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配役の理お断り・旧  作者: ヤマト〆
12/17

配役論の心得①②

これは六月下旬、初夏が到来し、暑さが増す中で、一年生全学科が放課後体育館へと集められた。


内容は朝のホームルームでも少し話されたが、どうやら新入生クエストについてのお話らしい。


新入生クエストとは、その名の通り新入生の為に行われるクエストの事だ。話によれば、簡単なクエストをチームを作って攻略するようだ。


要は休みに入る前の実技テストである。


臆人は待ち望んでいた実践訓練に胸を高鳴らせていた。学科は苦手な方なので、こういう訓練で点数を稼いでおかなければならない。


多少浮ついた足取りで整列して待っていると、浮世校長の話が始まる。


「え〜皆さん、これより一週間後に開始される新入生クエストについての説明会を始めたいと思います。一応概要や注意事項を書き留めたプリントが配られてると思うので良く読んでおくように。

そして、公正公平に、清く正しく、ときには気高く美しく、この実践を糧にして進んで行っておくれ」


浮世校長は楽しげに笑うと、そこを引き継ぐようにして長谷川教頭が前に出た。真面目な雰囲気で、プリントを手に取りながら説明する態勢に入っていく。


臆人も先程配られたプリントの内容に目を通していく。新入生クエスト要項と大文字で真ん中収められた紙をめくると、色々な事柄が記載されている。


内容は以下の通りだ。


____________

1.概要


これは新入生がこれまでに行った基本的な部分を実践で示すための訓練である。

ここでは勇者1名、女英雄1名、脇役2名の計4名のパーティーを組み、悪役と宿敵を入れて計6名でのチーム戦とする。


2.採点方式


6名それぞれ最高を100点とし、計600点を満点とする。


クエストによって多少難易度が上下しているため、下記に記す点数を更に加点とする。


★1 +20点

★2 +40点

★3 +60点

★4 +80点

★5 +100点


採点基準は、パーティーの動き方、チームでのまとまり方、個々の在り方を審査員による厳正な審査の上採点される。


強制帰還した場合、メンバーのその時の持ち点を最終的点数とする。チーム全員か、パーティー全員が強制帰還された場合、点数は足した合計の半分とする。


3.禁止事項


・チーム同士での阻害行為やそれに準ずる行為。また、チームによる一撃での致死的ダメージ及び重傷。

・自前の武器、防具、小道具は全て不可とするが、学校から認可を得た物は良しとする。

・追尾カメラの破壊、または妨害行為。


_______________


これがこのプリントに記載された要項の数々である。それを手に取りながら、長谷川は説明を始める。


「まず、この実践は脇役から二名、他一名の計六名、四人一組VS一人ON1一人フォーマンセルバーサスワンオンワン)の形式を取ってもらいます。

これは言わなくても分かるでしょう。次に進みます。次は採点方式ですが、以下の通りになります。一応星6だと120、星7だと140、星8になると160点にもなります。まあ、このクエストカードには星6以上は有りませんけどね。あ、ここ笑う所ですけどね」


思わず体育館は凍り付いたが、長谷川の生々しい打ち震えたような薄笑いは止まらない。


「まあ、ここら辺は読んで貰えれば分かると思います。それより大事なのは禁止事項、そしてこの強制帰還シールなる物です」


そこで長谷川はスーツのポケットから正方形の透明な包みに入った一枚の布のような物を取り出した。


「これは強制帰還シールと呼ばれる特殊なシールです。これは皆さんの生を守る大事なものですのでよく耳を傾けて聞いてください。

この透明な包みを開けると、一枚の布のような物が出てきます。これは裏面がシールになっていますから、剥がして自分の好きな所に貼って下さい。一つ注意ですが、これを服の上に貼らないで下さい。必ず生身の身体、腕や足などに貼り付けておいて下さい。

これはダメージが蓄積されると警報のように赤い点滅が走ります。それ以上ダメージを喰らい続けるとシールが起動し、この体育館へと集められます。なので決して剥がさずに貼り付けておいて下さい。万が一でも大怪我をされては此方も困る所ですので、お願いします」


