邂逅
異世界召喚ものといえば、主人公が格好よく無双して敵を蹴散らして国を救い、ハッピーエンド
それが王道であって、夢物語とはいえども召喚されれば誰もが期待する展開だろう。
そしてまさか呼び出されて三日で死にかけることになるとは誰も思わないだろう
影葉無黒もそのうちの一人であった。
「ふざけんな畜生がぁあああ!こんなの認めねぇぞおぉおおお!!」
「待ちやがれガキぃ!!」
無黒は叫びながら如何にも盗賊やってます、といった風の大男から必死に逃げ回っていた。
(ちくしょおおおおおっ、なんでこうなったああああ))
無黒はとっさに木の幹に隠れる
「どこに隠れやがったぁ!?」
(昔から存在感の無さだけが取り柄なんだよ!)
自慢にもならないこと心のなかで呟いたその時だった。
「あなたが、ドルスですか?」
凛とした、透き通る声だった。無黒の意思に構うことなく自然と声の方向に意識を向けさせられる
そこには一人の少女がいた。黒髪を腰の辺りまで伸ばしており、その瞳は淡い青色で見るものすべてを魅了する美しさを兼ね備えていた。黒と白のラインの入ったフードを着込んでいる。しかしながら無黒は普通ならば見とれるであろうその少女に得体の知れない恐怖を感じずにはいられなかった。本能が告げていたのだ。あの少女は危険だ、関わってはいけないと。
「あなたがドルスですね?」
少女は再度男の名前を確認しようとする。
「なんで俺の名前を知ってるのかはわかんねぇが……。んなことはどうでもいい、嬢ちゃん偉い上玉じゃねぇかぁ!売り飛ばせば高く売れるにちげぇねえ!」
少女にドルスと呼ばれたその男は無黒のように危機感を抱くことはなかったのだろう。少女に自分から
近づいていく。無黒は思わず叫んでいた。
「バカッ、逃げー」
黒髪の少女に、ではなくドルスに向かって。しかしその声がドルスに届くことはなかった。次の瞬間ドルスは地面に崩れ落ちた。こと切れた人形のように。それはどう見ても生きているようには見えなかった。
「嘘だろ……」
目の前で人が殺された。どうやって死んだのかは解らない。ただ無黒にわかるのは少女がドルスを殺したということだけであった。
その現実を受け止めることができず、無黒は呆然として動くことができなかった。何より黒髪の少女が恐ろしかった。指一本でも動かせば次の瞬間にはもう死んでいるのではないかと思うほどに。
そんなパニック状態の無黒を少女はまるで幽霊でもみるかのような驚いた目で凝視していた。
「あなたは……一体……」
そんな呟きなどパニック状態の無黒には聞こえるはずもなく、ただただ焦っていた。
(死にたくない、死にたくない、死にたくない!)
そんな意思を込めて無黒はありったけの勇気を振り絞り少女を睨む
少女はどんどんと無黒に近寄ってくる。
「来るんじゃねぇ……来るなぁ!」
そう叫んだときには無黒の首筋に鋭い傷みが走っていた。いつの間にか無黒の首に鋭い針が突きつけられていた。
「あなたに与えられた選択肢は2つです。ここで死ぬか暗殺者として生きるか」