稀によくある不思議な話
人は一度信じられない経験をすると、それまでなら信じないようなものごとも信じるようになったりする。
【身近な超常現象何でも解決!!無料でご相談受け付けます!!】
話のネタにさえなるかどうか微妙な、そんな胡散臭いチラシを片手に僕はそこに示された住所へ向かう。どんよりとした空模様もあいまって気分がどんどん重くなる。僕は何をやってるんだ。こんなチラシをあてにするだなんて。いやでも超常現象は確かに経験したわけで。行ってみるだけタダだし。そんな意味の無さを詰め込んだような葛藤は結論を得ず結果を得る。さあ書かれた場所についてしまった。感想に困る平凡なビル。一階は不動産屋だろうか。ここの二階に僕の迷い込む事務所がある。ああもう気が重い。あんな変なチラシを作るなら事務所も建物ももっと雰囲気が欲しいよな、まったく。そんな風に思いながら僕はビルの階段を上る。そこには事務所と書かれた札がかけられただけの扉がひとつある。ここであってるんだろうかとも思いながら戸をたたく。返事がない。インターホンぐらい用意しろ。気後れする気持ちと若干のむしゃくしゃでドアノブをまわす。入ってみるとこれまた平凡。事務用みたいなデスクが端に2つあり、応接用の机とそれを挟むかたちで置かれたソファー。あとは棚があるぐらい。シンプルかつ平凡だ。応接用のソファーで男がいびきをかいて寝ている以外は。
「いやあ、すみません。普段あまり人が来ないものでして、つい居眠りを」
応接用のソファーにお互いに座り、男は適当な愛想笑いを浮かべながらそう言った。正対する形になり男をみる。年齢は20代後半だろうか。濃い緑のシャツに黒のスラックス。社会人にしてはラフな格好。
「はぁ……」
僕が返事に困り適当に相槌をうつと、男が再び口を開く。
「申し遅れました。私はこの事務所で所長をやっております茂木と申します。それで今回はどのようなご用件で?」
この短い間での僕の感想は、やっぱりあんなチラシを信じてこんな事務所に来るんじゃなかった、だ。この茂木とかいう男はなんだか常にへらへらしていて適当そうなのだ。この事務所はきっと霊感商法みたいなことするところなんだろう。時間の無駄だし高い壺でも買わされたらたまったもんじゃない。そう思いもしたが、相談は無料なんだしひとまず話はしてみることにした。自分でもそう決断したことに驚いた。心のどこかで、誰にも言えないような、言っても信じてもらえないようなこの体験を誰かに聞いてほしかったのかなとぼんやり考えながら僕は語りだした。
僕は高校二年生だ。問題の始まりは二年生になってすぐの4月の下旬。僕は資料室の掃除の当番になった。大きな世界地図などが置いてある、普通の教室の半分もない位の部屋で、僕は藤田というクラスメイトと掃除当番になったのだ。5月半ば、放課後になり、藤田と黙々と掃除をする。僕たちの間に会話はない。真面目に掃除をしているからとか、僕たちの仲が悪いとかそんなことじゃない。なんていうかその、藤田はいじめられていた。なんだろう、藤田が何かいじめられるようなことしたとかじゃなくて、気弱な藤田が最初はちょっとしたことでいじられて、だんだんエスカレートして、気付けば一ヵ月でそのいじりはいじめと変わらないものになっていた。五月に入ったあたりから藤田はほとんど喋らなくなっていた。
「ゴミ捨ててくる。」
返事はない。僕は集めたゴミをゴミ箱に入れてゴミ捨て場に行った。最上階の六階の資料室から一番下のゴミ捨て場までの往復は無駄にハードだ。この作業を毎回やるのは藤田へのいじめを見て見ぬふりをする僕なりの謝罪なのかな、なんて考えて、なんだか自分だけ許されようとしてるみたいで嫌になった。ゴミ捨て場から戻って資料室の扉を開けると藤田が窓の縁に登って立っていた。僕に気づき藤田が振り向く。目が合う。無表情だった。声をかける前に彼はそのまま外に踏み出した。
「なるほど、自殺を目撃してしまったのですか。それはさぞかしショックだったでしょう。」
ほんとに思っているのかどうかわからないようなテンションで茂木は言う。しかしショックだったで終わる話ならこんなわけのわからない場所に来てはいないのだ。それは茂木もわかっているようで言葉を続けてきた。
「その自殺を見た日から何かあったのでしょうか」
自殺を見た僕は警察の人と先生に話を聞かれ、双方からカウンセラーを紹介された。その日はそれだけで家に帰った。親はとても心配してくれたけど、僕は思ったより落ち着いていた。別にメンタルが強いとか冷酷だからとかじゃなく、ただただ現実味がなかった。そんなわけで僕は次の日からも普通に学校に通い続けた。最初はみんな、興味を不謹慎さで押し込めたような、なんだか気持ちの悪い距離感が続いたけれど、一週間もしたころには友達もクラスメイトも元の距離感に戻っていた。しかしみんなとの距離感が戻ったあたりからに、僕の周りで、また僕自身に異変が起こり始めた。放課後になり、帰宅しようとしたときに、ふと教室を振り返ると教室の窓の外で落ちていく人を見た。いや正しくは見たような気がした。思わず声を上げ、窓に駆け寄り、下を確認してもなにもない。周りからどうしたどうしたと声をかけられるの適当に流しながら僕は下校した。この日から僕は度々窓の外で落下していく人をみる。毎回目が合う。どれも藤田のような気がするし、違う気もする。しかも僕しか目撃していない。 そんなことが続くのだ。ただこれだけなら自殺を見たショックで何かおかしなもの見ているのかなと無理やり自分を納得させることもできたかもしれない。けれど日数が経つにつれ、落ちていく人を見るだけでは無くなっていった。まず様々な自殺の現場みるようになった。教室で首を吊る女子、カッターで手首を切る男子。こんな感じの様々な自殺の瞬間を見るようになった。しかしあっ、と声を出したころには誰もいなくなっている。さらに、これが僕がこの事務所に来ようと踏み切れたきっかけなのだが、