような小柄な愛未が一生懸命質問しているのに対し、臆人の態度は甚だ鬼畜と言えるだろう。
けれど、その少女の瞳の揺らぎは__消えない。
「満足…満足は、していません。臆人さんの心拍数、汗、緊張の際に発する強張った表情。全てが、何かを隠していると物語っています。
私は治癒術師なので、そういうのが分かるんです」
「なんだよ!!何なんだよ!!何が知りてぇんだよ!!俺の…俺の父親は病気で死んだ!!それ以上でも、それ以下でも無いんだよ!!」
分からない。愛未の考えていることが。何かを隠していると物語っています。違う__何かを隠していることを元から知っているんだ。
「お、教えて下さい。金条迅さんは…病死だったんでしょうか?」
「だからそうだって__!!」
「私の母はッ!金条迅さんのパーティーでした!!」
「……え?」
ここで臆人の思考が一旦停止、再思考。そして、視界が広がっていく。愛未の顔を今初めてちゃんと見た気がする。
涙を溜めていた。少し震えていた。けれど目は此方を一心に見つめていた。こんなに度量のある少女だと、臆人は思って居なかった。
「ふぅ…なるほど。スッキリした。本当なのか?愛未の母親が俺の父親のパーティーだったなんて?」
「はい。直接、母から聞きました。私の母、五十嵐 美千代はそう言っていました」
「五十嵐…美千代…」
聞いた覚えがある。いつどこで聞いたかは分からない。けれど、その名前には変な感触があった。
「知ってるんですか?」
「いや…知らない。でも、聞いたことはある気がするんだ。あくまで気がするって程度なんだけど…」
「そうですか…」
少しシュンとして、顔を下に向けた愛未に、臆人は自分で言った言葉の愚かさに気付く。
「あ、決して俺の父親が…その…美千代さんって人の事を大事に思ってなかったとか、そういうんじゃ無いんだ!!
まず、あの人は家に帰って来ないし、帰って来ても遅くて時間合わないし、朝もめっちゃ早いし…実のところ、俺もあんまり良く知らないんだ父親のこと…」
言い訳がましく言って思った。臆人は父親の事を何も知らない。知ろうとしていなかった。知る必要も無いと、勝手に位置づけていた。
「それは、私も同じです。母も忙しい身でしたから。けれど、帰って来たときは必ず、臆人さんの父親の話をしていました。あの人は凄い。何でも出来る人だって…」
「そっか。それはまあ、嬉しい…と、言っておくよ」
父親の話なんて、昔から嫌と言うほど聞かされている。だから、内心嬉しさは感じられない。けれど、そう言わなければいけない気がした。
でも、そんな臆人を分かっているかのように愛未はクスリと笑い__
「教えて…貰えますか?本当の事を」
真剣な眼差しで訴えかけてきた。この目にもう、誤魔化しは通用しない。
「自殺だよ…俺の父親は…三年前、自殺したんだ。ロープで自分の首を吊ってな。ま、有りがちな自殺方法だ」
この話を聞いて、愛未はどんな顔をするのだろう。困惑するだろうか。気を使うだろうか。黙り込んでしまうだろうか。
「うぅ…うぅ…ぐすっ…そう…ですか」
愛未は__泣いていた。大粒の涙をボロボロ溢して、鼻水をだらだら垂らして、子供のように泣いていた。
「な、泣くなよ!というか、何でお前が泣くんだよ!あぁえっとハンカチ…は持ってないし…ティッシュも無いし…」
「どっちもあるんで大丈夫です」
「あぁそう…なんかごめん…」
生きてきて今が一番格好悪いんじゃないかと、臆人は不意に思った。
「理由は…知ってますか?」
「いや、それがよく分かってないんだ。俺自身もよく…分からない」
今ここで、自分の憶測を言っても意味はないと、臆人は言いたい気持ちを抑える。
「そうですか…分かりました。お時間ありがとうございました」
そう言って愛未は目を真っ赤にさせたまま、屋上を出ようとした。
「なぁ、今美千代さんは何をやっているんだ?」
「母は今、寝込んでいます。母は元から持病を持っていましたので、もう長くは無いと思います」
またもや衝撃の一言が頭を揺さぶった。放課後で、脳が今一番悲鳴を上げている。
「は、はぁ!?嘘だろ!?持病って…治らないのか…?」
「…はい。末期です」
