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配役の理お断り・旧  作者: ヤマト〆
14/17

配役の心得①④

そして夜は明けて二日目も、昨日に引き続き晴れ間が見える。この調子なら雨の中帰ることは無さそうだ。


四人は炭と化した(たきぎ)を囲むようにして集まると、今日の打ち合わせを始めた。


「今日の目標は、今日中にクエストを終わらせること。そして明日はゆっくりと帰りましょ」


「えぇ〜今日中に全て終わらせて帰ろうぜ!薬草なんてパパッと取れば終わるだろうよ!」


楓の安全な目標に嫌そうに反発し、凶は新たな目標を立てた。


「ダメですよ。森はまだ少し続きますし、そこからも少し歩きますし。焦ったら碌な事は無いですよ凶さん」


「そうだね。愛未さんに一理あると思うけど?」


どうやら今日中に終わらせたいのは凶だけらしく、少し不貞腐れながらも直ぐに受け入れた。


「ん〜じゃあそれで決まり!出発進行!!」


「あ、それ私が言おうとしたのに取らないでよ!!」


「早いもん勝ちって奴だよ楓ちゃん」


とまあ仲睦まじい二人を見て、愛未と宍戸も互いに顔を合わせて笑う。


そして四人はここを出発し、遺跡の麓へと向かう。地図上ではこのまま真っ直ぐ歩けばいいのだが、ここで非常事態が発生する。


「おいおい嘘だろ……?こりゃねぇぜ」


眼前に広がるのは、まるで引きちぎられたように断面がゴツゴツした岩壁だった。簡単に言えば崖である。


四人は森を歩いていると、急に少し開けた場所に出て愛未は不自然だと感じたが、どうやらそれは当たっていたらしい。


左右どちらを見ても横に連なっている岩壁は、まるで四人を阻むように屹然とそこに佇んでいる。


「しょうがないですね……この崖を迂回して遺跡へと辿り着きましょう。

幸いこの壁に沿って移動できるので道に迷う事は無いと思うので」


「くはぁ!!めんどどくせぇなぁ!!」


「こればかりはしょうがないね」


こうして三人が早々と諦めて迂回しようとしたが、一人だけ動かずにじっと頂上を見つめている人物がいた。


「ねぇ?これ登れないかしら?」


楓はさも真面目そうに崖を指差して三人に投げ掛ける。三人は共々言葉を無くし楓は見やる。


「いや、流石に無理があると思うんだけど楓ちゃん……だってこれ結構高いよ?場合によっちゃ迂回した方が早い場合も……」


「そんな掛からないわよ。私鉤縄持って来たしこれを何処か上の木に引っ掛けて登ればいけそうじゃない?」


飄々と言ってのける楓に、嫌々と文句を付けたがる凶。一体どっちが男らしいのやらと、宍戸は思いつつもここは見守る事にする。


「何で鉤縄持って来てんのは!?ていうかどこにも縄を括れそうな場所なんて……」


凶がそう言って頂上付近を見上げると、そこにはポツンと、まるで自分にロープを括って下さいと言わんばかりの位置に大木が一本生えている。


「あるわよね?」


「くぅぅ……」


凶は一瞬言葉を失ったが、踏み止まる。


「いや、まず他の二人の意見も聞こう。宍戸!愛未ちゃん!そこんとこどうなのよ!」


「んーロッククライミングは嗜み程度だけどやっていたからね。僕は構わないよ」


「わ、私は……怖いですけど……早く行く為には頑張る事も必要かと……!」


「健気!!どうしよう俺悪者!?いや、まあ悪者として生きてきたから良いけど寂しい!!」


「どうやら完敗みたいね」


その表情に楓は満足したのか、バックから鉤縄を取り出すと、狙いを定めて縄を大木目掛けて投げつける。