ふぅと息を吐く長谷川の顔は、いつの間にか真面目だった。これだけはお願いしたいと、ひしひしと思いが伝わってくるようだ。


でも、臆人は何か嫌な予感がしてならない事を、不思議に思っていた。それが何なのか分からない内に、それは思考の底に消えていった。


「それでは今回の説明は以上となります。皆さん、自分に出来る限りの事を尽くして臨んで下さい。私共々皆さんを応援していますので」


この言葉を最後に、長谷川教頭は奥に引っ込んで行った。続いて行われたクエストの流れや注意点の簡単な説明は、臆人の耳には入って来なかった。



***


こうして時は過ぎて新入生クエスト初日。集まったのは勇者科、女英雄科、脇役科のみである。


悪役科と宿敵科にはもう前日にクエストカードが渡され、外に出ているという。楓はギンギンと光る太陽を浴びつつ、テントへと赴いた。


「遅いですよ楓さん何してたんですか?」


「あぁいや……日向ぼっこかな……?」


愛未はテントの中でぷんすか怒っている。そこに勇者らしい威厳はない。それはそうだろう。何せ、愛未は治癒術師なのだから当然と言えば当然である。


「それより、あんたその格好でクエストやるの……?」


ジト目で楓は凶を見る。凶の格好はいわゆる女装である。配役論の授業の時のみ着用するので今初めて見たが、それが男だと分かっている人間が見ると悍ましいものがある。


「いやぁ、だって女英雄やんのに男の格好はマズイだろ……ですわ」


「まあ、精々そのウィッグが脱げないように気をつける事ね。見つかったらあんた変態決定よ?」


「ま、まぁ凶さんの言及はそこまでにして、皆さん集まった事ですしカードを貰いに行きましょう」


愛未がなぁなぁと制し、ごった返している列に並ぶ。


配られたのはクエストカードと呼ばれるA4位の大きさの紙を一枚と、強制帰還シール4枚である。


クエストの内容は、コボルト遺跡を探索し、コペンハイムの薬草をゲットしろという如何にも初心者向けのクエストである。


「薬草を採取して持って帰れば良いのかしら?簡単ね」


「確かにそうですわねおほほほほ」


「コペンハイムの薬草……」


「どうかしたのかい愛未さん?」


クエストの内容に訝しげながら小声で呟く愛未に、宍戸が声をかける。


「あ、いえ……どこかで聞いた事があるような名前だなぁと思いまして」


「ふーん。まあ、似たような薬草名なんて沢山あるし引っ掛かるのも無理ないよ。それよりさっさと準備に取り掛かろう」


「まあ、そうですね」


愛未は胸につかえた物を払い飛ばし、コクリと頷いて準備に取り掛かる。


準備と言っても持っていく荷物の確認や、クエスト進行の手順の再確認などの些細なことである。


それが終わる頃、マダムス教官から始まりの号令が掛かる。


12時00分、クエストスタートである。


クエスト期間は三日間用意されている。各々地図を見ながら場所を把握し、遠い者は用意された乗り物に乗ってどんどん移動が開始される。


「乗り遅れないように行こうぜ!あ、行くわよ!」


「あんた隠す気あんの?それより、地図で調べるとそのコボルト遺跡ってどれ位なのよ?」


「ちょっと待って下さい」


愛未はポケットから地図を取り出すと、コボルト遺跡の位置を探す。場所は、此処から南下する事約100キロ程進む。


「結構遠いわね。車借りて行くわよ」


「車ならテントの外に停めてあったよ?一応申請してかららしいけどね」


申請を手短に済ませて、車に乗り込む。真っ白い軽自動車は、陽の光を浴びて中を異様に暑くさせる。


因みに席取りは、愛未が運転席、凶が助手席。そして楓と宍戸が後部座席に乗車している。


「あっちぃな!クーラー付けてくれよ!ウィッグが蒸れる!」


「こん時位取れば良いじゃない」


「なるほど」


スポンと頭からウィッグを抜き取ると、バサっと黒髪が中から飛び出してくる。男へと戻る瞬間である。


「何だか奇妙な光景だね。見てて可哀想に思うよ」


「俺この勢いだと女装に目覚めそうだ!」


「無理矢理女装させられて女装という性癖を身に付ける……感慨深いね」


「どこがよ!!それよりさっさと出発よ!!」


「分かりました。では行きましょう」


愛未はキーをポケットから取り出して、鍵穴に差し込んで回す。ブゥンと刻み良いエンジン音が鳴り響き、車は準備万全と言わんばかりに体を震わせている。


「いざしゅっぱーつ!!」


「脇役の癖に……」


「何ですって!?元は女英雄よ!!」


そんなやり取りをしていると、車は走り出し、目的地へと向かって行く。迷路じみた住宅街を抜け、一時間程経つと一気に周りの視界が変わって行く。


「……平野しか無いじゃない!!」


「まあしょうがないさ。防壁の外は大体どこも荒れ果てて整備なんてされてないよ」


防壁とは、魔物と呼ばれる魔女が作った生命体が街に入ってこないようにする為の仕掛けである。人間に害はなく、また目に見える物でもないという不思議なものだ。


「魔物ねぇ……あれって実在するの?一応座学で習ってるけど、一回も見た事無いわよ」


「僕も無いね。あれは、神話上の生ける伝説とも言われてる生物だからね。なのに防壁が作られているのは不思議で仕方ないよ」


楓と宍戸が話していると、ふと凶が後ろを向いた。


「ふーん。俺はそれっぽいやつ本で見た事あるぞ?ほら、火の玉とか首がめちゃめちゃ長い人間とか」


「あ、あんたね……それは妖怪よ!魔物とはまた別口なの!」


楓が溜め息混じりに否定すると、宍戸はそれに反応する。


「でもね、本当は妖怪も魔物の一種なんじゃないかってのも噂にはあるんだ。まあ、噂の範疇だけどね」


「あ、そうなの?でも私には魔物って神秘的で、妖怪とかお化けって恐怖的なイメージがあるのよね」


「それは認識の問題だよ。魔物はこの世界に実在しているものが語り継がれているもので、妖怪やお化けはまずそもそもいるのかいないのか分からないって話だからね。

分からない、っていうのが一番怖いものだよ」


「そういうものかしらね」


こうして他愛もない話は続き、凶はわざわざ胸にパットを付けているとか、宍戸のカールした髪型はわざわざ朝作っているとか、楓は臆人の事をどう思っているのかとか、話は尽きないばかりだ。


このまま何事も無く走り続けられそうだと、四人が無意識にそう思い、だらけきっている時だった。


ドガーーーン!!!!ボカーーーン!!!ドゴォーーーーン!!!