その最後の言葉は、臆人にもずっしりと過去の記憶と共に重みになって臆人に乗っかってきた。
けれど、その連れてきた過去の記憶の中に、何かモヤモヤしたものがある。ここで言わなければいけない事がらその中に眠っている。
「あ…そうだ、あの時だ」
「……?」
それは葬式の最中で、臆人の母が言った言葉だ。
「美千代さんより早く先に逝くなんて…俺の母親はそう言ってたんだ。もしかすると、俺の両親は愛未の母親の病気のこと、知ってたのかもな」
「__!!そうですか…心配されていたというのは、とても母も喜ぶことだと思います。ありがとうございます」
お辞儀をされて、臆人は何と言葉を返せばいいか躊躇うが、気にするなとだけ伝えた。
「では、失礼します」
こうして今度こそ屋上を出ようとする愛未。声を掛けるべきなのか迷ったが、言葉は出ない。
けれど、ドアの前で愛未は徐に止まった。そして彼女は振り向き、言った。
「配役論の取っ替え…先程は反対しましたが、良いですよ。やりましょう。そして、貴方にはもっともっと勇者らしくなって貰います」
「それは一体どういう…?」
「貴方の…いや、迅さんの息子は勇者でなくちゃいけません。それ以外は似合わないと、教えてあげます。では」
こうして彼女は屋上を出て行った。最後に、飛んだ捨て台詞を残して。
「何というか…見方が変わったわ」
ペタンと地面に尻餅をついて、臆人は深く溜め息を吐いた。体がずっと強張っていたのに、今気付いた。
「父親の姿を追う若き治癒術師…か。何だってんだよ一体…俺は俺だろうよ」
煮えきれない思いが、臆人の胸中を賑やかした。
「絶対に悪役になってやる。絶対に…」
その一部始終を、彼等は見ていた。
「一体…何の話をしてたのよぉあいつらぁ!!!!!!」
「お、落ち着けって楓ちゃん…!!聞こえるって…!」
「遂に恋敵現れるって感じだな」
「違うわよ!!私はただ彼奴らが何を話してたのか気になってるだけよ!!それ以上も以下もないわ!!」
「その話を聞くだけに、こうして屋上の扉の小さな隙間から中を覗いてる時点で十分それ以上だと思うけどな…」
「確かに…」
「煩いわね!!あんた達もノリノリだったじゃない!!」
「いや、だってあれを見る限り…絶対に…なぁ拓郎?」
「あぁ…完全に違ったんだからしょーがないよな凶?」
そして二人は声を合わせて言った。
「「告白が見たかった…それだけなのに」」
こうして屋上の一幕は終わった。
臆人は今日、悩んだ末に、酒場に行くのをやめた。何というか、今日いきなり愛未とかち合うのは避けたかったからだ。
臆人が布団で寝転がってボーッとしていると、何やらインターホンが鳴り響いた。
ここのインターホンは主に二つある。入るドア横のインターホンと、玄関ホールから部屋番を押してのインターホンかだ。
今鳴ったのは後者、玄関ホールからだ。
臆人が、壁に取り付けられている受話器を引くと、横の液晶から映像が流れ始める。そこに映っていたのは楓だった。
(何だ…?あ!まさか今日の朝の続きか!?そういやまだ俺制服干してねぇ!!)
嫌な予感がして、咄嗟に臆人は、受話器を切ってしまった。すると液晶もプツンと切れてしまった。
こうなると、もう一度外のインターホンを押さないと、エレベーターホールまでの入り口を開けることが出来ない。
「やべぇ!!危機感で受話器切っちゃった!!殺される!!」
すると、もう一度インターホンが鳴り響く。それを聞いて、取り敢えず玄関ホールの扉を直ぐに解除して、臆人は受話器を取った。
「いや、悪い!早く中に…」
液晶の中に、楓の姿は無かった。という事は、もう玄関ホールに入ってる事になる。
要は開いた瞬間、一気にエレベーターホールの中に入って行った訳だ。
「嫌な予感がする…」
刻々と時計は針を動かし、時間を進めて行く。心臓の音が高鳴る。そして長針が二十回程カチカチと音を立てた時、もう一度インターホンが響いた。
今度はドアの方だ。大慌てで臆人はドアに近づき、少しだけドアの真ん中についている覗き穴で外を覗いて見た。
楓がいる。怒っている訳ではなく、少しバツの悪そうな顔をしている。
(何だ…?)
