物語を書き続ける素敵なあなたへ
不思議なものです……
こうしてあなたのことを思いながらあなたへの手紙をしたためていると、もしかしたら遠いあの日、春の教室で目が合った、おろしたての制服を着ていたあの人へ手紙を書いているのではないかと、そんな気がしてきます。
転校して離れ離れになってから何年も文通していたのに、お互いにとりとめもないことを書いてばかりいて、「あなたって馬鹿みたい!」「君にはデリカシーが必要だ!」と、手紙の中で悪態をつきあっていたあの人と私。
ここ数年、なぜかあの人の姿ばかり思い出して、最後に受け取った『わたしね、看護婦になることにしたの。高校卒業したらお互い忙しくなるね。君もがんばりたまえ。女を泣かすなよー。バイバイ!』と鉛筆で書かれた手紙を久しぶりに読み返した時には、涙があふれて止まらなかった。
転校してから一度も会うことも電話で声を聞くこともなく、お互いに、秋風の吹く駅のホームで最後に見た互いの笑顔だけを頼りに、便箋に綴る言葉だけで甘え合っていた。
あの人と私は恋人ではなかった。あの人には何でも打ち明けることができた。あの人に、恋人を作る秘訣を尋ね、どうやって抱きしめたら女の子は一番うれしいのかを教えてもらった。きっとお互いに自分を良く見せようと思ったことは一度もなかった。どんなに無茶苦茶なことを書いても、きっとあの人は笑って許してくれるとずっと信じて、それを疑ったことも一度もなかった……
年齢を重ねて初めて、あの人の本当の姿が見えてきたのだと思います。あの人のような人は、この広い世界を懸命に探し回っても、決してどこにでもいる訳ではない。いや、一人もいないかもしれない。そういうことに、今になって気が付いたのです。
あの人の姿を思い浮かべながら「コンチェルティーノ」を書き続けてきました。
あの人の、人の心を射るようなまっすぐな眼差しと、テニスで鍛えられたしなやかで目を見張るような美しい体から生まれたのが、アオイです。ずいぶん性格は違いますが、本質は同じなのだと感じます。
あの人のことを思いながら書いた物語から、あの人が現れた。そんな気がするのです。
きっとあなたなら、年齢を重ねた者だけが知ることができる本当の心のときめきをご存じだと思います。それは、経験を積んだ者だけが初めて知ることのできる、至福です。
あなたの心が十七歳の時のように今も熱く、躍動感のある物語を書くことができるのは、きっとあなたにとっての「あの人」が、心の中で生き生きと生きているからなのでしょう。あなたの書く十七歳の物語は決して虚構の世界ではありません。そこに確かに弾力のある肉体と熱い心を持った十七歳が生きています。
それが文学の力だと、あなたも知っている。
真実は、きっとその中にあると思うのです。
物語を書き続ける素敵なあなたへ
物語を書き続ける者より