と、途轍もない爆発が三つ、車の目の前で突然起きる。三人は目を丸くしながら、愛未は一気に右にハンドルを切り車体を横に傾ける。


車はキィィと音と砂煙を立てながらその手前で横付けに止まった。


「な、何なのよ一体!?空襲でも起きたの!?」


「わ、分かりません!取り敢えず皆さん一旦車から出て下さい!!」


四人は慌てて車から降りて、爆発地点を目視する。そこは黒煙で覆われていて先が全く見えない。


その時だった。


「フハハハハ!!我こそは貴様等を阻む悪者__悪人(あくと)である!!」


下半分を黒い画面で覆い、黒装束を羽織った臆人ならぬ悪人は、黒煙の中から突如として格好良く登場した。


「名前もダサいし格好もダサい」


「____」


楓のキツい一言を浴びせられて何を言うかと思えば、特に悪人は何も言う事は無かった。


実際は何か言ってるかもしれないが、口元は仮面で覆われているので分からない。


「あんた何しに来たのよ」


「コボルト遺跡で私は君達を待とう。そこで決戦の時だ!!貴様等が無事に着く事を祈ってるよ!!フハハハハ!!」


「な、何よ偉そうに!!ここで戦えば良いじゃない!!」


「舞台はここじゃない。やはりボスは最後の砦で待つべきだろう?では、さらばだ!!」


悪人はそう言うとバサッとマントを翻した。


そしてその瞬間__消えた。


「うお!!あいつ消えたぞ!!」


凶があちこち見渡すが、人影は全くない。見えるのは爆発で生じた三つの窪みだけだ。


「一瞬で転移したんですかね…?だとしたら凄い魔力量ですよ。詠唱破棄で転移なんてしたら一発で魔力負荷かかっちゃいますよ」


魔力負荷とは、一定以上魔力を出し続ける、或いは一気に魔力を使い果たすと、体に負荷が掛かり体が全く動かなくなる事を意味する。


愛未は不思議そうに首を傾げる。


「いや、多分臆人はそんな事しないわ。きっと仕掛けがあるのよ。ま、そんなことはどうでもいいわ。早く追いかけましょう」


「早く愛しの臆人に会いたいからか?」


「ち、違うわよ!!早くこのクエストを終わらせたいだけよ!!」


顔を赤らめて、後部座席に乗り込む。バタンと、扉が勢いよく閉まる。


「凶君はSなのかMなのか分からないね」


「んー気分で決まる!!」


「そういう物じゃ無いと思うけどね。それより早く乗ろうか。レディーを待たせるのは悪いからね」


「レディーって誰だ?ガガ?」


「僕が馬鹿だった。何でも無いよ」


こうして四人はもう一度車を走らせた。地図を確認すると、どうやらこの先森にぶつかるらしい。


そこからは歩きで遺跡に向かうことになる。幸い、半分以上は走ったのでクエスト期間である三日間は守れそうだ。




「森はこの先ですけど……凶さん見えますか?」


「むむぅ〜あ〜見えるね〜緑の地平線がばっちし」


「そうですか。では近くになったら車から降りて歩きましょう」


凶の言い草に、慣れたように普通に返す愛未に少し肩透かしを喰らいながら、凶は渋々頷いた。


程なくして、車は森の手前まで来た。そこからは車から降りて四人は森の中へと入って行く。


その時、ふと宍戸が足を止めた。


「どうかしましたか宍戸さん?」


「いや……ちょっと少し気になる事が出来た。僕は少し先に行くよ」


「行くってどうやって……!」


楓がそう続ける前に、宍戸は見上げる程高い木の枝に飛び乗ると、忍者のように枝々に飛び移りどんどんと先に進んで行く。


ポカンと口を開けたままの三人は、それぞれ顔を見合わせて硬直する。


「まるでターザン……」


「まるで猿……」


「まるで忍者だ……」


