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馬車の中は

少し不愉快な言葉が出てきます。

ダメな方は、この話は避けてください。


親切なお兄さんに教えてもらった通り、人だかりのできている方へと行くと先程見た広場に出た。

小さな噴水もあるし間違いない。


琴子は人だかりの間を無理矢理通り抜け、キャラバンへと向かった。


「すみません!通してください!」

前へ行こうとする琴子とは逆に民衆は後ろへと下がってくる。


何かショーでもするのかな?


そう思いながら一番前まで来たものの、特にショーをしようとしているわけでもない。

もしかしたらもうイベントは終わってしまっていてみんな帰る所だったのでは無いのか、琴子はそう思って焦る。

慌ててキャラバンの馬車へと駆け出した。

後ろで誰かが何かを言っているのが聞こえた気がした。

けれど琴子の足は止まらない。

ここで置いていかれては琴子は牢屋に入れられてしまうかもしれないと思ったからだ。


だって!王子踏みつけたし!

後、王族しか入れない所入っちゃったし!

何か逃げ出しちゃったし。


もう後戻り出来ないんだから!



そう思いつつ、琴子は馬車の後ろの幕をくぐる。

馬車に行けば誰かしらいて、何とかなるだろうと安易に考えていた。




「・・・・・・え?」





この時私は始めて知った。

そして理解した。


何故あの時、民衆が遠巻きにこの馬車を見ていたのかを。




「ーーーぅぅ。」

「・・・・。」

「ひっく・・・ひっく・・・。」



身なりは様々で、年齢も様々、男も居て女も居て。

その誰もがこちらを見上げていた。


生気の無い淀んだ瞳で・・・・。



ー人身売買。


正直に言って、恐怖が恐怖を重ね塗りした様な感覚で、声が出なかった。

幕を上げた腕が小刻みに震えているのがようやく分かる程度で、それ以外の感覚が抜けてしまうくらい琴子は恐怖で混乱した。


そこにいる人々は全員鎖で繋がれていて、人によっては大きな傷や痣が出来ている人もいた。


「た、助けてくれぇ。」


誰かがそう言った。

すると次々に自分も自分もと言い始める。

ジャラジャラと鎖の音が馬車の中に響き渡り不協和音を奏でた。


琴子は小さく首を振るう。

「わ、私は・・・っ。」

尚も乾いた声で助けを呼ぶ彼らに一歩は後ずさる。


「私は・・・。」



次の瞬間、恐ろしいほど強い力で琴子は馬車から引き摺り下ろされた。


「きゃっ!」


何か布を被せられ、視界を遮られる。

ー捕まった。

そう思うしかない、琴子は全身に力を入れた。




「・・・っの馬鹿!」


それは思いの外知っている声で、私は意外にもその声を聞いて安心した。


琴子が布を剥いで声の主を見ようとすると、大きな力でそれを阻止される。

「あ、あの・・・。」

「それ脱ぐなよ。そのままこっち来い!」

声の主は琴子から布が落ちない様に深く被せると、そのまま民衆の方へ向かって走り出した。

いきなりの事で琴子は呆気に取られながらもその声の主について行く。

声の主は目の前の人だかりに混ざるとそのまま通り抜け、見覚えのある路地裏に入る。

まだ少し街の喧騒は聞こえるが、路地裏に入ったことで琴子が少し躊躇したのを感じ取ったのか声の主は走るのをやめた。


琴子は被せられた布をとり、目の前の人物の後ろ姿を見つめる。


やっぱり彼だ。


「あの・・ありが。」


そう言おうとしたが、それは叶わなかった。



ドンと言う低い音が耳元に響く。

後ろ姿だった彼は、物凄い形相でこちらを睨んでいた。

頬から仄かに伝わる彼の体温と、少し荒い息遣いで彼が必死に走っていたことを伺わせた。


「この馬鹿がっ!!」


至近距離でそう怒鳴られる。


「お前、あの馬車は商人のキャラバンと言ったが商人は商人でもーー」


「奴隷・・・。」



漫画とかでしか見たこともない自分でも分かった。


「奴隷商人の馬車でしょ?」


言葉にして始めて胸糞が悪いと感じた。

こんなにも目の前のことに胸糞が悪いと思ったことはない。


琴子は全身に力入れ顔をしかめた。


怖いと思った自分が腹立たしくてしょうがない。


「・・・・だったらもう二度とあの馬車に関わるな。」


「なっ!?貴方あれを見て何とも思わないの!?」



咄嗟に琴子は声を上げた。

それを言う資格が自分にも無いことは分かっている。


ー初めに彼らを拒絶してしまったのは私だから。


それでも平静に告げるアゼルの言葉に憤りを感じた。

琴子は額にシワを寄せ睨む。

だがアゼルは静かにそれを聞くだけだった。

しばらくしてゆっくり壁に突いた腕を降ろした。


「じゃあお前は何ができる。」


「っ!」



避けようの無い言葉。

琴子は反論出来なかった。


そんな事は、あの馬車に入った時から自問自答していた。

何か出来るのであればとっくにやっている。


唇を噛み締め琴子は俯いた。


「自分に力が無いのに、下手な事を口にするな。」





「ーーーーだったら、だったら助けて見せるわよ!」


そう言った琴子の声が路地裏に響き渡った。


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