錬金術書を読み説きます
さて、錬金術師になったのには理由があります。
それは、姉を見返してやるためなのです。
優秀な私よりも残念ながら姉は優秀で、魔法がとても得意です。
少し前までは冒険者をしていたそうで、ドラゴンも死んだふりをする程恐れられた魔術師だったようです。
その腕を買われて、現在は王都魔法大学の教授をしているそうです。
そんな姉を持ってしまうと、妹は大変です。
いつでもどこでも何をしてても比べられてしまい、真に遺憾であります。
そこで、錬金術師の最後の課題と呼ばれる『賢者の石』を作って見返してやろうという目論見です。
ですが、ここで一つだけ問題があります。
私は自分でいうのもなんですが、頭はいい方だと思っています。
しかし、錬金ライセンス取得のための実技に何度も落ちてしまいました。
原因はわかっています。あれは、魔力ポーションを作る試験でした。
青いマナソーンという草を煮詰める手順で、青紫色のポイゾナソーンを煮詰めてしまったことです。
この二つは両方とも棘があり、形が似ているため、色で見分けるのです。
しかし、青と青紫……ほんの少しの色差しかないんですよ?
ほんの少し薄いってだけなのでわかりません!
えぇ、私には識別眼というのが備わっていないのかもしれません。
え? その時の試験ですか?
試験官3名、受験者私含め20名が医療室送りになりました。
思い出すのもはばかられる話です……。
しかし、失敗は成功の基とよく言うではありませんか。
気を取り直して、錬金ライセンスを得た私は机に向かいます。
錬金ライセンスと一緒に頂いた書籍を読もうと思います。
『錬金術中級学書』
中に書いてある物は、主に材料やその分量。
出来上がった物の効能などが事細かに記してあります。
昔の人達には頭が上がりません。
一つ一つ材料を鍋に入れては、あーでもないこーでもないと虱潰しに作っていったのでしょう。
例えばこれなんか恐ろしいです。
『フレア』
材料:ヨドミクサ 150g
魔物の糞尿 50g
黄色鉱の粉末 20g
木炭 30g
ヨドミクサと魔物のフンや尿などと混ぜて放置します。
数日経ったら、それらを水でろ過します。
そこから水分を飛ばすと白い物体ができます。
それと、ちょっと臭い黄色鉱の粉末と木炭の粉を混ぜます。
この時の注意点は、乾季にやらないことと、少し材料に水っ気を持たせること。
でないと、混ぜた瞬間に爆発するそうです。
……つまり、爆発を経験した方がいたということでしょう。
どうやらこのフレアという物は、物理爆発を起こす物だそうです。
炭鉱の岩盤を壊したり、魔法耐性のある魔物を倒すために使うには便利そうですね。
しかし、こんなリスキーなものを作るのは避けたいものです。
錬金術書を読んでいたらすっかり夕方になってしまいました。
夜になると蝋燭を灯さなければ家の中は真っ暗闇です。
早めに家の中を明るくしておきましょう。
家の中の蝋燭に火をかけていると、
「ラビオラー、晩飯持ってきたぞー」
聞き覚えのある声が聞こえてきました。
「さすがライル、いいタイミングと言えます」
玄関を開けるとライルの手に握られていた生き物に目が行きました。
それは全身細かい鱗に覆われ、真緑色をし、長い尻尾を持つ、子供くらいの大きさはあるトカゲでした。
「それ……食べるんですか?」
「あぁ、うまいぞこいつ! だがこいつはすばしっこくて中々取れないんだぞ!」
きっとライルなりのお祝いの品だったのでしょう。
無下にすることもできず、そのグリーンなリザードを二人で丸焼きにして食べましたとさ。
見た目の割に、鳥さんのような味で美味しかったです。