口々に違う感想と固有名詞を言って、取り敢えず三人は歩くのを再開した。宍戸はもう見えない。


鬱蒼と茂った森は、木の根や雑草が這っていてとても歩きにくく進みにくい。三人はハァハァ言いながらもズカズカと前進していく。


少しずつ少しずつ日が傾いているのを空を見ながら確認しつつ一つ一つ踏み締めて行き、ある事に気づき始める。


「ねぇ?何かさっきから私達同じ道進んでない?全然景色変わらないんだけど……」


「確かにそうですね。けれど、森ってこういうものじゃないでしょうか?入った事ない私が言うのもあれですけど……」


不安はあるが、森とはこういうものではないかという思考も存在している。何せ、森とは初めて入る異界の場所だ。不安はあって当然である。


「ん〜でもこれは変わらなさ過ぎな気がするなぁ」


凶は顎を撫でながら唸り始めて、そこから何か閃いたようにいきなり木に何かを刻んでいく。


そこにはX印が掘られていて、そこで二人は何がしたいのか気づく。要は目印代わりだ。


「以外と機転が回るのね。馬鹿なのに」


「意外です」


「意外と俺頭は良いんだよ。天才的な才能って奴さ」


「あっそう」


凶が目つきをキラリとさせると、興味なさそうに楓は返事を返す。ガーンと、凶の肩が下がる。


「もう少し興味を持ってくれても……」


「変態に興味を持つ事は一生無いわよ」


「じゃあ臆人は?」


「そりゃあ……って何言わせようとしてんのよ!!」


凶の臆人に対するおちょくりは、楓は異様に反応していることを、言うべきか否か迷う愛未であった。


「取り敢えず目印は付いた事ですし先に進みましょう」


こうして三人は道なき道をひたすらに歩き始めた。徐々に日は西の方に沈み始め、空が茜色に染まり始める。



三人は疲労を押し退けて歩いていると、そこには見たくも無い光景が映し出されていた。


「これって……目印……よね?」


それは先程凶がXを掘った木が立ち尽くしていた。間違いようのない事態に三人は硬直する。


「もしかするとこれは……罠かもしれません」


「「罠?」」


「はい。これはきっと私達を疲れさせて__」


その時、ザザッと木の茂みが揺れた。


「そのとーり!!良く気付いたな愛未殿!」


「殿…?」


ガハハハと、笑いながら木の上に立っていたのは拓郎だった。無骨な銀色のガントレットを腕に嵌め込み、ガシャガシャと両手で打ち付けて笑う。


「てめぇの仕業か拓郎!!こんな薄暗い森全体に幻覚でも張ったのかよ!!」


「んーその問いに対して二つ訂正しようか殺伐凶。俺はこの森なんかに幻覚はかけてねーさ」


凶が今すぐにでも飛びつきそうな目付きを拓郎に向けるが、張本人は竦んだ様子も見せず不敵に笑みを溢す。


「まず一つ、俺は拓郎じゃねぇよ。ダーク=ロウ__これが俺の名さ」


「う、おぉうかっけぇなぁ……ってそういうの要らねぇから早く降りてこいや!!」


凶はホルダーに閉まってあった二丁の拳銃を取り出すと、拓郎__もといダーク=ロウに向けて発砲した。


凶が選んだ武器は二対の黒いオーソドックスな拳銃だ。魔力を込めると、内部にエネルギーが濃縮され、それをトリガーを引く事で発射するタイプのものだ。


ダーク=ロウに放たれた二つの魔弾は、高速に回転しながら一直線に弾け飛ぶ。だが、それは難なくダーク=ロウのガントレットに弾き返されてしまう。


「ふん!こんなしょぼい威力でどうやって俺を倒そうと……!」


「はあぁ!!」


ダーク=ロウが魔弾に視線が向かっている事を利用してか、楓が下から木を駆け上り、一気にダーク=ロウの眼前に飛び込んできた。


