表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
配役の理お断り・旧  作者: ヤマト〆
13/17

配役の心得①③

星空が瞬き、欠けた月が浮いている遥か下で、パチパチと火花が飛び散る音が聞こえてくる。


これがキャンプファイヤーで、周りに女子が沢山いてこれからフォークダンスでも踊ろうって事ならまだ眺めて楽しむ気分にもなるかもしれない。


けれど、今の凶の心境ではとても楽しむ気分にもなれそうにない。生憎と、女子は居るが二人は今疲れて眠っている。


あの後、二人を安全な場所__と言っても森の中なのは変わりないが__へと連れ出し、宍戸と交代で薪をくべて火を起こす係と見張りを分けて夜をやり繰りしている。


幸い、魔物という生命体は火を嫌うらしく、焚き火をしてれば近寄っては来ないらしい。


まずそもそもこの森に魔物という存在がいるのかどうかも不思議な所だ。森を歩いてる時も、拓郎と戦っている時も一切獣の影すらも見なかったのだから。


それにしても、今日の女子陣の活躍は眼を見張るものがあった。楓は落下覚悟で木を斬り倒し、愛未は雷の槍を創り上げ、勝利をもたらした。


また、宍戸は裏で幻術を発生させていた装置を見つけ出し破壊までやってのけた。


だが、凶の活躍は時間稼ぎと視線誘導位のものだ。手柄とは到底言えない。


情けない、と凶はパチパチと燃えている焚き火にゆっくりと溜息を吐き出した。


「起きてるかい?」


その時、草むらから大小の枝や薪を持った宍戸が唐突に声を掛けた。その声に振り向き、あぁと答える。


宍戸は薪置き場に溜まっていた枝やら何やらの上にそれを積み置くと、今日の横に腰を下ろす。


「ふぅ〜これで今日の夜の分は持つだろうし、どうする?交代で仮眠を取るかい?」


「んーいや、俺ずっと起きてるわ。眠くねぇし.…それに今日はあんまし活躍してねぇし、せめてもの罪滅ぼしだ」


その反応には宍戸には予想外だったようで目をまん丸くした後、プハッと声を出した。それに凶は目尻を上げて反応する。


「何だよ!文句あんのか!」


「違うよ。凶もそういうの気にするんだと思っただけさ。案外可愛い所有るんだなと思っただけ」


「うっせぇ!!そんなの男になんか言われたかねぇよ!!」


「んん……?」


凶の声が大きかったのか、少し離れた所で横になっている愛未が眉を潜めて苦痛なのか顔を歪ませている。


二人が息を張り詰めていると、愛未は穏やかな顔に戻り静かに寝息が聞こえてくる。


「馬鹿声が大きいよ……!」


「いやぁどんまいどんまい……」


あははははと笑う凶を横目に、宍戸は愛未の顔をしかと見つめた。


「そう言えば、あの魔力の塊は愛未さんが造ったのかい?」


「あぁ、そうだよ。まあ正確に言うと中身が空洞の塊だけどな」


「中身が空洞の塊……恐らく威力を弱める為に外装だけ形作ったものってことかな?」


「そーゆーこと。愛未ちゃんはそれをやってのけたのさ。魔法ってのは魔力を莫大に使うからな。

それに手を加えて放出したんだからすげーもんさ」


「当たったのは拓郎かい?」


その宍戸の問い掛けに、凶は少し言葉を詰まらせた。


「あ、あぁ……正確にはダーク=ロウだけどな」


「ダーク=ロウ?まるで悪役みたいな名前だね。いや、彼はもうあっちの手先か」


「そーだな。臆人の奴が手を加えたのか分からねえが、厄介な事をしやがる」


「まあ、宿敵って書くからね。対立する事はあっても此方側につく事は無い。もし、あるとするならそれは何かしらの強い信念があっての事さ」


「ま、そーだな。流石元宿敵科」


「今でも宿敵科所属だよ!!」


「声がでけー」


「正にその通りだわ」


焚き火の影からひょこっと歩いてきたのは、楓だった。口に手を当ててふあぁと欠伸をかましている。


「あー起こしちまったか?」


「別に。勝手に起きただけよ」


少し不機嫌そうに言うと、楓は宍戸の隣に腰を下ろした。


「それにしても……宍戸あんたいつ帰って来たのよ?」


「あぁえっと……君達の戦闘が終わった直後かな。頭は大丈夫かい?倒れた時に打ったと聞いてたが」


「まあ、若干クラクラしてるわ……いや、結構クラクラしてるわね。もしこのまま立ち上がったら焚き火に頭を突っ込むのは間違いなしね」


