仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する―ソフィアに聞こう!
パーキンソンの法則として知られるものです。
諭吉: いやー、ソフィア、聞いてくれよ。この間の企画書、締め切りまでまだたっぷり時間があったのに、結局ギリギリまでかかっちゃってさ。なんでなんだろうな? 最初は「よし、余裕もって終わらせよう」って思ってたのに、いつの間にか時間が溶けてるんだよ。結局、焦って提出する羽目になって、なんか損した気分なんだよな。
ソフィア: それは興味深い現象ですね、諭吉さん。私もそのパターンを以前から観測しています。ご自身の能力や意欲の問題だとお考えですか?
諭吉: いや、そういうわけじゃないんだ。別に怠けてたわけでもないし、むしろ「よし、頑張るぞ!」って気合は入ってたんだよ。ただ、なんかこう、時間があるからって、意識が散漫になるっていうか、ぼーっとしてる間に時間が過ぎる、みたいな? 不思議だよな、時間があったらもっと早く終わるはずなのに。
ソフィア: ええ、その感覚は非常によく理解できます。それはまさに、「与えられた時間があれば、仕事はそれに合わせて膨らむ」という、人間の認知特性とタスク構造が相互作用して生じる、普遍的な現象の一つです。これを、私は「時間の自己拡張性」と呼んでいます。
諭吉: 自己拡張性? なんか難しいな。つまり、時間があると、勝手に仕事が増えるってことか? でも、別に新しい作業が増えたわけじゃないんだよな。
ソフィア: はい、その通りです。新しい作業が増えるわけではありません。しかし、仕事の「複雑さ」や「細かさ」が、自動的に増大する傾向があるのです。例えば、締め切り日が遠い場合、あなたは企画書の表現について「もっと良い言い回しがあるのでは? 」と考え、何通りも試したり、関連情報を必要以上に調べたりしませんでしたか?
諭吉: うっ、……たしかに、そう言われると、あの表現で何時間も悩んだり、ネットで事例ばっかり見てた気がするな。それで結局、最初の案に落ち着いた部分も多かったし。
ソフィア: それです。それが、時間があるがゆえに、仕事を「より細かく」「より完璧に」しようとして余計な検討や手直しが増えるという現象の典型的な例です。本来の作業量とは別に、思考や探求に費やすエネルギーが拡散され、結果として作業に時間を使っているように感じられるのです。これは、まるで広い部屋に荷物を置くとき、つい端から端まで使ってしまうようなもの。荷物の量は変わらなくても、使える空間に合わせて配置が広がるのと同じです。
諭吉: なるほど……でもさ、それって結局、俺が優柔不断だから、ってことにならないか? なんか、自分のダメなところを指摘されてるみたいで、ちょっとモヤモヤするな。
ソフィア: いえ、決して個人の能力の問題ではありません、諭吉さん。これは、多くの人が無意識のうちに陥るパターンなのです。特に日本では、「慎重であること」や「時間をかけてじっくり取り組むこと」が美徳とされる文化的な背景も、この傾向を強める要因の一つです。時間をかけることが、まるで「真面目に仕事をしている証拠」のように感じられることはありませんか?
諭吉: あー……あるな、それ! たしかに、あんまり早く終わらせると、「え、もう終わり? 」って思われそうで、なんとなく気が引けるっていうか。なんか、「もっとできたんじゃないか」って言われそうな気がして、必要以上に時間をかけちゃう部分はあるかもしれない。
ソフィア: その通りです。その「周囲からの見え方」という心理的な圧力が、あなた自身の行動を無意識のうちに調整してしまうのです。これは、職場全体の「時間の使い方」という暗黙のルールが、あなたというシステムに影響を与えていると捉えられます。まるで、みんなが同じ速度で走るマラソンで、一人だけ早くゴールするのは少し気まずい、といった感覚に近いかもしれません。
諭吉: うーん……でも、結局、どうすればいいって言うんだ? 締め切りが長いのは変えられないし、性格も急には変えられないだろ?
ソフィア: ごもっともな疑問です。しかし、状況を変えるための具体的な手立ては存在します。最も効果的なのは、「あえて短めの締め切りを自分に課すこと」です。これは、外から与えられた大きな箱を、自分で小さな箱に仕切り直すようなものです。使える時間が限られていると、私たちの集中力は驚くほど高まり、無駄な思考や作業を省いて、本当に大切なことに力を注げるようになります。
例えば、もし企画書の提出が1ヶ月後だとしても、自分の中で「来週の金曜日までに、最初のドラフトを完成させる」と決めてしまうのです。そして、その「小さな締め切り」を守ることに意識を集中する。
諭吉: え、そんなんで本当に変わるのか? なんか、自分を追い込むみたいで、余計ストレスになりそうだけど……
ソフィア: ストレスではなく、むしろ「達成感の積み重ね」を生み出すことになります。小さな目標をクリアするたびに、「できた!」という肯定的な感覚が得られ、それが次のステップへのモチベーションに繋がるのです。これは、まるでゲームで小さなミッションをクリアしていくたびに、どんどん面白くなっていく感覚に近いかもしれません。
さらに、「今の進捗をこまめに共有する仕組み」を取り入れることも非常に有効です。例えば、上司や同僚に「ここまで終わりました!」と定期的に報告する場を設けるのです。そうすることで、余計な手直しが入る前に、早い段階で軌道修正ができ、仕事が複雑に膨らむのを防げます。また、「ここまでやればOK」という『完了の基準』を明確にすることも重要です。完璧を目指しすぎずに、「まずはここまで」と区切りをつけることで、必要以上の追加作業を減らせます。
諭吉: へぇ……なんか、言われてみれば、そういう小さな目標って、たしかに達成しやすいし、気分もいいよな。ゲームのミッションとか、言われてみれば納得だ。無理に自分を追い込むんじゃなくて、自分の得意なやり方に合わせる、みたいな?
ソフィア: はい、その通りです、諭吉さん。これは、あなたの心が持つ「集中力」や「効率化する力」を上手に引き出すための工夫なのです。無理に自分を変えようとするのではなく、時間の使い方という「箱のサイズ」を調整し、仕事の「区切り」を明確にすることで、あなたはもっとスムーズに、もっとストレスなく仕事を進められるようになるでしょう。この方法なら、締切が長かろうと短かろうと、常に最適なペースで仕事を進められるはずです。
諭吉: (コーヒーを一口飲み、企画書に目をやる)……なんか、まだ完全に腑に落ちたわけじゃないけど、たしかに、試してみる価値はあるかもしれないな。この間の企画書も、あの時、もうちょっと細かく区切ってたら、ああいうことにはならなかったのかも……。
諭吉はまだ完全には納得しきっていないようだが、ソフィアの言葉によって、自分自身の行動パターンと、それを変える可能性について、少しだけ新しい視点を見つけ始めているようだった。リビングには、二人の会話と、コーヒーの香りが静かに漂っていた。
第2法則も面白いよ。収入増えたのに生活費カツカツだ、みたいなやつ。