楓は鞘から抜いていた銀色のオーソドックスな剣を、ダーク=ロウに向かって勢いよく左斜め下から掬うように斬りあげる。


「くうぅ!!」


片手のガントレットを盾にしてその攻撃を受け止めるも、両手を使って目一杯力を入れてくる楓にダーク=ロウは少しずつ押されていく。


「このくそがぁ!!つーかまだもう一つ間違いを正してねぇんだから大人しくしてろぉ!!」


「くぅ……きゃ!!」


ダーク=ロウは余った片腕で楓の剣の腹の部分を上から叩くと、楓は一気に押し返され、重力に従い下に落ちていく。


「タダでやられるもんですか!!」


「うぐぉ!?」


楓は落ちながらも剣を横に振り、ダーク=ロウが立っている木の幹を勢いよく切断する。切れた安心感と同時に激しく背中を地面に打ち付け、苦痛の悲鳴を漏らす。


そこにすかさず愛未が駆け寄り治癒魔法を掛ける。


そして凶は違う木に飛び移ろうとしているダーク=ロウに狙いを定めて神経を集中させる。


「なんだよ連携プレーなんて一丁前な事やりやがって!けど、これでどうよ?」


ダーク=ロウは、横に倒れていく木の陰に隠れて凶の

銃撃を防ごうとする__が、ドンドン!と木の事を一切無視して凶は乱射した。


だが、ダーク=ロウの狙い通り、凶の銃撃は全て木の幹が受け止めてしまう。


「アホだなあいつ……うぉう!?」


だが、乱射された魔弾の一つが木の幹を貫通し、ダーク=ロウの左肩に撃ち抜く。弾の勢いに押されてダーク=ロウは体勢を崩し、一直線に地面に落下する。


もくもくと土煙を立てて、三人は構えながら様子を伺う。


数秒後、いってぇと文句を言いながらゆっくりと立ち上がるダーク=ロウの影が土煙から見えた。


刹那__雄叫びと共にダーク=ロウが動く。


「うらぁぁぁ!!」


ダーク=ロウは、持ち前のタフさを生かして喰らった攻撃を物ともせずに一気に三人に駆け寄った。


それに気付き立ちはだかったのは楓だ。凶は舌打ちしながら後ろに退いている。後方支援を狙うようで、一方愛未は動けず固まっている。


楓は迫って来たダーク=ロウのふりかぶりの殴打を、剣で止めるべく、右手を柄に、左手を剣の腹に手を当てて腰を低くする。


ダーク=ロウはその防御体勢に対して特に手立てを打つ事もなくやぶからにガントレットに身を包んだ拳を叩きつけた。


ガキンと鋭い金属音が鳴り響いたと同時に体が浮いたのは、楓だった。一瞬二人の間に膠着はあったが、直ぐに押し返され楓は転がるように地面を滑る。


「てんめぇこの野郎!!楓ちゃんに怪我を負わせんな!!」


「知った事じゃねぇ」


ペット吐き捨てるようにダーク=ロウは言い、そのまま凶に向かって駆ける。それを見て、凶は罵倒したくなる気持ちを抑えて、チラリと愛未を見た。


愛未は今、治癒魔法を楓にかけていた。それならそれで凶は良かった。けれど愛未は治癒魔法を掛けながらじっと此方を見つめていた。


何か言いたそうな、それでいて少し後ろめたさも残しつつ、懸命に此方を見ている愛未は、愛らしくもあり少し勇者のようにも見えた。


「少し舞台を用意してやんよ」


「あぁ?」


パンパンパンと、三つの魔弾がダーク=ロウに迫るが、動きは単純なのでダーク=ロウはすかさず避ける。


「一体どうしたってんだよ?あんな攻撃じゃ……」


突然、パンパンパーン!!と頭上で花火が上がったような音がして__否、それは花火そのものだった。


夕空に花火が三つ打ち上がり、ダーク=ロウは唖然として空を見上げている。それの意図に気付いたのは、愛未だ。


「お前一体何を考えて……!!」


遊んでる場合か、と文句を入れようとした所で、ゾワリと何か不吉な予感をダーク=ロウは感じた。


