風薫る
あの子が君に恋を告げて。
君がはにかみながら受け入れて。
それで私の気持ちは終りだった。
そこに至ってやっと自覚した私の想いは、気がついた時にはもう絶対届かないものになってた。
最高の腐れ縁だなんて言ってた。
一番の親友だなんて思ってた。
君が隣に居るのを当たり前に感じてた。
君と一緒に居るのは、当然なんだって決め込んでいた。
だけど私の心は知らないうちに、恋人用の鼓動を鳴らしてたんだ。君とふたりの時に。ふたりだけの時に。
だけど、それはおしまい。
君にはもうあの子がいて、あの子には君がいるから。
だから、明日は笑っていなくちゃいけない。ふたりとも、私の大事な友達だから。
おかしな挙措を勘繰られたりしたくない。そこからおかしな気遣いをされるのこそが最悪だ。
明日は大丈夫になっておこう。ぎこちなくても、笑えるようになっておこう。
だから今は。今だけは。
「……泣いたって、いいよね」
明日、いつもを装えるように。
布団を被ってベッドの上、ぎゅっとぬいぐるみを抱き締めた。それにすら君の思い出が詰まっていて、その欠片は深く心に突き刺さる。気持ちがわっと溢れ出す。
堰を切った感情は、ぼろぼろと雫になって頬を濡らした。
苦しくて苦しくて、どうしようもなく押しつぶされそうだった。
馬鹿だな、私。こんなに好きだったのに。
声を殺してすすり泣く。
君の事、こんなに大好きだったのに。
差し込む朝日の感触で目を覚ました。外からは集団登校する子供達の笑い声。
泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまったんだ。
乾いた頬を指で拭って苦笑した。着替えもせずにベッドにもぐりこんだから、お気に入りの服がわしわだ。
そうして、気がつく。
うん。今、笑えてた。
大丈夫。
今度は強がりじゃなくそう思える。
窓を開けてみれば空は快晴。気持ちのいい風が流れ込んでくる。
ふわりと私の髪もくすぐって吹き抜けて──何故だか、神様が撫でてくれたんだって思った。