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2.出会いは

「もうそろそろ着くよ。」

優しいお父様の声で気が付く。

「降りる準備をしときましょうね。」

寝ぼけた私の顔を覗き込みながら、お母様にそう言われて周りを見渡した。

馬車の窓からは赤い日差しが入ってくる。

だいぶ寝ていたことに驚き、手元がさみしいことにふと気が付く。

「テディ、どこ?」

座席を見渡しても茶色の姿は見当たらない。

いつも一緒にいてくれる仲良しがいないことに心細くなり、セシリアの瞳に涙があふれてくる。

「セシィ、落ち着いて、君のお友達はここだよ。」

お父様の手の中には、いつも優しい顔をしたテディベアのぬいぐるみがあった。

「テディの寝相が悪くて床に寝ていたのよ。」

いつも感じる手触りが戻ってきて、やっとホッとした気持ちになる。

「もうテディったら、私から離れちゃだめなんだから!」

そうこうしていると、馬車が止まり御者の声が聞こえた。

「旦那様、公爵邸に到着いたしました。」



セシリアが最後に馬車から降りると玄関扉の前に何人か人がいるのが見えた。

お父様に雰囲気が似ている穏やかそうな方は公爵だろうか。

その隣にいるのはあでやかな深紅の薔薇を思わせるきれいな女の人。

そして、両脇には大きい男の子と私と同じくらいの男の子。

大きい子は優しい微笑みを浮かべて、歓迎してくれているけれど…。

もう一人の子は目を見開き口もあいたまま、固まった様子だった。

(なに、私一目見てビックリするくらい変なのかしら。)

どう見ても目線は自分の顔に向かっているのを確認すると、不安な気持ちでいっぱいになり手の中のテディをギュッと抱きしめた。

「ハインリヒ!よく来てくれたね。みんな待ちきれず、家の前まで出てきてしまったよ。」

「出迎えありがとう、クライス。待たせてしまってすまないね。」

「シャル!いらっしゃい!待ってたのよ!ああ、早くあなたたちの天使に会わせてちょうだい!」

「相変わらずね、ローズ。」

いつの間にか両親は公爵夫婦と挨拶をかわしていた。

王立学院の同級生だと聞いていたが、かなり打ち解けた様子にちょっとホッとする。

怖い人たちじゃないのがわかって良かった。

(それにしても天使って、私のことかしら、)

恐る恐る両親の後ろから歩みだし、公爵夫妻に顔を向けると夫人とバチッと目があった。

「まあっ、まあなんて可愛いの~!ねえ、クライス!」

迫力ある美人が興奮するとさらに迫力があるんだな、とセシリアは一歩後ろに下がった。

公爵らしき人がセシリアの前に立ち、恭しく挨拶を始める。

「小さなお姫様、お会い出来て光栄です。君のお父上の親友のクライス・フォン・デア・ドラッヒェンだよ。お名前を聞かせてもらえないか?」

貴族流の挨拶をするのは初めてのセシリアも、マナーの先生にしごかれた動作を自然にすることができた。

(うるさいと思ってごめんなさい、フォリナー先生!感謝です!)

体に身に付いた礼を終え、背筋を伸ばし紹介を始めた。

「ハインリヒ・フォン・デア・グリューネバルドの娘、セシリア・フォン・ディー・グリューネバルドと申します。」

少し声は震えてしまったが、フォリナー先生も及第点だしてくれそうな受け答えできたはず。

安心して周りを見る余裕も出てきた。

両親は良くやったという表情、夫人は嬉しそうに大きい男の子からは暖かい笑みが、そして最後の男の子の顔を見た途端、見なきゃ良かったと後悔した。

さっきの男の子がすごい恐ろしい顔つきでこちらをにらんでいる。

(なんかやっちゃったのか、私…)

と思っていると男の子の視線が少し下がり、手の中のテディを親の仇とばかりにぎんとにらみ直した途端走り出した。

(え、)

あっという間にテディを取り上げられ、勢いのまま空に放り投げられる。

「燃えよ、フレイム!」

鋭い声とともに宙にあったぬいぐるみが炎に包まれた。

(私の友達!)

「テディッ!」

「何を!(シュッ)」

「瞬け、リヒト!」

目の前が真っ白になり、頭がクラクラしながら何が起きたか分からず頭の中も真っ白状態になる。

光が収まり、やっと周りが見えるようになる。

(今、魔法が…、あ、テディは…)

誰かに教えてもらいたくて見渡すと両親の困ったような笑顔、公爵家族の作ったような笑顔が見える。

(あの男の子いない。)

男の子とテディの事を聞こうと口を開こうとする前に公爵夫人の明るい声が響いた。

「こんな玄関先で、案内もせずにごめんなさいね!さあ、入ってまずお茶しましょう!」

(え、今いろいろあったのは…)

「そうだね、料理長の全力のタルトがお待ちかねだよ。」

(あ、お兄さんしゃべった。)

「タルトだけじゃない、マカロンタワーもシフォンケーキもあるよ。」

(それはすごい、ぜひ食べたい!でも、あれ…)


口をはさむ暇もなく、公爵家総出の懸命なお茶会に突入したのだった。



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