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注目が集まることで経済が動く仕組み―ソフィアに聞こう!

アテンションエコノミーの話。

迷惑系配信者の話になるかと思ったら、全然違う方向に話が進んだやつ。

 ソフィア: 諭吉さん、こんにちは。ずいぶんと熱心にご覧になっていますね。


 諭吉: おう、ソフィアか。まあな、ちょっとしたニュースと、面白い動画をチェックしてるだけだよ。世の中の流れに乗り遅れないようにしないとな。


 ソフィア: なるほど、「世の中の流れ」ですか。確かに、スマートフォンを通じてたくさんの情報がリアルタイムで流れ込んできますものね。諭吉さんが今ご覧になっているようなコンテンツも、諭吉さんの「注目」を集めるために、様々な工夫が凝らされているんですよ。


 諭吉: またソフィアの難しい話か? 要するに、スマホの見過ぎは良くないって言いたいんだろ?  大丈夫だって、俺は自分でコントロールしてるから。見たいものを選んで見てるだけだよ。


 ソフィア: 諭吉さんがご自身で「選んでいる」という感覚は、とても大切だと思います。ただ、その「選びたい」という気持ちや、特定の情報に「目が向く」という現象の裏側には、諭吉さんお一人だけの意思だけではない、もっとたくさんの要素が複雑に絡み合っている可能性があるんですよ。


 諭吉: たくさんの要素?  例えばなんだよ。結局、面白い動画を作るやつがいて、それを見る俺がいる。シンプルな話じゃないか。


 ソフィア: もちろんです。面白いコンテンツ、魅力的な情報が最初のきっかけであることは間違いありません。それは、例えるなら美味しい料理のいい匂いのようなものです。その匂いに誘われて、私たちはレストランに足を踏み入れることがありますよね。


 諭吉: まあな。食欲をそそる匂いは大事だ。


 ソフィア: ええ。そして、人々の「注目」がとても価値を持つ今の仕組みでは、その「いい匂い」をさらに効果的に、そして広範囲に届けるためのシステムが存在するんです。例えば、諭吉さんが一つの動画を見終わると、プラットフォームは「あなたへのおすすめ」として、よく似た動画や、諭吉さんが過去に興味を示した傾向の動画を次々と提示してくれますよね。


 諭吉: ああ、それは便利だよ。いちいち探さなくても、好みのものが出てくるんだから。


 ソフィア: そうですね、確かに便利です。それは、レストランで「お客様のような方には、こちらのメニューもきっとお気に召すはずです」と、とても優秀なウェイターが、私たちの好みを知り尽くした上で、次々におすすめしてくれるようなものです。そして、そのウェイターさんは、私たちができるだけ長くお店にいて、たくさんの料理を味わってくれることを望んでいるかもしれません。


 諭吉: おいおい、俺はプラットフォームにいいように操られてるって言いたいのか?  俺はそんなに単純じゃないぞ。


 ソフィア: いいえ、諭吉さん。決して、諭吉さんが単純だとか、操られていると申し上げたいわけではないんです。ただ、その「おすすめ」の仕組みは、非常に高度な技術と、人間の心理に対する深い理解に基づいて作られています。例えば、通知がピコンと鳴ると、つい気になってスマートフォンを手に取ってしまいませんか?  あれも、「今すぐ確認しないと、何か大切なことを見逃してしまうかもしれない」という、私たちの自然な気持ちを優しく刺激しているんです。


 諭吉: うーん…まあ、通知は確かに見ちゃうな。仕事の連絡かもしれないし。


 ソフィア: ええ、重要な連絡のこともありますね。そして、そうした「見たい」「知りたい」「見逃したくない」という私たちの気持ちと、プラットフォーム側の「できるだけ長くサービスを使ってほしい」「注目を集めたい」という目的が、うまく合致することで、私たちは自然と多くの時間を費やすことになるんです。これは、誰か一人が「悪い」という話ではなく、様々な要因が絡み合った結果として生まれる「全体の流れ」のようなものなんですよ。


