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配役の理お断り・旧  作者: ヤマト〆
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配役の心得①⑦

眩い光が現れた。


そう気づいた時には、凶はひんやりと冷たい地に腰を下ろしていた。


何が起こったのか理解が及ばないまま、凶が目を見開いていると、聴覚が事に追い付き、辺りの焦燥を聴き取った。


そして覚束なかった視界がクリアになり、辺りの状況を事細かに映し始めた。


泣き叫ぶ者、喚き苦しむ者、頭を抱えて黙り込む者、そしてそれを恐らく介護に当たっている少数の大人達。


この状況を呑み込めずにいるまま硬直していると、頭上から声が掛かった。


「大丈夫かい!?どこか痛むところは無いかい!?」


「え……あ、はい」


訳も分からぬまま返事をすると、頭上から声を掛けてきただろう人物が眼前に脚を屈ませ顔を覗き込んできた。


その人物に、凶は見覚えがあった。


「どうやら傷は無さそうだね。無事で何よりだ」


その人物は安心したように口許を緩めた。そして、ある事に気付いたらしくその顔を疑問に満たした。


「君は確かあの時の……待てよ、と言うことは星8のチーム……」


そして疑問に満ちた顔を今度は切迫した顔に上書きした。凶の表情は全く変わらない。


「今、帰って来たのは君だけかい?」


「えっと……そうだと思い__いえ、そうです。 俺だけしか帰って来てないはずです」


凶は思い直したように言葉を言い換えた。その言葉の真意にその人物は何かに気付いたのかゆっくりと頷いた。


そして凶の思考が少しずつ回復し、眼前にいる人物が大河原 冬香理事長だと気付いた。


そしてここが体育館であり、凶はそこで尻を着けて座っているのだと言うことも分かった。


一体何が起きたのか大河原理事長に聞こうと口を開こうとすると、彼女は咄嗟に凶の肩を優しく叩いた。


「今ここで起きている事態について君に説く時間は無い。 とにかく身体面、精神面共に異常は無さそうだから、私は行くよ」


その返答を待つ事もないまま、彼女は足早にそのを立ち去って行った。


そこで凶は、まずこの事態を受け止め考える事から始めた。今ここで何が起こっているのか、知らなくてはならない。


凶は取り敢えず体を起こした。そしてふと自分の身体を眺めてみた。


身体に傷は無い。けれど、何かに締め付けられたような痕が身体に刻まれていた。


「う……うおぇ……!!」


吐いた。凶はせり上がって来た胃酸や食べ物を一気に口外に出した。


そして咳き込み、思考に蓋をした。


それは余りにも危険なものだと凶は判断し、考える事を一度辞めた。


けれど、心臓の鼓動は早まり、息は荒くなる。凶は目を瞑り、必死に念じた。


考えるな、考えるなと。


けれどそれは、考えないように考えているのであり、実質それは考えているに等しい行為だった。


それすらも理解できないまま、思考の沼に溺れていく。


大きな口。漏れる吐息。鮫のような鋭い歯。上から覗き見る大きな目。


そして訪れる咀嚼。


それを思った時、凶はこの場に居たのだ。


「死んだかと……思ったのに……」


あの時、凶は自分がいかに小さな存在なのかを知った。そして無力な一人の少年なのだと。


こうして命をまだ失っていない事に、意味は有るのかと凶は思った。


その時、また凶の顔に影が射した。


「やぁ。どうだったかな私のクエストは? 密な物だと大変嬉しいがね」


「えっと……長谷川教頭……ですか?」


ふらつく思考を何とか正し、目の前にいる露骨な笑みを浮かべている顔を見上げる。


「あぁそうだとも。それより、死という恐怖を味わった君に一つ問いたい。死とは何だと思う?」


何とも哲学的な質問だった。けれど、不思議とそれに対して考えるのに嫌な感覚は無かった。


「……死って、怖いと思いました。ただ純粋に怖かった。これを経験するのは、人生一度きりでいい。そんでもって__」


凶の目は、長谷川を睨んだ。


「これを他の奴に経験させんのはタチが悪いな」


まるでこの一連の流れの原因が長谷川にあるのだと確証しているその目を見て、彼は笑顔を崩す。


「いやはや開き直るとはな。まあ、でもお前達の力では敵わない。これは計算の内だ」


「開き直ってんのはあんたもだろーが。まあいいさ、この世の死を体験した俺に言わせてもらうとだな。あんたは俺達の身内を知らなさ過ぎる」


「……?」


「まだいるんだよ。奇跡を起こせそうな勇者が、しかも二人な」


「……二人?」


訝しげに眉を潜める長谷川に、してやったり顔で凶は口元を拭って笑う。


勝負の行く末はまだ、分からない。




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