1.はじまりは
王都のタウンハウスでの自室の窓から街の明かりを見下ろしながら、ため息をついた。
どうして、こんなことに…
目まぐるしく自分を取り巻く状況が変わるのに、頭に入ってくる情報量が多すぎて飽和状態である。
もう一度ため息を吐いた後、彼との最初の出会いから思い返してみることにした。
サングリア王国の貴族、ベルクシュタイン侯爵の一人娘として生を受けたセシリアは初めての遠出にはしゃいでいた。
侯爵家の領地から離れ、いつもと違う景色を馬車の窓越しに楽しみわくわくを抑えきれなかった。
「お父様、これから伺うお父様のお友達の公爵様のお城はまだですの?」
淡い青銀の髪を片側に束ね、南の海を碧さを思わせる瞳を持つ侯爵は優しく娘の質問に答えた。
「隣の領地とはいえ、すぐにはつかないよ、セシィ。」
そして、同じく淡い紫がかった銀髪を外出向けに結い上げ、ラベンダー色の瞳の侯爵夫人が付け加えた。
「夕方、日が暮れる前には到着出来ると思うわよ。」
二人の間に生まれたセシリアは髪は母譲り、瞳は紫水晶のような色合いを持つ4歳の女の子。
「公爵様には男の子がいるんでしょ!セシィとお友達になってくれるかしら。」
「大丈夫、いい子達だから安心しなさい。すぐ仲良くなれるぞ。」
「そうね、礼儀正しくきちんとしたご子息達だったわね。さ、今から興奮してたら、夜まで持たないわ。少し横になってはどう、セシィ?」
「はい、お母様。」
セシィは初めて訪問する公爵一家はどんな人か想像しながらクッションにもたれ、まぶたを閉じた。