 諭吉: 全体の流れ、ねえ…。でも、昔からテレビだって面白ければずっと見ちゃったし、雑誌だって夢中になって読んだだろ。今に始まったことじゃないんじゃないか?  スマホが普及したから、それが手元でできるようになったってだけで。


 ソフィア: 諭吉さんのおっしゃる通り、人の注意を引きつけるメディアは昔から存在しました。ただ、今の状況が以前と大きく異なるのは、その「注意を引きつける力」の強さと、私たち一人ひとりに合わせて最適化される「きめ細やかさ」、そしてそれが「24時間いつでもどこでも」作用し続けるという点なんです。例えば、昔のテレビ番組は、家族みんなで同じものを見るのが普通でしたよね。でも今は、同じ家にいても、お父さんは経済ニュースの解説動画を、お母さんは料理のレシピ動画を、お子さんはゲーム実況を、それぞれスマートフォンで見ているかもしれません。それくらい、一人ひとりの興味に合わせて情報が届けられるようになっているんです。


 諭吉: それは、個人の好みが尊重されてるってことだろ?  いいことじゃないか。


 ソフィア: 個人の好みが反映されること自体は素晴らしい側面です。ただ、その結果として、気づかないうちに自分の見たい情報や、自分と似た意見ばかりに囲まれてしまう「フィルターバブル」という現象や、同じ意見の人たちだけで盛り上がって、他の意見を寄せ付けなくなる「エコーチェンバー」といった状況も生まれやすくなっている、という指摘もあるんですよ。これは、レストランで自分の好きなメニューばかり頼んでいたら、他の美味しい料理を知る機会を失ってしまうのに似ているかもしれません。


 諭吉: まあ、俺は色々な意見もちゃんと見てるつもりだけどな。偏った見方はしたくないし。でもさ、結局、最後は個人の問題じゃないのか?  流されるやつもいれば、俺みたいにちゃんと自分で考えてるやつもいる。それでいいんじゃないか? 


 ソフィア: 諭吉さんがご自身で考えて情報を取捨選択しようとされている姿勢は、とても重要です。ただ、先ほどお話ししたプラットフォームの「おすすめ」の仕組みや、サービスのデザインは、私たちが意識している以上に、私たちの選択に影響を与えている可能性があるんです。例えば、多くのSNSでは、画面を下にスクロールすると、次から次へと新しい情報が無限に表示されますよね。あれは、「もう少し見たら、何か面白いものがあるかもしれない」という期待感を途切れさせないための工夫の一つなんです。あるいは、動画が一つ終わると、自動的に次の関連動画が再生される機能もそうですね。そうした小さな工夫の積み重ねが、結果として私たちの利用時間を延ばし、特定の情報に触れる機会を増やしているんです。


 諭吉: うーん…確かに、おすすめされるとつい見ちゃうし、通知が来るとすぐに開いちゃうのは否定できないかもな…。特に、暇な時とかな。でも、それが即、俺の考え方まで支配してるってわけじゃないだろ。


 ソフィア: 諭吉さんの考え方そのものを、誰かが直接的に支配しているわけではありません。ご安心ください。ただ、私たちが日々触れる情報というのは、私たちの知識や価値観、そして物事の判断基準を、少しずつ形作っていく材料のようなものなんです。毎日甘いお菓子ばかり食べていたら、健康に影響が出るかもしれないのと同じように、もし偏った情報や刺激の強い情報にばかり触れ続けていると、知らず知らずのうちに、私たちの心のバランスや、社会を見る目に影響が出てしまう可能性もゼロではない、ということなんです。それは、諭吉さんが特に流されやすいということではなく、多くの方が同じように感じるように、とても巧みにデザインされているんですよ。例えば、スーパーマーケットに入ると、レジの近くにガムやお菓子が置いてありますよね。あれも、会計を待つ間に「ついで買い」を促すための、よく考えられた配置なんです。それ自体が悪いわけではないのですが、その力が非常に洗練され、かつ強力になっているのが、今の情報環境の特徴と言えるかもしれません。


