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 リプエ神が立ち上がる。


 ぅわ。……おっきい……。


 下から見上げる戦神のその体躯の大きさに、今さらながらに圧倒される。

 目の前に、無骨な手が差し出された。

 手を伸ばそうとして、躊躇する。


 とーとつに着せ替えタイムの、あのときの女神様達の会話を、思い出してしまった。

 大祭用に用意する衣装は全部で八着。そのうちのいくつかを試着した僕を囲んで、全身のバランスを見ながらの調整やら、さらにその上からとりどりの布や飾りをあてがったりしながらと……。

 それらを手際よくすすめながら、女神様達がさらりと交わしていた、あのとんでもないセリフの数々……。



 ……う。

 なにを意識してるんだ? オカシイでしょ?

 僕、そもそもフツーに女じゃないんだし。


 それでも緊張して手を伸ばすと、リプエ神のほうから僕の手を掴んで引き起こしてくれた。

 っていうか。リプエ神、力強すぎ!


 勢い余ってリプエ神の体に倒れこむ。

 慌てた僕とは対照的に、リプエ神は余裕で僕の体を抱きとめてくれた。

 リプエ神の逞しい胸と腰に回された腕に、ドキドキする。


 だから! 女神様達の話は関係ないって。

 僕、女じゃないっ、……。


 ……。


 女じゃ、…………なくはない……。




「まだフラフラしてるな。歩けるか?」

 

 僕の不意をついて頭上から降ってきた、耳朶に重く響いてくる低音。

 なんの気構えもなくくらった僕は、それこそ腰が砕けそうになるくらいびくついてしまった。

 崩れ落ちる前に、僕の体がひょいと抱きかかえられる。


 …………。


 僕、自分で言うのもなんだけど、男神様に対して免疫がない。

 クリエ様はとても親切に僕に接してくださるけど、でもそれはクリエ様がお医者様だからだと思ってた。


 ――もしかして? 男神様って、弱者を前にすると、みんなこんな風なのかな?

 だとしたら……。


 何度もこんなことされたからって、ヘンに意識してしまってるほうがヘン、なんだよね…………?


 ――って。


 ………………え?



 なぜだか、ふれてはいけないモノにうっかりふれてしまったような、妙にざわついた気分がする。


 意識している自分が変なんじゃないかって気がしてきたから、ふつーにしようとして普通を意識して、僕めちゃめちゃアガッてる。落ち着かなくてすぐにでもおろしてもらいたいのに、でもそれって僕が意識してるからであって、ふつーだったらそんなコト思わない? 「おろして」ってお願いするほうが、ヘン?


 …………。

 すっかりこんがらかっている間に、横抱きにされた僕の体がリプエ神に運ばれていく。

 林を抜け、ぐにゃりという例の不可思議な感覚のあとに。

 僕達が最初に出会った林道に出ていた。



 リプエ神の結界の外に出て、漂ってきた強い匂い。

 これ。ティリア様から頂いた……。


 リプエ神も気付いたみたいで、足が止まった。

 リプエ神の腕に手をおいて匂いのしてくる方へと身を乗り出す。

 そしたら、ぐいと体を抱き戻された。

 ちょっと強引な扱いに僕が驚いて振り仰ぐと、リプエ神の榛色の瞳が、僕の顔をのぞきこんでくる。


 ――!!

 わ。近い!


「おろすぞ」


 彼の瞳にすっかり意識を持っていかれていた僕の耳に、それは届いていなかった。

 突然、僕の下半身が下がる。支えを失ったように錯覚した僕は。

 泡を食ってリプエ神の首にしがみついていた。



 頬を撫でるくすぐったい感触に、そっとつむっていた瞼をあげる。

 鮮やかな鳶色の、……髪の毛?

 ……。

 力いっぱい首にぶらさがった僕のせいで、前のめりになったリプエ神の顔が僕の顔のすぐ真横にある。

 おそるおそるめぐらせた僕の視線が、リプエ神の視線とぶつかった。


 ……!!

 心臓が、止まった。

 呼吸を忘れた僕の体から、へなへなと力が抜け落ちていく。


「ミシュア?」 

 

 リプエ神の声に我に返ったときには、僕の体はがっちりとリプエ神に抱きすくめられていた。


「気分が悪いんならちゃんとそう言え」


 すぐ耳元で聞こえる超低音の不機嫌な声に、僕は震え上がった。

 けれど僕の体はぴくりとも動いていない。

 頭と腰をしっかりホールドされていては、身動きがとれない。

 おまけに。

 弓なりに体がそったこの体勢に、僕は息苦しくなってきていた。

 呼吸をさせろと、血液が頭に集まってくる。

 苦しい、熱い! もう限界だ。

 

 これ以上耐えきれず力いっぱいもがいてみたら、わずかに頭を押さえるリプエ神の手がゆるんだ。

 顔を出して息を吐きだす。


「はぁぁっ」


 僕の息がリプエ神の首に当たって、僕の顔に跳ね返ってきた。

 自分で自分の息の熱さにびっくりして、思わず目を閉じたとたん。

 僕の体は、解放された。





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