だが、それは大木に上手く括るようには出来ず、横を通り過ぎるだけの形になってしまった。


「ふん!括ることが出来なきゃ話に……」


「貸してくれないかな?」


そこに颯爽と現れたのは宍戸である。凶は先程の宍戸の言葉を聞いて嫌な予感が襲った。


「ま、待て!これは楓ちゃんが言ったことだし本人にやらせるべき……」


慌てて止めるも虚しく、鉤縄は空を切りながら大木にクルクルと巻き付いていった。


「やったぁ!ありがとう宍戸!」


「まあこれ位どうってことないよ。それより誰が一番最初に登るんだい?」


「じゃあ私が一番に行くわ!あ、宍戸これ持ってて!後愛未ちゃん!ハーケンも持って来たからこれを足場代わりに使って登ってね!」


宍戸が縄を引いて強度を確かめた後、楓に縄を託す。楓は受け取ると、よしと気合いを入れて崖を登り始める。


「くうぅ!案外きついわねこれ!でも、負けるもんですか!」


持ち前の負けん気でぐいぐいと登って行き、見事ゴールへと辿り着いた。


そして上から縄が下され、今度は体力に自信のない愛未と、経験のある宍戸が登り始める。


二人の登り方は、まず愛未の体にロープを巻き固定した後、宍戸がハーケンを壁に刺して足場を作った後頭上にもう一つ刺してそこにロープを伝って登る。


そしたらロープを引いて最初に刺したハーケンの場所に愛未を援護するようにロープを引いて行く。


愛未が最初のハーケンに足を乗せると、三つ目のハーケンを頭上に刺して宍戸が登り、そこを足場にして愛未を次のハーケンへと引き上げる。


その時一つ目のハーケンを愛未は引き抜いて登り、そのハーケンを宍戸に渡してまた宍戸が頭上に刺して行く。


これを延々と繰り返して行き、二人も難なく登り終える事が出来た。


こうして後に残った凶は、泣き言を言いながらもロープを自分に括り付けて登って行く。


「うわぁ!!高ぇ!!怖ぇ!!」


「文句言ってないで早く登りなさい!!男でしょ!?」


下をちらちらと見ながらひぃひぃ言う凶に、楓は目くじらを立てて怒鳴る。


凶は半泣きになりながらも、縄をがしがしと手を交互に変えながら進んで行き、ようやく後少しで手の届くところまでやって来た。


「後少しよ凶!!頑張りなさい!!」


「お、らあぁぁ!!」


崖の先端はもう目前だ。後少しだ、と心の中で叫びながら手を伸ばしたその時__ゴールがいきなり遠ざかった。


「へ……?」


ふわりと宙に浮く感覚。そして視界に映った縄の切れ端。凶は何もかも理解して、死を悟った。


「うぁぁぁ!!」


手を伸ばしても届かない。ぐんぐんと重力が掛かり地面へと真っ逆さまに落ちて行く。


「【風の羽衣】!!」


その時、魔法の詠唱が耳に届いた。凶は殆ど魔法に対する知識を持っていないので、それが一体どういうものなのか分からなかった。


けれど、その詠唱の後に突然体が軽くなり、高速化していた目の前の景色がピタリと止まる。


「な、何だこれ!?」


凶は驚きつつも身を任せていると、体はフワリと浮き上がり、ゆっくりではあるが上へ上へと向かって行く。


そしてそのまま崖の上まで浮くと、その浮力はピタリと止んだ。


凶がポカンと口を開けて固まっていると、そこには愛未が居て、ニコリと微笑んだ。


「成功したようですね。良かったです」


「……お、おう。ありがとな」


その笑顔が、最近見たいかがわしい本や動画より何倍もドキッと来てしまい、凶は顔を逸らした。


「……ていうか愛未。この風の羽衣って風を操って運んで来たのよね?」


