森の向こうは
王子?この人が?
琴子は眉をひそめた。
王子と言う物が何なのかはよく知らないが、こんな乱暴なことはしないだろう。
そしてあえて言うならば、物腰は柔らかく丁寧な言葉遣い、品のある雰囲気と、かつ優雅さ、淑女に対して軽いジョークと気遣いをみせ、午後のティータイムでは注目の的だ。
後、金髪と碧眼であれば悪く無い。
そう言うのを王子と言う。
だが、この人は違う。
アゼルと言ったかこの青年、身なりこそ良いが、無愛想だし、目つきは怖い。
後、第二王子と言うのが胡散臭い。
琴子が睨み上げれば、その数倍の怖さで睨み返される。
「(こ、怖い・・・っ!)」
琴子は慌てて視線をそらした。
「・・・おい。」
「っな、なによ!」
怖さのあまり琴子はつい声を上げる。
アゼルは暫く琴子を見ていたが、直ぐに視線をそらした。
「お前自分がゼリュスの巫女だと思い込んでいるから、そんな頓狂な格好をしてるのか?」
「頓狂な格好・・・・?・・・・・〜〜〜っこれはワンピースよ!!」
琴子は顔を真っ赤にして声を上げた。
「なら生地代が払えなかったのか?そんな丈を短くして。おまけに男の様に下を履いている。」
こ、こいつ・・・っ!
一応これでも私はゼリュスに相談して決めたんだ。どう言う服装がこの世界で浮かないのか。
白っぽい膝丈ワンピースに黒のスキニーパンツを履いて、これまた黒っぽいエンジニアブーツで、上はジャケットを着ている。
あれだけ、あれだけ時間をかけて選んだ私の一張羅をこの男、言うに事欠いて頓狂な格好ですと!?
「貴方非常に失礼ですね。」
「お前程では無い。」
「いや、貴方です。女性にそんな失礼なこと言う人初めてです。」
「頓狂な格好を頓狂言って何が悪い。」
「貴方それでも王子ですか?」
「お前こそ、俺に向かって王子を疑うか。」
その瞬間、アゼルの目が不気味に光る。
琴子は速やかに視線をそらし、両手で耳を塞いだ。
するとその瞬間、今まで木々のお陰で少し暗かった辺りが急に明るくなる。
森が途切れていた。
それまで、自分が居た場所が本当に私有地だったと思い知らされる。
「何これ・・・凄い塀・・・。」
何処までも続く様な、塀が目の前一杯に広がっていた。
「アゼル様!その女は?」
唯一あるであろう、出口に立っていた門番がアゼル敬礼し、声をかける。
そして琴子の方を見た。
琴子はその視線に居た堪れなくなって慌てて顔を隠す。
「気にするな。城へ向かう。」
そう言ってアゼルは門をくぐり抜けた。
琴子はそっと門番をそっと盗み見る。
彼は長い槍を持っていて、軽装していた。
外国でもこんな服装見たことが無い。
琴子が視線を再び前に戻すと、見たことのない街が広がっていた。
「ここは・・・?」
「本当に何も知らないのか。ここはレギオンが首都、パルミアの都だ。」
琴子は今までに見たことがなかった。
いや、本やTVでなら似たような物を見たことがあるが、実際に自分の目で見たことが無い。
ドイツとかフランスとかの田舎町の様な光景。
二階の窓から蔦の長い花が飾られていたり、可愛い色の扉や、真っ白な土壁。
石畳の道を馬車がゆっくりと通っていた。
「ねぇ、あれは何?」
人混みの中を通り過ぎる一際大きな馬車が二人の横を通り過ぎた。
そして、小さな噴水のある広場で止まる。
人々が、それを見るなり遠巻きに避けて行くものだから琴子からも馬車の位置はよく見えた。
「気にするな。ただの商人のキャラバンだ。」
「キャラバン?」
「ああ。主に貿易物なんかを街で売っているグループの事だな・・・。」
そう言ってアゼルはじっとそのキャラバンを見つめた。
「(いろんな街に行っていると言うこと?・・・だったら。)」
琴子はそっとアゼルを盗み見た。
彼は何故かそのキャラバンをじっと見つめている。
自分の中で大きく心臓の鼓動が鳴る。
アゼルに気付かれない様に小さく両手を握りしめた。
次の瞬間ーーーー
琴子はアゼルに対して大きく両手を突き出し崩れる様にして飛び降りたーーー。