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スピリットサッカーR

作者: 灯宮義流

 ここは遠い遠い、もう言いたくなくなるくらい未来の世界。

 そんな未来になったって、人間は飽きもせずサッカーサッカー言ってました。

 でも、やっぱり同じことしててもつまんないってことで、ルールは大分変わってました、いいんです。未来だから。

「おうおうおうおうおうおう! 今おうって何回言ったか言ってみろ」

「……七回!」

「君は偉い、人を良く見ているなあ、すげえよ。おーいみんな、相手には人を見る目がある奴いるから注意しろよー!」

「そこ! くだらない話してると退場にするぞ!!」

 今では試合前の駆け引きなんて日常茶飯事なもんです。まあ大体はこうして止められますが。




 ところで、未来ともなると、重力を操ったりできるからすごいですよね、そんなわけで、この360度サッカースタジアムには重力がありません。

 もう、だからボールは自由なんです、人に蹴ってもらえれば、彼は自由になれるんです。

 まあボールの人生がどうなるかはさておき、いよいよ試合開始です。審判さんが選手を連れてやってきました。

 選手はみんな、昔みたいに動きやすい服装なんてしません。鎧を着たり、物々しい格好したり、とにかく戦闘に適した格好をします。

 どうしてかは……もうすぐにわかります。

「プレイボール!」

「あ、てめえ野球の審判じゃねえか。土足で踏み入りやがって、このスパイ野郎!!」

「あれれ? しまったー! すいません、うっかり間違えちゃって」

「知るか! 食らえぇぇぇ! フレイムボンバースパークキーーック!!」

 ドーーーーン! という爆発が起きたかと思うと、審判の人は跡形もなく粉微塵になってしまいました。もうモザイクかけないと見てられないです。

 そうです、もう未来のサッカーは戦場なのです、関係ない奴が入ってこようものなら、こういうことになってしまうんです。

 あ、ちなみにスパイとか言ってますが、別に野球選手とサッカー選手が戦争してるわけではありません。

 邪魔者がいなくなったところで、ようやく試合開始です。

「キックオフ!!」

「いきなりサンダーライトニングトルネードシュートォォォォ!!」

 バキィッ!! と人の骨が折れる音がしました。

「アウチ!! アウチ!!」

 ボールを取りにいこうとした相手の選手が、もろにこのサンダーライトなんちゃらを足に食らったのです。

 足はもう黒こげ、これでは義足でもつけない限り再起は不可能と言えるでしょう。

 めそめそと泣きながら、怪我をした選手は退場して、代わりの選手が入ってきます。

 すごいですね、体がでかいし、全身に武装してますよ。こんなものを持ち込んで、何をする気なのでしょうか?