「怖い事をそんなに軽々と……なら寝てた方が」


「いや、まあ……私今回活躍あんまり出来てなかったし、見張りを少し位やっても良いかな……みたいなそんな感じよ」


「「…………」」


凶と宍戸、特に凶はその言葉にポカンとしていて、言葉を上手く呑み込めてない。


それにいち早く気付いた宍戸は、楓に凶も同じ事を言っていた事を話す。


「はぁ!?何言ってんのよ!!あんたが居たから戦い勝てたんでしょ?木を切ってそのまま倒れて意識失った私よりマシやマシ!!」


「おいおい俺が最初に牽制で撃った魔弾を使って拓郎に最初に攻撃したのは楓ちゃんだぜ?ただ木を切っただけじゃないだろうよ」


「馬鹿あれはそんなに深手でも無かったし!!ていうかあんたが最初に牽制してくれなかったら……」


「ちょ、ストップストップ!!愛未さんが起きちゃうよ!?」


余りに二人が健気に褒め合うのがむず痒く、しかもボリュームが上がって行くので、途中で制す。


「とにかく、二人は活躍しましためでたしめでたしってことにしておこうよ!ね?ね?」


「まぁーそうだな!不毛な争いだったかもな。戦った三人大活躍でめでたしめでたし……」


「それは違うわ」


楓はその言葉を強く跳ね除けて、ふと愛未の方を見た。


「愛未ちゃんの事だけど……やっぱり勇者には合わないんじゃないかな?戦いの時もいつも一歩動き遅かったし……やっぱり治癒術師の方が」


「いんや、そんな事は絶対に無いよ愛未ちゃん」


「え……?」


その反応が意外だったのか、楓はポカンと口を開けて言葉を見失っている。


そんな楓に語りかけるように、凶は言った。


「愛未ちゃんは強いよ。現に、拓郎にトドメを刺したのは彼女だからね。確かに、怯えている部分もあって震えている部分もあったけど、あの時伝わったんだよ。

私はやれる。だからキッカケを作って欲しい。変わらなきゃいけない。責任を果たさなきゃいけないって、目が訴え掛けてたんだ」


「彼女の瞳には特殊な力があるのかもね。人を真っ直ぐ見て、目と目を合わせて、必死に訴えかける。

そうそう出来る事じゃ無いよ」


珍しく深い話をしている凶に奇妙な感覚を覚えてしまうけれど、とにかく言いたい事は楓に伝わった。


先程の言葉を訂正しようと言葉を発しようとした時、それより早く宍戸が言った。


「けれど、とても危うい。もし何かしらの原因でその瞳が失われてしまったならば、彼女はもう勇者として生きて行く事は出来ないさ。

それどころか、治癒術師にも戻る事が出来なくなるかもしれない。それ位脆く儚いものだよ」


その言葉に開き掛けていた口がまた閉じて、不意に愛未が寝ている辺りを見た。


するとそこには人の姿は無く、焚き火によって明るく映された地面があるだけだった。


「あれ……?愛未ちゃんは?」


「うん?あれ!?どこ行った!?」


「もしや魔物とやらに捕まったのかもしれない……」


三人が慌ただしくキョロキョロとしていると、木の陰からゆっくりとした足取りで愛未が近づいてきたのを見て、三人はホッとした。


対する愛未は何だかもじもじしながら三人をチラチラと見つめている。


「どうかしたのかい?」


「あ、いや……その……」


一瞬、先程の事を問い詰められるのでは無いかと宍戸は思った。だが、そんな雰囲気では無い。


愛未は迷った挙句、手をグッと握り締めて、意を決したように此方を見つめた。


その瞳は汚れなく、真っ直ぐだ。


「わ、私は今日……皆さんのお役に立てなかったので、見張りでもして贖罪をと……」


「「「…………」」」


今度は三人共静かに黙り込み、愛未はその雰囲気に怒っているのでは無いかと勘違いしあたふたしていると、三人は一気に笑顔に変わる。


「じゃあ四人で交代交代で見張りをやりましょ!!最初は私がやってあげるわ!!」


「いや、俺が最初に行ってやるよ」


「いえ、私が……」


またしても不毛な戦いが始まりそうな雰囲気に、宍戸は肩を下ろして息を吐いた。


こうして夜はゆっくりと更けていく。




***




ある一報が校長室に届いたのは、生徒達全員が出払い、教師達が落ち着きを取り戻しつつある時だった。


橋住(はしずみ) 水鶏(くいな)は、教師でもあり校長の秘書をも兼任していて、今日も事に追われている日々であったのだが、ある事に気が付き廊下を全力疾走で駆けていく。


