表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
馬田未来男  作者: eno
6/7

第6話:共犯者の概要欄

 翌朝。ひかりはアラームの音に、死体のように這い起きてきた。

 視力が落ちている彼女にとって、朝の薄暗い部屋は深い霧の中と同じだ。手探りでちゃぶ台のスマホを探す彼女の指先に、俺は鼻先でスマホを押し込んだ。

「……あれ? 鳴ってないのに、画面がついてる」

 光が目を細め、至近距離で画面を覗き込む。

 そこには、昨夜俺たちが心血を注いだ動画の「投稿完了」の文字が踊っていた。

「……えっ!? なにこれ、YouTube? 投稿されてる……?」

 光の顔が驚愕に染まる。当然だ。寝ている間に、自分のスマホから勝手に動画が世界へ放流されているのだから。

「うそ、寝ぼけて私、操作しちゃったの……? ヒゲ、あんた何したのよ」

 怪しむ視線を送る光に、俺は「知らねえよ」とばかりに欠伸をして、鏡の前で泥棒ヒゲを整えるフリをした。

 光は慌てて動画を削除しようとしたが、ふと再生ボタンに指が触れた。

 画面の中で、不格好な泥棒ヒゲを揺らして絶叫する俺と、ぎこちない足取りで鍵盤を叩くキラ。

「……あはは!」

 光は思わず吹き出した。

「何これ、ヒゲの顔、近すぎ。キラも一生懸命……。ふふ、なんだか懐かしいな。アイツ(未来男)が、私が落ち込んでる時にやってくれた変なダンスみたい」

 光は画面を見つめたまま、削除ボタンから指を離した。

「……いいか。記念に、このままにしておこう。誰も見てないだろうし」

 彼女はおぼつかない手つきで、概要欄に文字を打ち込み始めた。誰に宛てるでもない、彼女の独白のような「祈り」を。

【概要欄】

私には、この子たちの未来を治してあげる力がありません。でも、この子たちは、私の見えなくなる世界を、音と笑いで照らしてくれます。泥棒ヒゲのプロデューサーと、足の不自由なピアニスト。私たちの、静かな抵抗の記録です。

 彼女は「よし」と小さく呟くと、仕事へ向かった。

 ――そして、夕方。

 疲れ果てた光が帰宅し、何気なくスマホを手に取った。

「……あれ? 通知が、なんか多い」

 彼女が目を細めて画面を見る。再生数は「2,100」。朝の「12」から見れば、信じられない飛躍だ。

「えっ……二千? 二千人も見てくれたの? ……嘘、コメントも来てる」

『何このヒゲ猫、笑えるw』

『ピアノ弾いてる子の足、一生懸命で泣ける』

 光の瞳に、久しぶりに小さな光が宿った。

 だが、その直後。光は届いていた一通のメールを開き、顔を伏せた。派遣会社からの事務的な通知。

「……やっぱり。次の更新、しないって」

 派遣先からの「業務遂行能力の懸念」という名目の、事実上の雇い止め。

「あと一ヶ月……。その間に、次の仕事なんて見つかるかな。この目で……」

 光の手からスマホが滑り落ちる。

 二千再生という小さな希望が、一ヶ月後の「無収入」という巨大な現実に飲み込まれていく。

(……チッ、予想はしていたが、やはり来たか)

 俺は落ちたスマホを覗き込み、画面に映る「泥棒ヒゲ」の自分を睨みつけた。

 二千じゃ足りない。一ヶ月以内に、この「2,100」の後に「0」をあと三つ、四つと積み上げなきゃならねえんだ。

【次回予告:第7話】

派遣の更新なし。迫りくるタイムリミット。

絶望する光の傍らで、ヒゲは次なる「閃き」を形にする。

海外の動物愛護コミュニティが反応し、再生数はついに万の大台へ。

「キラ、次はただのピアノじゃない。光、お前の『声』が必要だ」

バズりを「爆発」に変えるための、感情を揺さぶる第2の矢。

そして、ついに訪れる――奇跡の10万再生の夜!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