「よくも兄貴を! この試合絶対に勝つぞ!!」

「「「オーウ!!」」」

「試合再開!!」

「いくぜ、ファイナルウルトラスーパーガンデストロイヤーーー!!!」

 チュドドドドドトドと、辺りに弾薬の嵐が飛び交います。見境なしに飛んでいきます。

 客席は一応ガラス張りされてますが、予算がなくて、あんまり頑丈じゃありません。

 関係ないところに放たれた弾薬のいくつかが、客席に飛んでいったかと思うと、あとはもう周りのガラスが真っ赤になるだけでした。

 キャーーキャーー!! という歓声が辺りから巻き起こります。これは派手ですから、盛り上がるんでしょうね。

「おのれーー!! まずはお前から潰してやるぜーー!! グレートさぬきウドンが今月はなんと大特価で半額だぞパーーンチ!!」

「な、何ぃ、こうしちゃいられねえ、スーパーいってくるぜ!!」

 すると全身弾薬庫さんは、銃を全部捨てて、スタジアムから出て行ってしまいました。なんか財布探ってます。完全にお買い物モードみたいです。

「タイム!! くそ、選手補充だ!!」

 また向こうのチームは選手を交代しました。さっきの審判の名残か、ウグイス嬢がアナウンスしちゃってます。

「八百屋の佐藤さんだ! そっちが商売人使ってくるなら、こっちも商売人だぜ!」

「何を!!」

 そして佐藤さんが、ニコニコしながら相手チームへと向かっていきます。

「いつもお世話になってるからねえ、これ一本サービスするよ」

「うおおおおお!! 佐藤さーーーん!!」

 すると、全身武器男を退散させた男は、佐藤さんの人情に負けて寝返ってしまったではありませんか。

 言うまでもないですが、仲間の人たちはカンカンです。とても汚い言葉が飛び交っています。

 でも言われてる男は、もう佐藤さんの人徳に惹かれまくっています。まるで飼い猫のように手馴れされています。

「再開」

 という審判の声と同時に、彼は一斉に元仲間達に襲われてしまいました。

 骨の折れる音とか、肉が千切れる音とか、もう後は聞きたくないというような音がしばらく続きました。

 彼等が満足してその場を離れると、そこには男の人の骨が転がっていました。

「なんと可哀想なことだ……」

 佐藤さんが、哀れな姿になってしまった彼の骨に近づきます。すると、骨が急に爆発しました。

 気づいた時にはもう遅し、佐藤さんは爆発に巻きこまれて、見るも無残な姿になりました。

 燃え盛る佐藤さんの身体を見て、チームメイト達は、ショックのあまり膝をつきます。

「佐藤さーーーーん!!」

「チクショー、なんてエグイことをしやがる、アイツラァァ!!」

「絶対相手チームには負けねー!! 佐藤さんの仇をとるぞーー!!」

 ついに一致団結した彼等は、仲間の無念を晴らすべく、改めてボールに向かう。

 あー、ようやくサッカーらしくなった。

「俺達は絶対に勝つんだ。死んだ佐藤さんのためにも、そして、俺の貴子たかこのためにも!!」

 ここでようやく主人公らしい人が出てきましたね、と思ったら一気に試合が始まりましたよ。

 彼は、一気にボールを奪うと、跳躍して相手の頭上を舞いました。これぞ無重力の力というものですね。

 そして、足に何かエネルギーを溜め込みながら、ムーンサルトキックでもかますように、身体を海老反りさせました。

 サッカーなのに、まるで棒高跳びみたいな感じになってきました。

「くらえ外道ども!! 海老菓子ファイヤーーーー!!!」

 そのまま彼はシュートをぶちかましました。物凄い勢い、物凄いスピードです。

 おまけに、これは海老反りの効果なのか何なのかはわかりませんが、すごいカーブしています。

 この無茶苦茶さなら、きっとドリフトレーサーも真っ青してくれるはずだ!

「う、うわああああ!! 俺は海老が大嫌いなんだーーー!!

 ここで運の悪いことに、キーパーの海老嫌いが発動して、シュートは誰にも防がれることなく、入りました。

 誰がなんと言おうと、そのシュートは見事に決まりました。笛がなります。

「ピピーーー!! 試合終了!!」

 やったー! と、佐藤さんがいたチームが歓声をあげます。とても都合の良い時間に試合が終わりをつげたのです。

 相手チームは、そりゃもう悔しそうにしています。よほど勝ちたかったんでしょう、残念なことです。

 見ている者の誰もがご都合主義という言葉を思い浮かべる前に、シュートを決めた男はある所に目かげて一直線に走ります。

「貴子ーー!! お父さんはやったぞーーー!! 勝ったんだーー!!」

 男は、娘の所まで急いで走ります。でも、元気な娘さんはそこにはいませんでした。

 あったのは、銃弾に貫かれて、血みどろになって倒れている、彼の娘さんの死体が倒れていました。

 そんな……と男はまた膝をついて、肩を落としました。まさか、試合に夢中になりすぎて、最愛の娘を失うことになるとは。

 とても空しい絶叫が、辺りにしばらく反響しました。





「いやー、すごい試合でしたねー、解説の島西さん?」

「あ、ごめんなさい。漫画読んでました」

「もうクビにされますよいい加減にしないと。じゃあ今回のゲストで、歌手のミッチーコさんに一言いただきましょう。

「…………」

「あー。知らないうちに撃たれていたみたいですね」

「げげーー!! 俺の漫画に返り血がついてるじゃないか!! なんてことだーーー!! ちくしょぉぉぉ」

「……そろそろ苦しくなってきたところで本日の放送を終わります。明日は、アマクダリーズ対セッタイーズの試合をお送りいたします。では、ごきげんよう」





 2008年1月某日・とある少年サッカーチーム


「コーチ、俺サッカーやめるよ」

「え?! どうしたんだ今道いまみち! お前、将来プロサッカー選手になるって、念願のレギュラー入りも決まったじゃないか!」

「なんていうか……未来のサッカーに希望が持てないんです」


途中から技の名前が寒くなっていくのを肌で感じていました。報われない貴子。

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― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。佐竹と申します。 話の筋としては私の好きなたぐいですが、そのため酷評になってしますのでご容赦ください。ストーリーの大筋としては良い意味で定番だと思います。ただ、始めから飛ばしすぎ…
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