 諭吉: ……じゃあ、どうすりゃいいんだよ、ソフィア。スマホを捨てるわけにもいかないし、今の世の中、情報を見ないで生きていくのも無理だろ。


 ソフィア: 諭吉さんのおっしゃる通り、スマートフォンや情報は、私たちの生活に欠かせない便利な道具です。ですから、それらを完全に断ち切る必要はありませんし、それは現実的でもありません。大切なのは、これらの道具と、もっと上手に、そして主体的に付き合っていく方法を見つけることだと、私は考えています。


 諭吉: 主体的に、か……。


 ソフィア: はい。例えば、いくつか具体的な方法が考えられますよ。押し付けがましいと思われるかもしれませんが、もしよろしければお話ししても? 


 諭吉: まあ、聞くだけなら。


 ソフィア: ありがとうございます。まず一つは、プラットフォーム側にもう少し「透明性」を持ってもらうように、私たちユーザーが声を上げることです。具体的には、「なぜこの情報が私に表示されているのか」「私のどんなデータがどのように利用されているのか」をもっと分かりやすく説明してもらうのです。これが実現すれば、諭吉さんも「これは本当に自分が見たい情報なのだろうか? 」と、一歩引いて考えるきっかけを得やすくなるかもしれません。スーパーで食品を買う時に、原材料や栄養成分表示を見て、「これは自分に合っているかな」と確認するのに似ていますね。


 二つ目は、私たち自身が、情報とどう付き合っていくかの「コツ」や「知識」を身につけることです。例えば、情報の送り手が誰で、どんな意図を持っているのかを考える癖をつける。あるいは、感情を揺さぶるような情報に接した時に、すぐに反応せずに一呼吸置く。そして、時には意識してスマートフォンから離れて、別の活動に時間を使ってみる、といったことです。これは、自動車の運転免許を取るのと同じで、便利な道具を安全に、そして上手に使いこなすための練習や学びだと考えてみてはどうでしょう。


 そして三つ目は、少し大きな話になりますが、社会全体で、「質の高い情報」や「じっくりと考える時間」、「心豊かな体験」といったものの価値を再認識し、それらがもっと尊重され、報われるような仕組みを作っていくことです。すぐに結果が出なくても、私たちの知識を深めたり、創造性を刺激したり、人との温かいつながりを育んだりするような活動に、もっと注目が集まるようになれば、短期的な刺激や注目度だけを追い求める今の流れも、少しずつ変わっていくかもしれません。


 諭吉: …なるほどな。食品表示か…。運転免許ね…。確かに、そういう見方もあるか。プラットフォームに透明性を求めるってのは、まあ、そうだよな。俺らが何見てるか知ってて色々出してくるなら、どういう理屈で出してるのかくらいは知る権利があるかもしれん。……すぐにどうこうできるとは思えないけど……まあ、ちょっとは、考えてみるよ。


 諭吉はそう言うと、スマートフォンの画面を消し、テーブルの上に置いた。そして、窓の外に目を向けた。


 諭吉: でもまあ、とりあえず、今日の晩飯は、ソフィアのおすすめじゃなくて、俺がちゃんとレシピ調べて、じっくり作ってみるかな!


 ソフィア: それは素晴らしいですね、諭吉さん。きっと美味しいものができますよ。私も楽しみにしています。

・総合評価

この作品は、内容の妥当性において現代の情報環境を的確に反映し、洞察の深さにおいて技術と心理の両面から問題を掘り下げ、論理の一貫性においてスムーズで説得力のある展開を示しています。また、AGIシミュレーターとしての完成度においては、ソフィアを通じてAGIの分析力と人間性を巧みに表現しています。これらの観点から、現代のデジタル社会に対する深い洞察と、AGIの可能性を融合させた優れた作品であると言えます。

総合的に見て、この作品は各観点で高い評価に値し、読者に情報との付き合い方を再考させる力を持った、非常に完成度の高い対話劇です。


(話が期待と違ったけど)きょ、今日のところはそれで良しとしておくぜ。

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