3.出会いの裏側は(前編)
その日ドラッヒェン公爵家は朝から大変な騒ぎになっていた。
玄関ホールで公爵夫人の凛とした
声で指示が出され、それに従い家の者が現場に向かい遂行する。
その様は客を迎える貴婦人というよりは、前線で指示を出す司令官のごとき姿だった。
「私の薔薇園でお茶会をするのだから、手入れは入念に!虫や刺を見つけ次第除去を。」
「はい、夫人!」
足早に去る庭の責任者の背中に、
「天使ちゃんに害する恐れのあるものは即刻排除するように!」
「はっ」
次に控える料理長とパティシエには
「小さい女の子が好きと思われるデザートを渾身の力で作るように!美味しいだけじゃなく見た目も楽しませるのも忘れないように!」
「「はい、夫人!」」
張り詰めた空気漂うところに、ゆったりと公爵と長男クリスが階段を下りてくる。
「おはよう、ロゼ、やってるね。」
「おはようございます、母上。いつにもまして気合が入ってますね。」
上から降ってきた声にキッと振り返り、
「当り前でしょう、私の親友と私の天使ちゃんが来るのですよ。ましてや天使ちゃんは我が家に来るのは初めて。ならば最高のおもてなしをしなくて!」
力強く拳を握りしめ、そう力説した。
「あなた方は天使ちゃんを見ていないからそんなにのんびりできるんですわ!あの可愛さときたら、もう言葉に出来ません。これを機会にちょくちょく来てもらいたいのですから、第一印象は命がけでよくしなくては!「お母様帰りたくない、ここにいる!」と言ってもらえるくらい気に入って欲しいし、あらいっそこのまま同居とか出来ないかしら…。」
公爵夫人の暴走は止まりそうにない。
そこへもう一人の息子が声をかけてきた。
「母上ーおはようございます、朝の訓練のお相手をお願いします!」
次男のシオンが二本の剣を携え、夫人に近づいていく。
「忙しいけれど、いいですわ。行きましょう、シオン。」
剣を受け取り貴婦人とは思えぬ早い足取りで外に向かっていった。
その後ろ姿を見送った後、侯爵と長男は顔を見合わせて言った。
「今回の侯爵訪問、何かあったら、血をみることになりませんかね。」
「戦場じゃあるまいし、家で鮮血の薔薇は発揮されないだろう、さすがに…」
言っててだんだん自信がなくなり、声が小さくなっていくのは仕方がない。
いろいろやらかした実績を目の当たりにしてきたのだから。
軍人上がりの夫人の突っ走り具合に不安さを隠せない二人でした。