ジト目で楓を見つめる。


「そうですね。そこまで難しい魔法じゃ無いので、訓練すれば覚えられますよ?」


「……最初からこれ使えばわざわざ鉤縄なんて使わなくて良かったんじゃないの?」


楓の細やかな疑問に対して、愛未は一瞬疑問の顔をしたが、直ぐにその意図に気付きハッとなる。


「確かに……わざわざ登らなくても良かったですね……しかもこれに重量制限無いですしその気になれば四人一気に運べますね……」


あはははは、と愛未が苦笑するも誰も笑わない。


「あんた天然のアホね!!」


「すみませんでしたぁ!!」


とまあこんなやり取りは一先ず区切りを入れて、四人はこの先を進むことにする。


だが、その先の光景はまたもや受け入れがたいものとなっていた。


そこは地続きではなく、まるで裂け目のようにパックリと割れていた。その下をザァァと音を立てながら流れるのは水である。


そしてその裂け目を繋いでいるのが目の前に佇む橋なのだが、とてもでは無いが橋とは言えない代物になっている。


縄で支えられている連なる木板は深い墨色をしていて、踏めば一気に崩れ落ちそうであり、縄すらも所々に切れ目が入り、ささくれたまま放置されている。


「これは……桟橋ですかね」


「違うわよ!!桟橋なんて可愛いものじゃ無いわ!!これはもう壊れかけのボロ橋よ!!こんなの渡れる訳ないじゃない!!」


楓が悲鳴を上げて地団駄を踏んでいると、宍戸がふと桟橋に近づく。


「確かに踏んだ瞬間底が抜けそうだね……でも、確かめる価値はある」


「宍戸あんた何を言って……!?」


「取り敢えず片足だけでも踏んでみる価値はあると思うってだけだよ」


そう言って宍戸は片足を桟橋の最初の木板に乗せた。ギシッと音を立てはしたが、底が抜けるという事は無かった。


「これならもしかするといけるかもしれない」


宍戸はそう言うと、もう片方の足を次の木板に乗せようと足を浮かせる。


「ちょっと!?片足だけにしときなさいよ!!」


「そうです!!危険です!!」


「死ぬ気か!?」


三人の心配を他所に、宍戸はもう片方の足を木板に乗せた。またもやミシッと音を立てたはしたが、縄が切れるという事は無かった。


三人の安心も束の間、宍戸は一歩目の足をつぎの木板に木板に慎重に乗せる。またもや底は抜けず縄は切れない。


「分かった!!多少の耐久力があるのは分かった!!だがもういいから帰ってこい!!」


「そうよ!!こうなったらまた愛未の風の羽衣に乗せて貰えば良い話よ!!」


「そ、そうですよ!!でもその代わり皆さんが怪我した時治せる魔力は無くなってしまいますが、それでも構いません!!」


「そうだぞ!!怪我しても治せる魔力が無くなっても俺は良い……うん?今愛未何て言った?」


ふと愛未が言った言葉に疑問が生まれる。それは楓も同じなのか、顔を引きつらせながら愛未を見ていた。


「え?それでも構いませんと言いましたけど……」


「違う!!その前だ!!」


「あ……皆さんの怪我が治せなくなる所ですか?大丈夫です。皆さんが怪我をしないように私は最善を尽くしますから」


ガッツポーズをして、愛未は気合いを入れてそう返答した。その言葉に、楓と凶は顔を真っ青にする。


「あんた……その風の羽衣ってそんなに魔力を使うものなの?」


「そうですね……恥ずかしい話ですが、まだ見習いの段階ですから絶対魔力量も少ないですし、魔法精製も要らない魔力を組み込んだりして効率が悪かったりするので、あまり魔法そのものが連発出来ないんですよ」