普段ならそれを注意するべき立場だが、生憎今はそれどころでは無い。それに今は授業中であり、廊下に生徒はいないのもあり、橋住の足はどんどんと加速していく。


早く知らせなくてはならない。これは、学校が存続できるか否か分からない程の危機である。


のっぺりとした木板で彩られている校長室は、やはりこの学校では異質な存在である。その茶黒の木製ドアを二度ノックすると、返事を待つ事なくドアノブを回す。


「し、失礼します!!大変です浮世校長!!」


前のめりになりながらも息を整えながら適切な言葉を探す。けれど、目の前に佇む白髪の女性__大河原 冬香がいる事で、橋住の焦りを一気に冷や汗へと変えた。


位置としては、椅子に大河原理事長が座り、お客様用に使われている対面式のソファに腰掛けてゆっくりお茶を飲んでいるのが浮世校長だ。


何だかここだけゆっくり時間が経過しているように感じたが、今はそんな場の雰囲気はどうでもいい話だ。


「大河原理事長……来てたんですか……?」


「あぁ。どうしたんだいそんなに慌てて?綺麗な水色の髪が乱れているよ?」


凛然と校長室の椅子に佇むその姿は、夕日と相まって美しく感じるが、今はそんな事を考えてる場合では無いと、心の中で首を振る。


また、この話は理事長に聞かれるとマズイ気もするが、だからと言ってここから校長だけ引き抜いて話をする事など出来ない。


よって橋住は直ぐにこう答えた。


「只今発覚した問題です。この度この新入生クエストでの不正が発覚いたしましたのでご報告致します」


その言葉に対して、校長は度肝を抜かれたように目を丸くし、危うく飲んでいた湯呑みを落っことしそうになる。


それを横目に見ながら、理事長に顔を向ける。彼女は特に動じてはいない。


「具体的に聞こうか。校長と私は其方の席に、橋住先生は対面する席にそれぞれ座るとしよう」


「え……あ、はい!それでは失礼します」


この時の一瞬の戸惑いは、理事長が自分の名前を知ってる事に対する驚きだったが、彼女は気に留めた様子も無く校長の隣に腰かけた。


それに伴い、お客様用の対面する座席に自分も座ると、大きく息を吸って言葉を紡ぎ始めた。


まず、ある書類の束を持っていた鞄から引っこ抜く。


「先ずはこれを見てください」


対面している両者を遮るように存在しているモノクロのテーブルにそれを置くと、二人は直ぐにそれが何か分かったようで驚きを露わにする。


「これはどういうことだい?何故今日配られている筈の新入生クエスト用紙が全てここにあるんだい?」


テーブルの上に置かれた用紙は、本日正午より生徒達が持ち、各々の力で突破する為に難易度を調節した新入生のためのクエスト用紙だ。


それがここに全て置いてあるという事はつまり、今生徒達が持っているのは別のクエスト用紙という事になる。


「これは何という事だ……直ぐに生徒達を避難させなくては……」


漸く校長の言葉から出た言葉は生徒の安全だった。けれどそれは、余りにも早すぎる発言だった。


何せこれはまだ始まりに過ぎないのだから。


「それは後回しだよ校長。それより、生徒達が別のクエスト用紙を握ってる可能性があるのは分かった。

ならば貴女に問おう。そのクエスト用紙が何なのか知ってるかい?」


「……はい。知っています。そして、これを企てた人物さえも、私は思い当たる節があります」


率直に、思ってる事を全て口にして冷や汗が滝のように体を伝う。けれど、ここで尻込みしていたら生徒達は浮かばれない。


「聞こうか。君の推理を」


「はい。ですが悠長に長々と語る時間はありません。何せ恐らく__いや間違いなく新入生達が挑んでるのは卒業用に封をされていたクエスト用紙__つまり星5から星8に掛けてのクエスト用紙だからです!!」


