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十三魔女と偽りの聖女  作者: 松茸
第二部 自治区編

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自治区編34 白い魔女たちの思惑

 カルナック前線基地にてミリザはベルデ、モニカ、サマンドラたちと合流した。


「もう制圧しちゃってるとは、さすがミリザね」


 モニカは素直に褒め称える。

 なんか私あんまり活躍してないなあ、と思うのだが仕方のないことではあった。

 ベルデとミリザ――六芒星の【魔女】が二人もいるのだから、私風情の出る幕がなくて当然だ。悔しいがそれが事実であった。


「ボルカにも会ったんだけど、またどっか行っちゃったわ」

「相変わらず自由でいいですわね。やはり裏切ったというのは誤情報でしたか」


 ベルデは最初からボルカの裏切りなど信じていなかったようだ。


「あとはメリクレオスね」

「そう……でも気になるのは【白い魔女】たちのこと。彼女たちに比べればメリクレオスなんて小物にすぎない」


 いまわかっているのは【白い魔女】の名前がノーラということ。

 その下に三人の配下がおり、そのうちの二人がイルマとザンザということだけだった。


「イルマがボルカに化けていたということですが、であれば二人は面識があったのでは」

「そうかもしれない。ボルカは詳しく話してくれなかったけど」

「彼女は彼女なりに王国の敵を探っていたということでしょうか」


 ボルカは異空間に飛ばされていた、と言っていた。恐らく【白い魔女】たちの仕業だろう。彼女たちはボルカと戦い、その立ち居振る舞い、戦力や戦法などを正確に把握した。そのうえで化けて現れた。自治区が無謀な戦争に踏み切ったのも、【第一魔女】が王国を裏切ったとの情報があればこそであったのかもしれない。


「私が会ったのは偽のボルカだったのね。偽物にやられるとは不覚……」


 モニカがふくれる。その頭をミリザが撫でる。


「私もやられたわ。イルマはボルカに引けを取らない実力だった」

「恐らくはザンザという者も同等かそれ以上の力量を持っていると見るべきね」

「そうですね……」


 ミリザの脳裏に浮かぶのはセシルのこと。彼女はザンザに育てられたと言っていた。それが本当ならばザンザは恐るべき敵に違いない。そしてミリザはセシルの仇ということになる。いずれ戦いは避けられないだろう。


「でも彼女たちはどうも本気で私たちを潰そうとはしていないように思える」

「どういうこと?」

「彼女たちが全面的に自治区に協力していれば、私たちはもっと追い込まれているはず」

「そういえば私もとどめは刺されなかった」


 モニカが指摘する。


「彼女たちの狙いは何かしら?」


 ベルデが問う。


「わかりませんが……ギルテをそそのかしたように、メリクレオスも唆されているだけなのかも。ノーラの言葉を借りれば、心の闇に触れただけ、ということになるかもしれません」


「メリクレオスを使嗾しそうして彼女たちは何を手に入れるの?」


 モニカがいぶかる。


「恐らくは……状況そのもの」


 ベルデが呟く。ミリザたちが彼女を見る。


「メリクレオスを使って自治区を戦争に踏み切らせたこと、それこそが彼女たちの狙いだと?」

「そう。そしてその結果自体はどうでもいいのでしょう」

「自治区が王国に戦争を仕掛けたという事実こそが肝要ってことね」


 モニカは言う。なんとなくわかってきたような気がする。

 既成事実の作成こそが【白い魔女】たちの狙い。その意味するところは――


きたるべき帝国との決戦に向けての布石というわけですね」


「間違いないでしょう。アルカロンド全体に戦争の気運を高めること。それによって積年の恨みを抱える帝国は、王国に決戦を挑む理由をまたひとつ手に入れたことになる」


「何よそれ!」


 突然サマンドラがベルデの話をさえぎる。

 ベルデ、ミリザ、モニカがサマンドラに注目する。彼女は怒っていた。


「じゃあ自治区は体のいい当て馬にされたってこと? 帝国と王国が争うよう仕向けるために? そんなのふざけてるわよ!」


「サマンドラ……」


「自治区には二百万のひとが暮らしてる。一歩間違えたらみんな死んじゃうようなそんな企みが、ただの捨て駒にすぎないなんて、そんなの許せるわけない!」


「その通りよ、サマンドラ」


 ミリザは告げる。


「だから私たちは民衆には手を出さない。狙うのはあくまでもメリクレオスとその一味。そうですよね、ベルデ?」


 ベルデは頷く。


「王国の兵士たちはここに置いていきます。軍隊同士で争って無駄に命を散らすことはない。私たちだけで、速やかにメリクレオスの首を取りましょう」


「やれやれ、これだから【魔女】は怖いんだ」


 スパーダがぼやく。

 自治区の中心部にはまだ三万の兵士がいるはず。そこに十人で突っ込んでいこうとは。


 隣を見ればジークは当然のような顔をしている。

 ランドは怯えているのかワクワクしているのかわからない。

 キャッセは難しい顔をして髪をかき上げている。ヤウダは気負いすぎだ。


 そしてオーレンはといえば、ミリザの横に子犬のように付き添っている。

 その瞳はまぶしいくらいに輝いている。


「しゃーねえ、おれもついていくしかないか」


 スパーダは覚悟を決める。この戦争もいよいよ大詰めらしい。

 最終的にどう転ぶかはわからないが、【魔女】がこれだけいれば悪いようにはならないだろう。

 無謀な戦いに臨む身としては、そう思うより他ないのであった。


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