照れながら返す愛未に、ピシャンと二人に雷が打ち抜かれた。取り敢えず二日目になって行動が大胆になってないかという疑問はさて置き、これは注意が必要である。


「どうやら少し教育が必要なようね」


「だな」


二人の顔は笑っているようで笑っていない事に気付き、愛未は体を竦める。何か、途轍もない事をしでかしたのだと気付いた時には遅かった。


宍戸が踏ん張っている所を他所に、愛未への説教タイムが始まったのは言うまでもない。



「でも、どちらにしろあの橋を渡らないと向こう岸に辿り着けないのよね?」


「まあ、確かにそうだよな。あっち側に行くにはあの恐怖の桟橋を渡るしかない」


「うぅ……でも、あんな今にも落ちそうな橋渡れるんですかね?」


三人がそんな会話をしている時、凶がある事に気がつく。


「つーか宍戸の奴は今どうして……」


それは今もなお桟橋と闘っているだろう宍戸の事だ。ふと凶が桟橋を見ると、あろうことか宍戸はもう半分程度の所まで歩を進めていた。


二人も後に続いて宍戸の度胸に目を丸くする。


「おい宍戸!!渡れそうか!?」


「……そうだね。意外と丈夫みたいだよ。一応踏み込んだ場所に目印を付けて置いたからそこを踏みながら君達も来ると良い」


その言葉を聞いて三人が木板見ると、そこには赤いシールが一つの木板に対して一つずつ貼られていた。


どうやらこれを目印にして此方へ来いという事だろう。


「嘘だろ……まじかよ」


「ここ渡るの……?」


「魔力温存のため、行くしかありませんね」


残った三人の中で最初に桟橋を渡ったのは愛未である。体を竦ませながらも一つ一つ木板に体重をかけていく。


軽い所為か、嫌な音は立たずに木板に立っている。


「案外いけるかもしれませんよこれ。二人共早く来てくださいね」


慎重ながらも歩を進める愛未に対して、楓と凶は顔を見合わせて動かない。


「あんたが先に行きなさい!!」


「いや、この世界にはレディーファーストというものがあるから先に……」


「いいから行きなさい!!」


楓の迫力に押し切られる形で、三番目は凶となる。


またしてもひぃひぃ言いながら片足を木板に乗せて行く。愛未と違いミシミシという音が鳴り、体を強張らせる凶だが、木板は割れていない。


凶はそのままもう一歩次の木板へと足を乗せた。木板は割れない。


「よ、よしよし!!これなら行けそうだ!次、楓ちゃんの番だぜ?」


「うぐっ……分かってるわよ……音、鳴りませんように……」


楓が三人より後に行かせたのには理由があったのだ。


先程、愛未が乗った時、ミシミシと木板が音を鳴らせる事は無かった。つまりそれは軽いからだ。


もしここで凶や宍戸と同じくミシミシと音を立てながら木板を歩くのは、女性としてとても恥ずかしい事だ。


例え体格差が愛未とあるにしても、あまり聞かれたくはない。


この場に臆人が居ない事に安堵している自分に気づきつつもそれを振り払い、足を乗せて行く。


ミシッと小さい音が鳴った。


「こいつ……鳴りやがったわね……見てなさいよ」


ブツブツと木板に文句を言いながら、次の木板に足を進める。今、楓が闘っているのは桟橋を渡る事では無かった。


いかに音を鳴らさずに渡り切るか、それだけだった。その為、怖さを忘れてその事に没頭しながら進んで行くと、何かにぶつかった。


「ちょっと凶何してんのよ!早く進みなさいよ!」


「馬鹿……それどころじゃねぇぞマジで……あれ見ろ」


「ん……?」


凶が体を震えて前を指差している。楓は背中の横から顔を覗かせて、先を見た。


まず愛未が見えて、その先に宍戸が居る。そこまでは普通だった。


けれどその先、桟橋を渡り切った所に、ある人物が居る事に楓は目を丸くする。


「クックックッ……やっと来たな!!この時が!!」


ある人物__それはダーク=ロウだった。


もし仮に、ダーク=ロウが手持ち無沙汰でそこに居るだけならまだ良かった。


けれど、彼はある武器を両手に持っていた。


ウィィィィンと、無数の小さな刃が風を切りながら回転して音を立てている。間違いなくあれはチェーンソーだ。


「嘘……でしょ?」


楓は軋む音など忘れてその場に立ち尽くした。最悪の事態である。よりによってこんな場面で出会すとは思わなかった。


「まあ、あちらさんはこれを狙って来たんだろうけどな。どうするよ?」


「……走り渡るしかないわね」


「まじかよ!まだ半分以上あるぞ!?」


位置的には宍戸が約3分の2、愛未が半分、凶と楓は3分の1位である。


ここでもし桟橋が切られればタダでは済まない。


「やるしかないでしょ。でもタイミングは同時で、合図したら行くわよ」


「……分かった」


怖気付いてる暇はないと凶も判断したのだろう。直ぐに了解した。


「ダーク=ロウ!!ここでそのロープを切れば僕達がどうなるか分かってるのか!?

死ぬかもしれないんだぞ!?」


「はっ!!知ってんだぜ俺は?さっき愛未が魔法で凶の奴を浮かせて崖登りをクリアした事によ?

