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Alphard






 ──もはや廃墟しか存在しない、廃れし世界。


 貴方は果世…果てた世界…そう呼んでいましたね。





 …廃墟となり、砂漠となり砂に半ば覆われたかつての人間の大帝国。

 離陸に失敗して爆発した巨大宇宙避難艦の残骸と、そこに転がる人の変わり果てた亡骸。

 …そして人とは似て非なる姿の"新人類"と呼ばれる生物。




 彼らは基本的に僕たちと敵対はしなかったですし、単純なプログラムによって動く同族もその殆どが守備範囲(テリトリー)に入らなければ攻撃してこないですから…彼らと僕らは不干渉状態になってました。







 …まあ僕のようにきちんと自我を持って行動する個体も居るんですがね。





 『…まったく、貴方の所為ですよ…マスター? 』





 僕は空を見る。



 …今から500000日も前に貴方が空へと旅立ってから、僕はずっと待っているんですよ?







 貴方に直してもらったレールガンの砲身も壊れてしまいました。


 もう前左脚のパーツが壊れて上手く動かせん。


 貴方に貰った声を出すためのものも、もう大分雑音だらけになってしまいました。


 …動力炉もきっともう、永くはありません。





 ──それに、最後まで守ってきた頭脳部も…もう、おかしいのかもしれません。

 時折フリーズします、それが段々多くなって…僕の昔の事を記憶するメモリも、少しずつ消えていっています。



 ──でも、まだ貴方の事を覚えています。





 "必ずお前を迎えに来る、だから…待っていてくれ

 必ず来るから "




 そう言って空へと旅立った光景を、今でも鮮明に記録しています。



 10年…人類が放棄したこの惑星で一緒に過ごしましたね。

 人類と戦争をしていた新人類達と、貴方は仲良くなっていました。


 そうして僕に得意げに言いましたね。


 「やっぱり武器はダメだ…こうしてちゃんと話さないとな 」





 僕は…あくまでマシンです。

 戦争の為に造られ…けれども一度も使われる事はなくこうしてかつて自分達が汚し尽くし、破壊した惑星と共に…棄てられた、意味の存在しないマシン。



 けど…唯一この惑星に残った貴方は、僕に感情をくれました、声をくれました、そして名前を…くれましたよね。




 ──今でも貴方の事、一度も忘れては居ないんですよ?

 …でも、マスターに仕えるロボットとしては失格だと思いますけど…もう、貴方の顔、思い出せないんですよ。



 貴方の声も、姿も、その手の大きさも、何もかも覚えているのに…貴方の顔を、思い出せないんです。

 それが悲しくて、辛くて。



 日に日に何もかも忘れてしまうのが悲しくて。




 でも…僕は、貴方と交わした約束のおかげで、ずっとここに居たんですよ?







 ──あれ?







 貴方の声って…どんな感じでしたっけ。






 ああ…また、思い出せない。

 貴方が居なくなるのが分かる。僕の中からですら貴方が居なくなってしまう。






 …いっそ、他の…僕には感情も何もなかった方が良かったのかもしれない。

 そうすればあの機械達と同じ様に壊れるまで同じ事を何も考えず、繰り返せばいいだけだから。












 【警告・動力炉が停止しました、非常電源に切り替わります 】





 頭に響く無機質な、プログラムされた言葉。



 マスターがいたなら、きっと治してくれた…けど、マスターはもう居ない。


 それに僕の機構はもう壊れてるから…後10分、非常電源が切れたらきっと…僕は2度とプログラムの復旧は出来ないだろう。







 【非常電源停止まで 8分 】








 もうこれで最期、やっと僕は解放されるんだ…貴方を待ち続ける、ひとりぼっちの日々から。





 今までのメモリを呼び起こす。


 もう殆どのメモリが"破損"してしまったけど…その殆どの記憶がマスターだ。



 初めて出逢ったあの日から、ずっと…ずっと、何度も呼び起こして…寂しさ、という感情を紛らわして…もう殆どが壊れてしまった。





 僕は"モノ"だから、生きてはいないから。


 だからきっと、迎えには来れなかったんですよね。




 けど…僕の我儘が叶うのなら。


 約束通り迎えに来て欲しいなんて言わない、ただせめて…最期に、最期に…貴方をこの僕のメモリに焼き付けたい。




 【非常電源停止まで 1分 】






 絶対に──叶わないだろうけど。



 僕は俯いた。



 ──これでおわり、だから最期は何も考えない。

















 「…どうした?

 何不貞腐れてんだよ 」








 『…え? 』






 頭を上げる。

 その声は──もしかして…?







 「どうした…固まって、俺の事忘れたのか? 」










 『あ…マス…ター…ァ 』






 …何時、そこにら現れたのかは分からない。

 だけど僕のヘッドパーツを撫でるその手は…その声は、その顔は。


 すべて思い出した。




 ──マスターだ。






 『マ…ダァ 』





 声を上手く出せない。

 何も考えられなくなる。


 嫌だ。




 やっとマスターに逢えたのに、マスターに逢えたのに…嫌だ、嫌だ、嫌だ。








 ──消えたくない、マスターの側に居たい。









 「…大丈夫だ、アム 」







 ──彼は、僕の名を呼んだ。

 貴方がくれたもの、僕がただの機械から貴方のものになった証明。






 「もう苦しまなくていい、一緒のところに行こう

 …大丈夫、お前をもう一人にしない

 だから安心して眠れ…な? 」





 『ハ…ィ… 』





 マスターは僕を抱き抱える。


 ああ、マスター…やっと、迎えに来てくれたんですね…。







 僕はもう…貴方とずっと一緒に………、……………。



















 【電源供給完全停止・システム停止】




















 【再起動手段・無し】





























…………………………………………………




 ──小型宇宙船内。




 「…今回の収穫はそんな無かったな… 」




 そんな溜息を吐きつつ防護服を脱ぎながら初老の人間は言う。

 脱ぎ捨てられた防護服のそばには──かつて人間が生きていた住んでいた惑星の、遺物。



 錆びた鉄パイプや何に使うのか分からないほどに風化したなにかに…ロボットの残骸まで存在している。





 「まぁ…そんな高くは売れないかも知れないかもですけどね…でも、ありがとうございました、連れてきて下さって 」




 「ま…カネは貰ってるからな

 まあいいさ…にしても探し物、そんなスクラップなのか? 」




 そう青年に尋ねる初老の男に、壊れて動かない獣型軍用ロボットを撫でつつ彼は答える。




 「ええ、この子です…これは、僕のひいおじいちゃんとの約束なので、ね 」




 「ふぅん…義理深いねぇ 」





 ──"AF-fmw03"


 そんな文字が刻まれたプレートは削られ、消えかけている。


 その代わりに、そのロボットの名前であろう──"AMU"…アム、そんな言葉が刻まれていた。







Fin

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