出会ったその人は
「待て。」
強く握られた右腕が、小さく震えた。
深い青色の髪から覗く金色の彼の眼差しがとても強い光を放っているように見える。
ーーーー怖い。
「お前、何処から来た。」
彼の一言一句に琴子は萎縮してしまう。
右腕が、いや全身が震えているのを感じた。
「わ、私は・・・・っ。」
硬く目を閉じて精一杯身体中に力を込めた、青年とは逆方向に力一杯踏み込む。
しかし、当然だか全く動かなかった。
青年は小さく舌打ちし、腰に下げていた物を琴子を捕まえている腕とは違う腕で引き抜いた。
金属のこすれる音がする。
踏み込んでいた力が抜けた。
剣先が琴子の首に当てられる。
「もう一度聞く。お前は誰で、何処から来た。」
金色の瞳が冷たく光る。
「わ、私・・・・っ!私は高嶺琴子よ。」
琴子はもう一度全身に力を入れた。
私は、ここに怯えに来たわけじゃない。
私には、やることがある。
「私はゼリュスに頼まれて、この世界を救いに来たんだから!!」
「はっ。はははははっ!」
そう青年は大きな声で笑い転げた。
琴子の首元にあった剣先も下げられ、青年は顔を真っ赤にしながらお腹を抱えている。
その光景に暫くぽかんとしていた琴子も徐々に顔を赤らめる。
勢い良く青年から視線をそらした。
ーわ、私っ!何てことを・・・っ!
初対面で誰が世界を救って見せる何て言われて信じるのか。
中二病丸出しのセリフではないか。
実際、琴子だって逆の立場なら青年と同じように笑い転げているだろう。
「ほ、本当よ。私はアヴェルって神様が操ってる魔物を倒しに行くのよ!」
その瞬間青年は笑うのをやめた。
「アトヴェル神をか?・・・なら、早々に諦めることだ。アトヴェル神はこの世界の創造神だぞ?」
「アトヴェル・・・?」
琴子は眉をひそめる。
すると青年はアヴェルの事だと教えてくれた。
「誰かに何を言われて、ここへ来たのか知らないがここは王族の私有地だ。その魔物とか言う奴もここにはいない。騙されたんだな。」
そう言って青年は出していた剣をしまった。
「っ違う!ゼリュスはそんな事しない。それに・・・。」
ーゼリュスがわざわざ、異世界から私を呼ぶわけがない。
もし、それが嘘だとして何のメリットがある?私なら、そんな面倒なことはしない。
「・・・ふん。まあ、そんな事は関係ない。お前を一旦城へ連れて行き尋問する。」
「っ!?」
琴子は慌てて逃げようとする、けれど直ぐに青年に捕まってしまう。
それでも逃げようとすることこに、青年は舌打ちした。
「・・・・っひゃ!」
一瞬の浮遊間
琴子の視界は傾いた。
「大人しくしてろ。」
そう言って青年は琴子を抱き上げる。
あまりに突然の事に琴子は、口をパクパクとさせる。
「・・・あ・・・だ、だ・・・大体貴方こそ誰なのよ!」
それを言うのが精一杯だった。
青年は琴子の言葉に少し顔をしかめた。
「ここは王族の私有地だと言っただろう。」
確かにそうは言っていた。
しかし琴子の居た世界で王族又は皇族と呼ばれる人などTVの中でしか見たことが無い。
目の前に普通に立って居て、話が出来るなんて思ってもいない。
「じゃぁ貴方は王様なの・・・?」
何気無い質問に再び青年は顔をしかめた。
「それは俺の父だ。俺はアゼル。アルゼルト・C・レギオンこの国の第二王子だ。」