それを使えば良い話だろ?まあ、魔力の無駄遣いになるだろうけどな!!ハッハッハ!!」


「ちっ……それが狙いか」


どうやらダーク=ロウは崖でのやり取りを見ていたらしく、自信満々にそう答えて、宍戸の情に訴えかける作戦は失敗した。


「なら、ここはもうゴリ押しで行くしかなさそうだね。距離は約3メートル弱ってとこかな」


「はっ!!跳んでこっちに来る前にはもう、ロープは切れてんだよ!!」


ダーク=ロウは高速回転しているチェーンソーを上に掲げると、ロープを括ってある縦長の木の杭目掛けて

それを振るう。


「はっ!!」


そのタイミングを見計らい、宍戸がポケットから何かをダーク=ロウ目掛けて投げつけた。


「ぬぅっ!?」


それはチェーンソーを握る手にヒットし、ダーク=ロウは一気に狙いが逸れて木の杭を外す形でチェーンソーを地面にヒットさせた。


「今だ!!皆ここを渡るんだ!!」


「行くわよ!!」


宍戸と楓の声が交わり、三人は一気に駆け足で桟橋を駆ける。それに遅れる形で愛未も桟橋を走る。


直ぐに宍戸は桟橋を渡り終えて、ダーク=ロウと対峙する。後の三人は愛未が少し出遅れたのもあり、三人は纏まって橋を渡る。


もうこの際軋む音なんて気にしなかった三人は、異様な破砕音には全く気付かなかった。


ミシミシではなく、バキバキという音が桟橋全体に駆け巡り、続いてバキンという完全なる破砕音が鳴った後、桟橋が一気に揺れる。


元々木の杭でしか止めれていなかったこの桟橋は、三人の走る重みに耐えきる事は出来なかったのだ。


木の杭に括られたロープがブチっと切れて、三人は同時に言った。


「「「跳べぇぇ!!!!」」」


力を入れて、三人は力の限りを尽くして跳躍する。体が浮き、目の前は地面だ。


このまま行けと三人は願ったがやはり重力には敵わない。少しずつ降下していく。


三人は無我夢中で手を伸ばした。動きがスローになっているのが分かる。


「うらぁぁ!!」


まず、凶が崖の端に片手を付けた。その次に楓もギリギリでその端に手をつく事が出来た。


けれど、愛未には届かなかった。背が小さく力も無かった故に、彼女は届く事が出来なかった。


段々と地面が見えなくなり、ゴツゴツした岩肌が見える。


ここで魔法を使うべきなのかと思った。けれど同時に、ここで使って生き残ってももう役には立たないのだと感じた。


自分が使う魔法で、他人が救われる事は自分の幸福だった。それが生きがいだった。だから治癒術師としての道を歩んだのだ。


けれどここで自分のために使って生き残っても残るのは空になった自分の肉体のみだ。それに価値なんて無いのは分かっている。


魔法を使って人を助けられた事に、喜ばれた事に調子に乗ってしまった罰だと、愛未はこの事実を受け入れ__。


「まだ……恩返し出来てない。だから……」


相反する想いがぶつかり、それはある形になった。


手が前に突き出て、何かを探す。


「……終わらないで」


パシッと、何かが両手を掴んだ。どちらも少し汗ばんでいて、温かい。


「あ……」


「あっぶねぇ!!落ちるとこだった!!」


「愛未!!このまま投げ飛ばすわよ!!」


「……へ?」


その温かさにホッとする時間もなく、楓と凶は顔を合わせて頷くと同時に、掛け声を出して愛未を上へと引っ張り上げ、手の温かさが無くなった。


一気に体が浮いて、そのまま地面へとダイブする。顔から落ちた愛未は目尻に涙を溜めながら顔を上げる。


そこに居たのは心配そうに見つめる宍戸の姿だった。


「良かった……一時はどうなるかと思ったけど、無事に皆渡り切ったね。立てるかい?」


「はい……」


手を取って、愛未は立ち上がった。そして改めて周りを見ると、色々と状況が把握出来てきた。


まず、ダーク=ロウはもうチェーンソーを捨てている。流石に人を切り刻む趣味は無いらしく、憎々しい顔でガントレットを嵌め込んで此方を見ている。


地面には三度抉られた跡があるので、恐らく宍戸が桟橋を切らさないように防御していたのだろう。


そしてその元凶の桟橋はもう橋ではない。ロープが切れて対崖から下にぶら下がっている。