「ご覧下さい。花火は舞い上がり、火の粉は空に満ちて、地上に降り注ぐ。名前は、そう!!【花火流星群】!!」


空に打ち上げられた火花は、その力を衰える事なくダーク=ロウを中心に地上に落下する。


「うおぁぁ!?!?」


「正に芸術」


ドガガガ!!と降りかかる火の粉を見てポツリと凶は呟きながら、成り行きを見守った。


間も無くして、土煙と一緒に出て来たのは、体の至る所に少し焦げ目が付いたダーク=ロウの姿だった。まだ、シールは赤く明滅していない。


「げ……!まだ点滅してねぇのかよその何たらかんたらシール!お前タフ過ぎだろ!!」


「それだけが取り柄なんだよクソッタレ。後、これ強制帰還シールだからなちゃんと覚えとけ……って説明させるな!!よし、取り敢えず凶、お前はここで潰す」


「お、おぉ切り替え早えな。ま、でも俺もう全魔力空に打ち上げちゃったし、出来ることは何もねぇよ」


あっけらかんと言う凶に対して、潔しとばかりに笑うダーク=ロウ。彼には見えてない、後ろから迫る危機をも知らずに。


「さあ、お前は脱落しろ!!」


バッと狂気じみた笑みを浮かべて、ダーク=ロウが凶に飛びかかろうとした刹那__


「【雷槍】!!」


突然、雷で出来た槍がダーク=ロウの体を見事に撃ち抜き、ダーク=ロウの意識を一気に刈り取った。


「……うぐぉおお!!!」


だが、それでも両足に踏ん張りを効かせて立ち止まり、後ろを見やる。


そこには、小さくてか弱そうな勇者が瞳を真っ直ぐ此方に向けて立っていた。寂しそうな苦しそうな表情を

見せながらも、目尻に涙を溜めつつも、彼女の瞳は実直そのものだ。


「へっ……良い顔するじゃねぇか。勇者らしくて好きだぜ俺は」


激痛に顔を歪ませながらも、彼は無理矢理に笑う。腹を撫り、そこに違和感を感じたダーク=ロウは、愛未がした事に気付き、目尻が上がる。


「情け掛けられちまったなぁ……けどな、愛未。それはいずれ後悔というものに変わるかもしれないぜ。覚えとけよ」


ダーク=ロウは、踏ん張っていた足を縮ませ、一気に跳躍した。木の枝を手で掴むと、その勢いで他の枝に飛び移る。


それをどんどん繰り返して、ダーク=ロウは視界の先から姿を消した。


「ふはぁ……」


「お、おいおい大丈夫かよ愛未ちゃん!?」


愛未の腰が砕けて地に落ちそうになった所をしっかりとお姫様抱っこをするように凶が支える。


「す、すいません……気が緩んだらつい……」


「おい大丈夫かい!?」


少し懐かしいような声がしてふと二人が顔を上げると、そこには宍戸が立っていた。息を切らした所を見ると走って来たようだ。


「さっき魔力の塊が弾けたのを感じてもしやと思ったけど、怪我は二人共無いのかい?」


「あぁ。それより、お前は何やってたんだよ今まで?」


「幻術を解いていたのさ。この森に用意されていた装置を破壊したからね。もう大丈夫だと思うよ」


「なるほど。その装置の所為で俺達は迷子になってたのか」


その解答に、宍戸はゆっくりと首を振った。


「あれが罠の一種だとしても、この森全体にかけて、尚且つ見られてもないのに対象を絞って発動させるのには無理がある。

要はあれはきっかけに過ぎないんだ。もっと他に発端となったものがあるはずなんだ」


「……もしかすると、あの爆発かもな」


「僕もそれが一番有効な手だと思ってる。けど、そうなると……」


「あぁ。あの二人組んでやがる」












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