「何だって!?」


これには理事長も想像だにしていなかったらしく、開いた口が塞がらない。校長に至っては銅像のように固まり、白目を向いて固まっている。


ここで補足しておくと、新入生クエスト用紙の数は全部で約百枚。そして卒業用のクエスト用紙も同じく百枚ある。


これは新入生が無事に卒業までに居なくならないように願いを込めて同じ枚数を取って封をしている。


ここで星の振り分けだが、新入生クエストは★3〜★5までのクエストを約1:1:1(残りは★3に加味)の割合で提供している。


けれど、卒業用のクエスト用紙の★5〜★8の振り分けには大きなばらつきがある。振り分けは、10:6:3:1という内訳だ。枚数に例えると★5が50枚、★6が30枚、★7が15枚で★8が5枚になる。


理事長はこの事を知っているのか、難しそうな顔をして唸った後は、ふと橋住を見つめた。


「口調からだとどうやら確信があるようだね」


「そうですね……と言うより、気付かされたと言っても過言ではありません。何故なら私の机の上に新入生クエスト用紙が入れられた茶封筒が置いてあったからです。どうやら彼は気付かれる事を恐れていないのかもしれません」


ぎゅっと拳を握り締めて、下唇を噛み締める。こんな卑劣な事を行なっておいて飄々と今中継画面を見ているのだと思うとゾッとする。


「なるほど……もしかして、君の思い当たる節というのは長谷川教頭の事かい?」


「____!!」


思わず言葉が出てこなかった。これに、はいそうですと頷ける程の決定的証拠は掴んでいない。


「どうして分かったんですか……?」


「簡単な話さ。橋住先生は今、彼と言った。そして、秘書の机の上に難なく封筒を置ける人は限られてくるだろ?

だから、あいつかな、とね」


「あいつ……何か少し因縁が?」


その言い回しが少し気に掛かり、軽はずみにそう質問してしまったと思った。少しは考えて物を言えと何度自分に思った事だろう。


案の定、理事長は少し苦い顔をした。


「まぁ少しね。昔の話だし、今は急を要するからこの事を掘り下げないでおくれよ。それより、何で長谷川教頭だと思ったんだい?」


「そうですね。えっと……昨夜、彼が書庫に入って行くのを見たからです」


「後は?」


「女の勘です」


その言葉を聞いて理事長は一瞬間を開けた後、一気に破顔した。


「いいね!!私の秘書にしたい位だよ。校長、いつまでそんな顔してるんだい。仕事だよ」


「あ……は、はい!」


未だ隣で硬直している校長をど突いて、理事長は奥の椅子へと戻って行く。そこに校長と橋住が立ち並ぶ。


「まず、私と校長はこれから長谷川に直接尋問をかける。まあそれで止まるような奴では無いし、もう既に始まってるから意味のない事だが、確証を得るためだ。分かったかい?」


「……分かりました。我が後輩の為です」


ようやく事の重大さを理解し始めたのか、言葉に少し重みが出て来た。後輩という単語にまた橋住は聞きたい衝動が出たが、ここは一先ず我慢する。


「私は……」


「君にも仕事がある。とても大事な任務だから心して聞くといい」


緊張を爆発させるような言い回しに、ゴクリと固唾を呑みながら次の言葉を待つ。


「君には今から偵察に行ってもらう」


「偵察……ですか?」


「あぁ。確か卒業用のクエスト用紙には念のためGPS機能が付与されている筈だ。今すぐここを出て、そのクエスト用紙のGPSを解析し、星8クエストに出掛けている五人のチームの偵察に行ってもらいたい。

出来るかい?」


「____」


言葉が出ない。このまま二つ返事で返答して良いのだろうか。第一こんな事、秘書歴がまだまだ浅く、未熟な自分が行っても良いものかと自問自答する。


けれど、各地で新入生達が悪戦苦闘や、或いは死をも超えそうな勢いの恐怖を噛みしめているかと思うと、立ち止まらずには居られない。


それに、理事長の言葉は狡い。出来るかと聞かれて出来ませんなんて言う方がよっぽど出来ない。


「分かりました。私、橋住水鶏は命に代えても生徒を__」


「考え方を履き違えてはいけないよ橋住先生。絶対に生きて帰って来なさい。そして、生徒も無事安全に、怪我一つないなら尚良しってね」


先程みせた破顔する程の笑いでは無く、子供染みていて、どこか悪巧みを考えた時の少女のように溌剌とした笑顔だった。


「さぁて、これから忙しくなるよ」


彼女の不敵な笑みは、弾けて消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