凶と楓はもう体を半分地面に預けているので、落ちる心配は無さそうだ。


そして最後に宍戸だが、片手に剣を持っているがその形はもう剣のそれではない。傷付き刃毀れが何箇所もある。


恐らくチェーンソーを受けた事によるものだろう。宍戸自体に傷が無いのは安堵するところだろう。


「ち……良い作戦だと思ったんだけどな」


「てめぇ!!ぜってぇ殺す!!ぶち殺す!!」


「は!!殺せるもんなら殺してみな!!」


ようやく崖から這い上がって来た凶が目を鬼のようにしてダーク=ロウに当たる。対するダーク=ロウは飄々としているが。


「つーか昨日は3対1で森だったから逃がしちまったが、今回は陸続きで隠れる所も少ねぇし、オマケにこっちは一人増えて4人だぜ?

勝てる見込みあると思ってんのかよ」


「そんなもん有るわけねーだろーよ。それに俺は戦いに来たわけじゃねぇ。邪魔しに来ただけさ。とっととずらかるつもりさ」


そう言ってるダーク=ロウだが、逃げようとする様子はない。不思議に思い凶が眉を潜めていると__


「おいダーク=ロウ時間だ。行くぞ」


「イエス。サー」


ザッとダーク=ロウの隣でマントがいきなり翻ったと思った矢先、臆人ならぬ悪人がそこに立っていた。


「な……一体どこから湧いて来やがった!?」


だが悪人はそれには答えずマントを広げると、ダーク=ロウを一気に包み込んだ。


その数秒後__二人はマジックのように一瞬で消えた。


「また前と同じように消えたぞ!?一体どうなってんだ!?」


凶が先日同様キョロキョロ辺りを見るが、人影はやはり無い。愛未も不思議そうな顔をして辺りを見ている。


その中で楓と宍戸だけが訝しげにその消えた地点を見つめていた。


「これはもしかするとなんだけど……あれは多分臆人君であり、臆人君じゃない」


「……どうゆうこった?」


凶がその言葉の意味を理解出来ずに首を傾げている。愛未も同様だ。楓だけは宍戸を見ているだけだが。


「恐らくあれは幻影だよ。少し高度な方だけどね」


「幻影!?幻影も話せんのか!?」


「いや話す事は出来ない。けど、言葉を発する事が出来る。要は臆人君が話していたのは只の拘束された言葉だ。

要は定型文なんだよ」


それを聞いて愛未と凶は合点した。要は与えられた言葉を話していただけで、それ自体に意志はないのだ。


「確かにそうだと思う。でもそしたら何でダーク=ロウも消えるのよ?不自然じゃない?」


「あぁそれは単に彼が転移の詠唱を唱えたからだよ。ほら?マントに隠れたろダーク=ロウのやつ。

その時、数秒だけ間があったのに気づいたかい?

その時に小声で唱えたんだよ」


「なるほどそういう事なのね。理解したわ」


「でも待てよ!!最初出て来た時は普通に会話してたじゃんかよ!!なぁ楓?」


凶が最初に臆人を見た時、確かに少しだが会話を行なっていた。それに対して楓が返答した。


「あれは多分、私の言う事を予想して話してたのよ。覚えてない?私が最初に名前と格好がダサいって言った時何も返して来なかったのよ。

あんまり気にして無かったけど、要は想定していなかった言葉には特に何も返答しなかったって事よ」


「あぁそういえば……そうだったようなそうじゃなかったような」


凶は腕を組んで思い出しながらそう呟く。


「だから魔力負荷を掛けずに……最初の爆発は臆人さんをあまり凝視させない為のカモフラージュ……凝ってますね」


「なんか偽物と話してってのはムカつくわね……!!さっさと取っちめてあの仮面を剥いでやるわ!!」


どうやら楓は最初に会話したのが本物じゃなかった事にお怒りの様子だ。


その様子にクスクス笑う凶はさておき、この先は恐らくコボルト遺跡に間違いない。


「さぁ行くわよ!!さっさとあいつを叩き出して薬草頂くわよ!!」


「「「おう!!」」」


こうして四人は遺跡へと歩を進める。


待ち受ける最大の試練など露知らず。





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