不思議に思いながら、臆人はロックを解除した。すると、直ぐにその扉は開かれる。
「…よっ」
「…うん」
取り敢えず楓を中に入れて、机の横に座らせる。その向かいに、臆人も腰を下ろす。因みに楓には座布団を敷いている。
「…で、どうしたんだ?今日は酒場に行かないのか?」
「あぁ…まぁ、今日は良いわよ」
「そうか……そう言えばだなぁ!!まだ、楓の制服干して無いんだすまん!!」
「はぁぁ…!!??まあ、今日は許すわ」
「そ、そうか」
(何!?何なのこれ!?俺が悪いのこの状況!?どうすんの!?どうすんのよこれぇ!?)
続く!とでも繋げられそうな台詞だが、取り敢えずそんな事はどうだって良い。早くこの状況を何とかしなければ、息がもたない。
「「あの……」」
やってしまった。これはもう万事休すお手上げだ。楓が蛇のように睨みを利かせてくる。怖い。
「あのさ…一つ聞きたいんだけど?」
楓が照れ臭そうに目を泳がせながら、そう聞いてきた。
「あ、あぁ…どうぞ」
そう言って数秒後、何も反応が無い。
「今日、どっか調子悪いのか?熱でも…」
「ま、愛未ちゃんと何話してたの…!?」
。 。 。
「あぁ愛未の事か…それを聞きたかったのか?」
「え、えぇそうよ。屋上まで行って何を話してたのかと…気になっただけよ…なんか文句ある!?」
楓の顔は火を放たれたように真っ赤だ。何でそんな質問で顔を赤くするのか臆人にはよく分からないが。
「いやぁ心配性なやつだなぁ…俺が屋上で突き落とされる事でも想像してたのか?」
「しないわよ!!第一あそこフェンスあるからそんな所心配してないわよ!!」
「じゃあ何でそんな質問すんだよ?まさか…!!愛未の事…!!」
「違うわよ!!あれよ!!ただのおばちゃん思考よ!!何話してたのかしら気なるわ、みたいな感じのやつよ!!」
自分でも何を言っているんだか心配になる理屈だが、臆人は何故かポンと手を叩き、理解したような顔をしていた。
「要は気になってたんだな?俺達が何を話してたのかを」
「…まあ、そんな所」
「そんな面白そうな事かなこれ?まあ、いいや。すっきりしたし話すか」
結構大きなニュアンスの違いが両者にあるが、まあ、そこは若さ故の奴だと思って頂こう。
こうして聞いた話の結末が、親の話だという事に、楓は嬉しいような悲しいような少し疲れたような顔をして帰っていった。
「一体何だったんだ…?」
臆人は首を傾げながら、時計を見た。時計は夜の九時を指していた。まだ早いが、さっさと今日は寝たほうがいい。
ピンポーンと、今日二回目のインターホンが鳴った。
「何だ…?」
忘れ物をした楓か、それとも違う人物か。取り敢えず覗き穴でのぞいてみる。
(誰もいねぇ…)
訳が分からないまま、臆人は扉を開けた。
すると、左右の両脇から何かが飛び出してきた。
「呼ばれて無いけどじゃじゃじゃじゃーん!!」
「何だそれ聞いてないぞ!!」
飛び出して来たのは、凶と拓郎だった。そして凶と拓郎は、何やら袋を沢山持っていた。
「ふっふっふ…臆人!!今から男同士の宅飲みだぁ!!」
「取り敢えず今日屋上で起きた事と、その後のことも、色々聞かせて貰うぞ臆人…ふっふっふ」
楓もそうだが、何故この二人も知ってるのか不思議だが、まあそれは置いておこう。
「良いだろう。入り給え」
取り敢えず呑んで楽しめればそれでいいかと、臆人は思った。
バタンと、三人の声と共に扉は閉まっていった。




